形式花火

倉井さとり

収斂歌 〝シュウレンカ〟

どうせ最後なら 十字じゅうじのように語りましょう?

進法しんほうじゃ物足りない あなたとわたしの難聴なんちょうゲーム

言葉の陰火いんかを口移しにするような 黄身きみ卵白らんぱく心中しんじゅう前夜ぜんや

混ざり合えたときには 血のあぶくみたいに消えずに残ることでしょう


森さえざわつく あざなえる雨空あまぞら静淵せいえん

背中合わせのおといろ のようなかわきがいとおしい

公転こうてんじゅうに切り分け 生者せいじゃよそお自己じこを忘れ

霊園れいえん静寂しじま彷徨さまよう 死にゆく花を手折たおるように

冷雨れいうに浮かぶ面影おもかげに 燐寸まっちかすれる残光ざんこうを明け渡しながら


耳をふさいでも 沈黙ちんもくからはのがれられない

手にした言葉は もうき出せない

生花せいかむが最果さいはて まどろみえた水平線すいへいせん

きざむのなら そっとなかから埋没まいぼつしよう


いしれる春の明敏めいびん

言い知れぬ夏の影

素知そしらぬ秋の消失しょうしつ

降りしきる冬の外殻がいかく


あなたの喉舌こうぜつ 内容物ないようぶつ信仰心しんこうしん

あなたの目蓋まぶた 孤独こどく貝柱かいばしら

あなたの内耳ないじ 巻貝まきがいさざなみ

あなたの鼻腔びくう 真珠しんじゅ内核ないかく

頭蓋とうがいのあなた 座礁ざしょうした大海原おおうなばら


夜におぼれた桜の大樹たいじゅ

語るに落ちた蜃気楼しんきろう

鳥葬ちょうそうのぞむ赤とんぼ

くずれながれる死蝋しろう微笑ほほえ


どうせ あざなの語り

法じゃ足りない あなたとわたし

葉陰はかげを口にする 黄白おうびゃく中夜ちゅうや

混合こんごうとは あわに消えることでしょう


ざわつく あるそらふち

中合なかあい音色ねいろ つぶさ渇愛かつあい

うたたとおに分け せいを忘れ

れいにかよう 死花しにばなを手に

浮影ふえいに 燐光りんこうを渡しながら


塞いで 逃れ

言葉は もう出ない

花笑はなえて まみえた水線すいせん

刻むの そっとぼっしよう

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