3 同期は追求される

「え~ご指名貰いました、ザンディです。このたびはランダース下級指揮官補の奥方のエイムさんが実家に戻ってしまったということに関して、ちょっと私達井戸端会議衆から言いたいことがあるんですよ」


 この広場には大きな共同洗濯場もある。

 そこで井戸端会議が行われ、女達はとりとめの無い話の中から、様々な意見を出すのだ、とネスリーは何となく言っていた気がする。

 洗濯と干し物は時間がかかるから、黙っていちゃやっていられない、ということだった。

 特に俺達の任務は何かと汗をかくもので、洗濯物が出やすいことから。


「ランダース、何も貴方一人を責めようって訳ではないから安心してね」


 団長の奥様はそうおっしゃるが、にこやか過ぎて逆に怖い。

 そしてこの台詞からして、俺達若い夫達に同時にお灸を据えようとするのも透けて見える……

 ザンディさんは続ける。


「エイムさんはここ二ヶ月くらいずっと憂鬱そうな顔で洗濯をしていたんですよ。手は動かすんですがね、なかなか会話に乗ってこない。まああのひとは元々大人しいですからね、ネスリーさんが五つ言うごとに一つ言うかどうかですし」


 どっと女達の中から笑い声が上がる。


「まあだから、色々貯め込んでいたと思うんですよ。置き手紙、何てありました?」

「……疲れてしまった、自由にしてくれ、って……」

「で、どう思ったんですかね?」

「訳がわからない」


 ザンディさんは俺にも視線をよこす。


「いや、俺もエイムさんのことは判らないよ!」

「まあそうですね。でもネスリーさんは今そうなってないでしょう? さて何が違うんでしょうねえ」


 皆さんどう思います? とザンディさんは女衆に問いかけた。

 すると次々にランダースに向かって皆が手を挙げて問いかける。


「はい! 手を上げたことは? はたいたり殴ったり」

「無い! 無いですよ! そんなこと! 絶対!」

「はい! えーと、帰りが遅くなるのが増えたとか?」

「結婚してからずっと一緒くらいですよ。そりゃ、仕事が長引いて、というのはそれなりにあるけど、それはガレルも同じだし」

「それじゃ、夜の生活がおろそかになるのは」

「……普通です!」


 奴の顔が赤くなる。

 そう、奴は何だかんだ言って基本は純情なのだ。


「普通ってどのくらい?」


 ちなみにそれを追求したのはネスリーだった。


「……エイムは朝早くて夜は弱いから、俺がちゃんと早く帰ることができて、月のものに障らない時には」


 ふむふむ、と女達は頷いた。


「ん? 朝早いってお前言ったよな」


 俺はふとそこに気付いた。


「うちは俺とネスリー、一緒くらいに起きるけど、お前のとこは違うのか?」

「あ? ああ。朝飯の支度だって言って…… そう言えば、お前よくあれだけで保つな」


 ぽつん、とランダースは言った。

 今朝の朝飯はうちで食わせてやったのだ。


「ランダースさん! うちはいつもああですけど。と言うか、普通の家の朝食はあんなものです!」


 ちなみに今朝奴を加えて一緒に食べたのは、一週間に一度共同のかまどで焼く平たいパン、チーズ、豆と野菜のスープ、それに塩漬け肉の薄切りと温めた牛乳。

 スープは昨日の余りに少し足したものだし、あとは保存の効くものばかりだ。


「えっ」


 ランダースは本気で驚いた様だった。


「そうだねえ。大概朝なんて、忙しいし、そんなものだよ」

「子供ができりゃ、もっと適当になるよ」

「そうだよ。そもそも夜泣きでなかなか眠ることができないっていうのに、朝絶対早くなんて、そらメイドさんいりゃあねえ」

「ねえ」

「あら、そう言われてしまうと」

「奥様はいいんですよ! 私等にはできないお仕事がとても沢山!」

「奥様のお机にはとっても沢山の書類があるとか」

「うっわ~考えただけでぞっとするよ」

「ところでランダースさんあんたのとこの朝ご飯はどんなのだい?」

「あ…… うちは、大概まずパンは一緒なんですが、温めて柔らかくしたり、季節のジャムを添えたり、……目玉焼きは半熟だし、あと昨晩の煮込みはうちも使うんですが、それを皿に入れて、チーズやパン種を乗せて焼くとか……」

「うわ、何って手間!」

「あと、新鮮な果物がたくさん送られてきた時には、ジュースにしてくれることも…… あ、それから栄養があるからと……」


 はいはいはいはいごちそうさま、と皆手をひらひらとさせた。

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