鈍感なのは知ってます。ただ美味しいくらいは言いましょうよ。

江戸川ばた散歩

1 同期の奥さんが出ていった

 ある朝、どんどんどんと扉が叩かれる音で俺は目が覚めた。


「え? 何どうしたの?」


 やはり飛び起きてしまった妻のネスリーは驚きつつも服を着る。


「誰っすか?」


 俺は尋ねた。


「ガレル! 俺だよ俺。ランダースだよ!」

「おお、どうしたんだ入れ……」


 扉を開けた瞬間、俺は唖然とした。

 ランダースは同じ騎士宿舎に住む同僚だ。

 いつも出勤してくる時にはぴしっと服も髪も髭もキメてくる男が、夜着のまま、髪はくしゃくしゃ、起き抜けの髭もぼうぼう。

 そして手に何やら紙を掴んでいた。

 ふらふら、と入って来る奴に、ネスリーは椅子を無言で出した。

 どさ、と座る奴は力無くうなだれ、テーブルの上に手の中の紙を置いた。


「見てくれ」

「いいのか?」

「ああ。何だってこんなのがあるのか俺はさっぱり判らない」


 それは綺麗…… とまでは言いがたいが、生真面目な文字の手紙だった。


「まあ、これ、エイムの字ね。私にも見せて」


 ネスリーは俺の横からのぞき込んだ。


 愛していたランダース。

 愛する、と書けたらとても良かったのに。

 私はもう貴方とは一緒にやっていけません。

 何かもう疲れてしまいました。

 とりあえず実家に戻ります。

 実家ではきっと反対されるとは思うのですが、それでも私はもう本当に疲れてしまったんです。

 ですので私を自由にしてください。

 貴方を愛していたエイムより。


「あら…… とうとうそうなっちゃったのね」


 ネスリーはあらあら、という様に肩をすくめた。


「え? 俺には何が何だか判らないんですが」

「うん、まあ、この宿舎の奥さん連中皆エイムにがんばれ、って言うと思うのだけどね。あ、かく言う私も。ともかくしばらく実家に居るって言うんだから、ゆっくりさせてあげたら? 下手な手出しせず」

「そんな」


 嗚呼! とばかりにランダースはテーブルに顔を突っ伏せた。

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