第5話

「ただいまー!」

「おじゃまします。」

「はーい!なつちゃんいらっしゃい!」

みゆきさんは元気そうだった。いつもの感じで迎え入れてくれた。ただ、部屋の中にはもう一人いた。40代後半くらいの見知らぬ男の人だった。

「なつ、紹介するな。母さんの彼氏の宮野さん。宮野さん、こちら俺の彼女のなつ。」

「こんにちは、宮野です。」

「こんにちは、原田なつです。」

あ、みゆきさんの彼氏さんか!てことは赤ちゃんのお父さん?

「原田なつさん?ああいえ、この辺り原田さん多いですね。僕の知り合いにもいて、、」

「あ、そうですね。同じ学年にも私ともう一人いますし。」

この時、なんかそんな軽い薄い会話を交わした気がする。

「なつちゃんあのね、もう恭介から聞いてるかもしれないんだけど、、、。」

来た、赤ちゃんの報告だ!私はわくわくしていた。

「私達ね、来月引っ越すの。恭介はここに残るから、宜しくね。」

、、、、、え?私は思っていた言葉と違いすぎて理解できなかった。え?どういうこと?引っ越し?赤ちゃんじゃなくて引っ越し?そして恭介は残る?宜しく?みゆきさんと恭介は別々になるってこと?なんで?聞き間違いかな?

「なつ。」

混乱している私の肩に、恭介が手を乗せた。

「俺は今まで通りこの家に住むから。何も変わらないよ、大丈夫。」

そう言った恭介の表情は、笑顔だった。いや、今思えばやっぱりこれはとっても悲しい顔だったと思う。私はその瞬間涙がでそうになったのを覚えているから。

「えっと、そうなんですね。でも近くですよね?恭介くんまだ高校生だし、一人暮らしなんて、ね?」

「いや、海外らしい。もう会えなくなるから、最後になつにも挨拶したいって母さんが。」

え?海外?うそでしょ?

「なつちゃん、今までありがとうね。恭介のことは、これからも宜しくね。」

待って嘘でしょ?

「俺はさ、なついたら大丈夫だから。これからも宜しく頼むよ!なつ!」

そう言って、恭介はにかっとまた笑顔をみせた。私は、つられてにこってした。恭介が泣いてないのに、笑ってみせてるのに、私が泣くのは違うと思って、こらえた。

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