第7話、フルダイブでロールプレイするかのように青春時代へ
「あ、そだ。それで思い出したってわけじゃないけど、今から学園に行くなら俊兄着替えないと。先生に何か言われちゃうよ?」
何だかんだで話し込んでしまって、未だシュンちゃんの部屋。
彼女が言うには、本当はシュン兄なる人物と相部屋とのことで。
流石に大人として、これは野宿が確定されたなぁ、なんて思っていたところに降ってえきたのは、シュンちゃんのそんな言葉。
「え~? べつにあゆは気にしないよ?」
それはぼくもそうだけどって頷きあう二人を見て、オレは改めて自分を省みてみる。
オレは、しっかりパジャマ(用ジャージ)を着ていらっしゃった。
「あれっ? なんでっ!? ってか、着替えとは?」
「うん、俊兄の部屋用意したから、そこに制服があるよ」
「そーなんだ。じゃ、ちょっと着替えてくるね」
部屋に服が用意してあるのではなく、部屋用意したというシュンちゃんの言葉に。
野宿をしなくてすむとほっとしつつも、妙な不安が拭えないまま、示されたこれまた芸術品のような扉の先へと行こうとすると。
その後にとてとてとついてくる亜柚ちゃんがいて。
「あれ? 他に何か用事でも?」
「うんっ、おきがえ手伝ってあげたほうがいいかなっておもったの」
「あ、そっか。じゃあ、ぼくもっ」
当たり前のようにそう言ってくる亜柚ちゃん、そしてそれに続こうとするシュンちゃん。
「けっ、けけ結構ですっ!」
オレはおんどりのようにわなないて、ダッシュで部屋の中に入ると、そのまま後ろ手に扉を閉める。
そんなに遠慮しなくてもいいのにとか、にわとりさんのまね~とか、それらの言葉をとにかくスルーして、用意してもらったという服、または部屋を見回してみた。
それはまさに、昨日引っ越してきたばかりで荷造りを終えたばかりです、といった光景。
調度品一つ一つが仕事場で使うようなセレブなものであることを考えなければ、
一般的なアパートなどに常備されているものと同じだろう。
その中に、あるクローゼット。
分かりやすくハンガーにかけられ用意された制服を目にして。わけの分からない焦燥感が増してくる。
しかし、それについて考えている暇もないし、あまり考えたくなかったので、
オレ」はさっさと制服に着替えてしまうことにした。
そして、俺が備え付けの洗面所で洗顔もろもろをすまし、ものの5分で着替えを終えて部屋から出ると、まるでオレのドレスアップを待ち構えていたかのようなシュンちゃんと亜柚ちゃんと目が合った。
「ど、どうかな? 似合ってるかい?」
「……っ」
「……」
オレはおどけてそう言うが、何故か二人はじっとこっちを見つめたまま何も言ってくれなかった。
「おーい、二人とも?リアクションしてくれないと、お兄さん悲しいんだけど」
「ふぇっ」
「……ぐすっ」
オレがリアクション求むって言葉を続けると、返ってきたのは二人の今にも泣いてしまいそうな顔だった。
って、なんでっ!? そんな泣くほど似合ってないのか!?
この場末のヒーローみたいな青いマントと、黄色い変身バッチみたいなのと、キャンディの包装紙みたいなステッキが、オレに激しく似合っていないからかっ!?
「あ、えっと、そんな泣くほど服に着られていたかな?」
オレがおそるおそる、探るようにそう言うと、二人は全く同じタイミングでぶんぶんと首を振った。
「ううんっ、とっても似合ってるよ、俊兄!」
「かっこいいよ、俊お兄ちゃんっ!」
「あー、なら良かったよ」
じゃあ泣くほどきまっていたかというと、ヒジョウにビミョウなわけなんだけど。
打って変わって二人の喜びこぼれるかのような、泣き笑いの表情を見てしまうと、そうとしか言えなくなる。
これも、さっきのごっこ……演技の延長なんだろかとは思ったけど、涙の理由を聞くの当然のようにはばかられて。
「じゃあ、行こっ、俊お兄ちゃん!」
「レッツゴーだねっ!」
そのままリアクションに迷っていたオレは。
左手をシュンちゃん、右手を亜柚ちゃんにさっとつながれて。
さながら壊れかけた操り人形のように、引きずられて。
改めまして部屋を出る羽目になったのだった……。
(第8話につづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます