かつて少女だった者達の生と死

 「巨大災害以降、現代とは死生観・生命観が変わってしまった世界」「かつて少女だった主人公達の再会、そして天才少女だった一人が欠けてしまった三人組」という骨子の類似性から、読み始める際にはやはり伊藤計劃『<harmony/>』の先入観がありましたが、読み進めるごとに相違点が浮き彫りになりました。
 それはひとえに、ジャンルに掲げる「中華風SF」が醸し出す雰囲気や思想の違いからなるものだと思います。

 内容とは若干ズレるかもしれませんが、不老不死を夢見る文化は数多かれど、始皇帝の不老不死探求に始まり仙人を志す道教など、中国の文化と不老不死は切っても切れない繋がりを持っています。
 また不老不死は現代においても命題と言えるでしょう。たびたび倫理との衝突を繰り返しつつも、猫の腎臓病改善によって寿命が延びることが話題になるなど、良し悪しを抜きにしても注目を集めています。
 「中華風SF」が内包する新旧生命観の広大なテーマ性を、かつての少女達と照応させる様は、マクロコスモスとミクロコスモスの概念にも似ています。鋭くも繊細な筆致で描き出される本作は、まさしく傑作と呼ぶに値します。かゆいところに届くルビのおかげで、中国語の名称に馴染みのない方にも触れやすく、是非読んでもらいたい珠玉の名作です。

 蛇足ですが、本作を収録したアンソロジーはBOOTHにてpdf形態で無料頒布されているため、こちらもオススメです。

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