第7話

 1階はノルマがなく、ゲートを潜ればそれだけでオッケーで、晴れてチュートリアル終了となる。

「アンドロマリウス、気をつけて。やつに気づかれれば一巻の終わりだからね」

「分かってるよ」

「まずいっ!? 見つかったわよ、早く逃げて!!」

 大地が揺れるほどの地響きを鳴らしながら走ってくる三メートルを越す巨人のモンスター。

 その皮膚は真っ赤な鱗で覆われて大鉈を片手に初心者を無慈悲に狩る存在、リザードブッチャーJr。

 こいつは初心者が倒せるような設定になっていない。

 チュートリアルの最後は強力なモンスターに出会ったときは逃げましょうという運営からのメッセージ、この階では誰もが必死になって逃げてゲートを目指す。


「しゃぁぁぁぁ、行くぞぉぉぉぉぉぉ」

「えっ、えっ、嘘でしょ、冗談でしょ!?」

 俺はリザードブッチャーJrに立ち向かっていく。

 この階層に来る前にステータスも武器も弄ってきている。

 武器はゴブリンからドロップしたアサシンナイフ。

 ステータスは攻撃全振りから幸運全振りだ。


 こいつの攻撃パターンは全て頭に入っている。

 右肩がピクッと動けば大鉈の振り下ろし、一瞬でも遅れれば回避が間に合わない。

 スレスレで躱してアサシンナイフでの攻撃。


 カァァァァン。


 甲高い音が響き、アサシンナイフが鱗に弾かれた。

 うん、二撃目を避けることはできない。

 無慈悲にも大鉈は俺の体を両断した。


「ちょっとあんた、どういうつもりなのよ、あんなに注意したのに、あいつを倒すなんて不可能なの、わかった?」

「ふふふふっ、あはははははは、これは幸先がいいぞ!!」

 チュートリアルの塔は死んでもペナルティがなくすぐにその階層の入り口付近に復活できる。

 そして、アイテムボックスには竜鱗りゅうりんが入っている。

 竜鱗はリザードブッチャーJrのドロップアイテムでストレージ上限は30、あと29枚の竜鱗を獲得したい。

 そうすれば序盤の攻略が余裕、それどころか一気にランカーに追いつける。


 入手方法は簡単で必要なアイテムはスティールのついたアサシンナイフ。

 スティールは初撃でのみ発動可能のスキルで低確率でドロップアイテムを獲得することができる。

 次に重要なのがレベル10であること。

 スティールの特性上、アイテムのランクと自身のレベルを参照にしているため、レベルが9以下なら成功しても何も盗むことができない。

 幸運値を最大にしたのはスキル成功の確率を上げるためだ。

 スティールは成功、失敗に関わらず一個体に一度しか使えないスキル。

 しかし、これには抜け道があって自分が死亡すればリセットされるのである。

 スキル発動に必要なクールタイムも同時にリセットされるのですぐに再び挑戦することができる。


 こんな到底誰も思いつかないし、辿り着けない方法は前世でもプレイヤーたちが気づくことはなかった。

 しかし、ルミナスオンライン十周年記念で開発陣が隠し要素暴露大会で披露していたのだ。

 そんなん誰が気づくんだよと総ツッコミを入れられていた。

 開発陣は安心して欲しい。

 きっちりと俺が回収してやるからな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る