第5話 マルシェに出店!

 翌日、ジャングルジムで綾菜は昨日の出来事をA市案件のみんなに話した。

 さくらが来れなくなった理由や、過去に不登校や引きこもりになったこと。

 それを聞いた相川は、


「あのときは俺も苛ついていてつい怒鳴ってしまって…申し訳ないことをしてしまった」


と反省していた。


「まあ、過ぎたことはしょうがないじゃない」


邦恵が優しく微笑み、


「それよりもさくらちゃんが戻ってきやすいように何かしたいわよねぇ」


と呟く。


 綾菜の話では、さくらは怒鳴り声に恐怖心を感じたものの、綾菜や相川が悪い人だとは思っておらず、もう少し気持ちが落ち着いてこれば戻ってこれそうだとのことだった。

 そこへ、安田がやってきた。


「あ、平井さん。ちょっとお話があるんですけど……平井さんって、趣味でアクセサリーを作ってるんですよね?」


なにやら、綾菜に話があるようだ。


 安田の話では、安田の知り合いが主催する《桜ヶ丘パークマルシェ》がジャングルジムの近くの桜ヶ丘パークでもうすぐ開催予定だが、何店舗かキャンセルが出てしまい空きがあるため、そこに出店してほしいと頼まれたとのこと。

 安田は出店するアイデアが浮かばず、綾菜がアクセサリーを作っていることを思い出して声をかけたのだった。


「綾菜ちゃん、いい話じゃない? マルシェに綾菜ちゃんのアクセサリーを販売できれば宣伝にもなるし、今後ゴミでできたアクセサリーが人気になるかもよ」


邦恵が綾菜に言った。

その時、勇樹はあることを思い付く。


「あの……、僕、ちょっと良いことを思い付いたんですけど……」


みんなの視線が勇樹に集まる。


「このマルシェに、A市案件のみんなで出店してみませんか? さくらちゃんもみんなと一緒にマルシェをやれば、よりみんなとの距離が縮まりそうだし、仕事もしやすくなるんじゃないかなって思って。そうすれば、さくらちゃんも戻ってきやすいだろうし」


注目された勇樹は緊張しながら提案する。


「それすごい楽しそう!」


「ナイスアイデアだね!」


 みんながやる気になり、この日の仕事終わりに早速打ち合わせを始めた。綾菜と邦恵は帰らないといけないため、勇樹、奏太、相川、安田の男4人でA市案件の仕事場で話し合うことになった。


「まず、綾菜ちゃんのアクセサリーは絶対売りたいよね」


 初めからそれを考えていた安田は、まず綾菜のアクセサリー販売を提案した。それにはみんな賛成した。


「もしまだ出店できるなら、調理師の奏太さんが作るスイーツとか出したら人気出るんじゃないですかね?」


勇樹が言う。


「スイーツか……やってみようかな」


奏太も乗り気になっている。


「それなら、松本さんも料理が得意みたいだから、目黒くんのスイーツ&松本さんの料理を出すのはどうかな?」


 相川は、奏太のスイーツの他に邦恵の料理を出すことも提案した。


 翌日、打ち合わせで出た意見を邦恵と綾菜にも話した。その結果、一つのブースで綾菜のアクセサリー販売を、もう一つのブースで奏太と邦恵のスイーツと料理を販売することになり、勇樹、相川、さくら、安田はそれぞれスタッフとして2つのブースを手伝うことになった。


 さくらには綾菜から電話でマルシェのことを伝えてもらった。さくらは、私にできる範囲でよければ、手伝い頑張る、と言ってくれたそうだ。

 マルシェ当日までは、仕事終わりに残れる人が残ってブースの装飾や必要な物の準備に取り組んだ。


「なんだか学生の頃の文化祭みたいで楽しいですね」


勇樹が学生時代を懐かしむ。


「中山くんなんてまだまだ最近のことじゃないか。俺は数十年前だからなぁ。かなり懐かしい感覚だよ」


相川さんは遠い目をして言った。




 桜ヶ丘パークマルシェ当日、ジャングルジムには安田と勇樹、奏太の姿があった。ブースで使う装飾品や備品を運び出す準備をしていた。

 安田が、邦恵は旦那さんの車で材料を積んで直接会場に向かうと言っていた。


そこへ相川もやってきて、


「平井さんはアクセサリーを一式持ってブースの準備をしに行ったよ」


 と教えてくれた。勇樹達も装飾品や備品などを安田の車に積み桜ヶ丘パークに向かった。


 《桜ヶ丘パークマルシェ》と書かれた看板に、沢山のブースが並んでいる。他のブース出店者も準備中だが、見たところ洋服や染め物、アクセサリー販売に、手作りのぬいぐるみやハンドメイド作品の販売、スイーツやドリンクなど様々なブースがあった。


 自分達のブースの方へ行くと、邦恵と邦恵の旦那さん、綾菜がいた。

 その横に、さくらの姿もあった。綾菜が


「あ、みんな。こっちこっち!」


と手を振っている。


 綾菜のアクセサリー販売と、奏太のスイーツ・邦恵の料理のブースは隣同士で、お互いのブースを手伝いながら一緒にできる。綾菜のアクセサリーは一通りセッティングされており、準備万端。

 奏太・邦恵の方も準備が進んでいる。


「さくらちゃん、久しぶり」


「勇樹さん、お久しぶりです」


「今日はよろしくね」


「奏太さん、よろしくお願いします」


 久しぶりのさくらとA市案件のメンバーが挨拶し、さくらは改めて急に仕事を休んでしまったことを詫びた。

 みんなは笑顔でさくらのことを迎えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る