4話 前兆

明乃森高等学校側の控え室。


「じゃあ、東坂さん、俺、先言ってるんで。」

一色はとぼとぼしながら控え室を後にした。


一色が控え室を去ったのを確認した後、

「おい! 高松、山中、なんだ? あの守備は!!」

と談笑する高松と山中に問いただした。


「守備、ああ、悪かったな!!」

高松は笑顔で接してきた。


「俺じゃねえよ! 一色に謝れよ!!」

東坂は激怒していた。


「なんで、そんなに怒るの? 意味わかんねえな。こいつ」

山中はニヤニヤしながら言ってきた。


「意味わかんねえのはお前らだ。なんで一色に謝らねえんだよ!!」

東坂は2人の態度にさらに激怒した。


「うるせえな。何でもいいだろ」

高松はめんどくさそうに答えると、


「てめぇ!! 」

と東坂は高松の胸ぐらを掴み、殴ろうとした。


「ああ、先輩。暴力はダメだよ。殴ったら監督に言いつけちゃおうかなーーー」

「君の代わりはいくらでもいる。暴力行為したら、停学処分。

監督からの信用もガタ落ち。

甲子園ではベンチ入りできないだろうね。 それでも、殴っていいの?」


と高松は言った。君の代わりはいるって……ブーメランだろ!!

お前が言うセリフじゃねえだろ!!

という気持ちが溢れてきたが、その気持ちを抑えて、

東坂は高松の胸ぐらを掴むのをやめた。そして、野球部用のバックを背負い、

控え室を出ていった。


「俺を殴って停学処分になれよ。東坂」

「結局殴らないのかよ。つまんな。チキンだな」

と、高松と山中はヘラヘラと笑っていた。


「おい、全員、今からよく聞け!」

と部長の友岡が東坂、一色以外の全員に命令する。


「明日の夜9時、俺んち集合な。」


「そうか……そういや、あの映像観るんですよね。今日」

と高松が理解する。


「そうだ。観たい人は俺んち集合な。まぁ、観たい人は一色と東坂以外全員だろうけど……」


と、友岡が言うと、全員が「はい」と返事した。


東坂、一色は野球部員から省かれるのだった。


試合後、一色たち明乃森高等学校硬式野球部はホテルで一泊した。

翌日、バスに乗り、宮城県へと帰っていった。


宮城県へと帰ってきたその日。明乃森高等学校敷地内。


東坂は、校門の前でとある人を待っていた。


「うらやましいっすね。」

と私服姿の一色がやってくる。


「一色、お前は呼んでないからね」

「わかってますよ!!」


と一色は笑いながら言った。


「……まぁ、わかってますよ……鈴森さんでしょ。待ってるの」

と一色はニヤニヤしながらからかった。


鈴森さん……鈴森理央。硬式野球部の紅一点。2年生の女子マネージャーだ。

硬式野球部員から何人ものアプローチを受けるほどの可愛い女の子である。

そして、鈴森は東坂の彼氏でもある。

「……よくわかったな。お前。」

と東坂は少し照れていた。



「鈴森さんと東坂さん、付き合ってるんですよね!! いや~羨ましいっすね!!」

「……どうも」

「これからどこに行くんですか?」

「食事……なんかご飯食べに行こう!って理央さんの方から誘われちゃって……」

「食事っすか! いいですね~」

と一色はウキウキしながら言う。なんだか嬉しそうだ。

そして、少し間を置いた後、一色はある質問をしてきた。


「……どうやったら、彼女できるんですか?」

「なぜ、その質問を俺に聞く……」

「だって、東坂さんは彼女持ちだし、なんかの参考になるかと……」

「知るか、自分で考えろ」

と照れながら質問してくる一色に、東坂の冷たい態度であしらう。

そんな東坂の態度に、一色は納得いかない様子をみせる。


「だっておかしいじゃないですか! 甲子園出場確実視の高校のエース投手ですよ!

これはモテモテ不可避じゃないです!! でも一向に脈絡なしなんですよ!!

なんで控え捕手の東坂さんに彼女ができて、俺にはできないんですか!!」

「だから知るかって……」

と不満が爆発する一色に、東坂は呆れた様子で言った。


「まずな……お前に好きな人はいるのか? まずはそこからだろ。

まぁ、自分の好意からではなく、相手の好意から付き合うこともあるだろうが、結局は自分自身の気持ちが大事。

好きな人でもない人と付き合うのはかなりキツイし長続きしないぞ……」

と東坂が苦言すると、


「一応、好きな人はいるんですよ」

「おっ! 一色にも好きな人がいるのな……」

「でも……好きな人が画面から出てこないんですよ!」

と一色が見せたスマホの画面には、『ようこそ実力至上主義の教室へ』の

軽井沢恵が映し出されていた。

「はい、お前はさっさと帰れ、夜遅いから」


一色のスマホを見た東坂は、完全に呆れた様子だった。

「ちょちょちょっと待ってくださいって!! 

どうやったら軽井沢恵をこの世界に召喚させることができるんでしょうか!!」

「できるわけないだろ!!大体、お前、前は『はたらく魔王さま!』の遊佐恵美が好きとか言っていなかったか?あ、そういやたしか、その前は『冴えない彼女の育てかた』の加藤恵、その前は『俺ガイル』の由比ヶ浜結衣……ってどんだけ推しが変わってるんだよ!!!」

と東坂はツッコミする。


「だいたいな……仮に軽井沢恵を召喚できたとしても、

軽井沢恵は(ピーーー)だから、どっちにしろ付き合うのは無理」

「それ、完全なネタバレになってません?」

「(ピーーーー)で規制しといたから大丈夫だ」

と東坂はゼェゼェと疲れた様子で反論した。


「やっぱり、可愛い彼女を手に入れた東坂さん、羨ましいわ~」

と羨ましそうに言う一色に

「はいはい。わかった、わかったから、

さっさと帰れ!もうすぐ理央さんが来るから!!」

と東坂は軽くあしらい、一色を強制的に帰そうとした。

一色は不機嫌そうな顔するも、東坂に従うことにした。


「鈴森さんとの食事のこと、あとで詳しく話してくださいね!!」

「誰が話すか!!」

と言い残し、一色は帰っていった。東坂は大きく息を吐いていた。

すると、

「一色くんと何を話していたの?」

とひょいとやってきたのは鈴森理央さんだ。

「って!おい!! もう来てたのかよ!!」

「へへへ……ちょっと隠れたところでこっそりとね……聞いちゃってたのよね」

と鈴森がニヤニヤしながらやってきた。そんなひょいとやってきた鈴森に対して東坂は驚いていたようだ。

そして、さすが、可愛いと評判の鈴森さん。ニヤニヤしている表情がめっちゃ可愛い。

「いい関係だね。一色くんとひろちゃん」

「……そうか?」

「そうだよ。ひろちゃんがあんなに楽しそうに話してるの、一色くんと私の時ぐらいでしょ!!」


鈴森にそう言われると、東坂は完全にタジタジになっていた。


「……まぁ、一色とは話してて楽しいからな……」

「ふふふ……認めたね!」

「う、うるせえ!!」

鈴森のニヤニヤっぷりに東坂は顔が赤くなっていた。


「じゃあ、ご飯、食べに行こうか!」 

「そ、そうだな……」

と鈴森言い、顔が赤くなっている東坂を連れて、一緒に、ファミレスへと向かっていった。

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