出て行けと言われたけど『もう遅い』はしたくない

さよ吉(詩森さよ)

第1話 追放


「ライル、お前にはこのパーティーから出て行ってもらう」


 尊敬するパーティーリーダーであるテリーさんのその言葉は、俺にとって晴天の霹靂だった。



 俺はライル、13歳。

 Bランク冒険者パーティー『ヴァントの疾風』の裏方を支える何でも屋だ。



 ヴァントの孤児院の前に捨てられていた俺は10歳で受けるスキル判定の後、すぐに身の振り方を決めなくてはならなかった。


 魔法が使えるほど魔力があれば魔法学校に行かなきゃならないけど、そんなになかったしね。

 とにかく養子や奉公の口が決めてしまわないと、新たに入ってくる子供たちのためにあてもなく追い出されてしまうんだ。



 俺だってそう言う話がなかったわけじゃない。

 頭も悪くなかったし、有利なスキルもあってむしろ多かったくらいなんだ。

 でも崖っぷちに立たされた他の子たちが泣いて頼むから譲っていたら、真面目に仕事をするような性質ではないなんて噂が立っちまったんだ。


 それで俺自身が崖っぷちになっちまって、仕方なしに冒険者になることになった。


 孤児院のシスターには、

「せっかく孤児院に入って教育を受けられたのに、冒険者だなんて……」

 なんて泣かれたのは辛かったけどな。



 冒険者の仕事自体、俺は悪いものだとは思わない。

 だけど孤児院へ入れなかった子どもがそうなるしかないという道でもあった。


 命がけで魔獣と戦い、危険を冒して薬草や素材を取りに行き、盗賊などと戦う。

 だけど怪我や病気になっても、その後の生活に保障がないのだ。

 そんなわけで身を持ち崩して犯罪者になる冒険者も少なくないので、社会的身分も低かった。


 でもそれは低ランクの冒険者の場合だ。

 簡単になれないB、A、Sランクの冒険者ならば、むしろ尊敬される。

 この辺りになると、指名依頼だってある。

 数々の魔獣を討伐し、どんな薬草や素材でも手に入れ、多くの盗賊を倒してきた英雄とみなされるのだ。

 


 ちなみに俺は今Cランクだ。

 13歳にしてはかなり早い。

 これにはちょっと裏があるけどな。


 実は俺、転生者なんだ。


 当時はまだ気が付いてなかったけど、孤児院にいたころどうしてチャンスを譲っていたのかは、意識せずに自分を大人だと思っていたからなんだ。

 自分より弱い子どもに譲るぐらいなんてことないって気持ちだ。

 だから後悔はしていない。





 シスターに泣かれながらも俺は冒険者登録をした。

 子どもの冒険者が最初にやらされるのが、荷物運びのポーターだ。

 でも弱い立場だから搾取されやすい。


 だから最初に入れてもらうパーティーが重要なのだ。



 ヴァントの冒険者がDからCにランクアップ時は、子どもポーターを2回は雇わないといけないルールになっている。

 そういう子どもがいなくなったら、別の裁定方法になる。


 これは先達者が初心者に仕事をおしえるという名目になっているが、ここの冒険者ギルドが子どもを教えるのがめんどくさいだけだと俺は思っている。


 だからDランクからCランクにアップするパーティーが雇いたいと依頼は多い。

 毎年10数人の孤児が冒険者になるので、悪い方法ともいえない。



 でもたまたま参加した時にすごく実入りのいい攻略だった時は違う。

 ちゃんとした冒険者なら頭数で割ってくれるけど、そうしてくれないのだ。


 例えば、普段が10000ヤン(1万円だと思ってくれ)の儲けなのに、その日が全部で200000ヤン(20万円)。

 いつもの面子は4人だが、この時はポーター入れて5人。

 50000ヤンもらえるはずが、40000ヤンに減る。

 いつもの収入分減っちまう訳。



 分け前を減らす搾取ならまだいい。

 時にはわざと魔獣のところに置き去りにするヤツだっているんだ。


 それがわざとか、わざとじゃないかなんて、被害者が孤児なら誰が申し出てくれる?

 攻略にはどんな事故が起こるかわからない。

 そう押し切られたらおしまいだ。

 たった一人頭10000ヤン(1万円)のせいで、命を失う羽目になるんだ。



 でも最初のパーティーが当たりで気に入ってもらえたら、正式じゃなくても時々雇ってもらえる可能性がある。

 ただの子どもポーターと、どこかのパーティーと懇意にしている子どもポーターでは扱いが違う。


 だから自分の能力を買ってくれそうで、なおかつ誠実そうな人柄を選ばなきゃならない。



 そこで俺が目をつけたのは、テリーさんだった。

 彼は外国から来たソロの冒険者で、ちょうどDからCにランクアップするところだった。

 なんかちょっと見おぼえがあるんだけど、どこで見たかは思い出せなかった。


 この人は若くて男前でべらぼうに強いけど、仲間を作らず一人で戦っている。

 明らかに元貴族って感じの訳ありそうな剣士だ。


 でもソロであるがゆえに持ち帰れない魔獣の素材を、他の冒険者に奪われて悔しい思いをしているのだ。

 せめてもう一人、仲間がいれば全然違うはずだ。



 でここにギルドルールである、子どもポーターを雇わないとランクアップできないという制約がある。

 今子どもポーターはたくさんいるので、彼らがいなくなるまで雇わなければランクアップはどんどん先延ばしになる。

 いなくなったと思ったらすぐ入ってくるしね。


 テリーさんは多分今でもBランクに近い実力がある。

 なのにランクアップできないから、低ランクの依頼しか受けられない。

 強い分、歯がゆい思いをしているはずだ。



 それで俺はテリーさんに話を持ち掛けた。

「子どもポーターとして雇ってください」


「俺は誰とも組む気はない」


「でもこのままランクアップできなかったら、もったいなくないですか?

 2回我慢して俺を雇うだけで、テリーさんはCランクだ」


「……」


「ちなみに俺のスキル、『収納』です。

 テリーさんの獲物は誰にも盗らせないですよ」


「バ、バカ!

 まだ雇ってないのに、スキルなんて教えるな‼」


 でもここで怒ってくれるのが、この人がいい人な証拠だ。

 育ちがいいからなんだろうな。


「このスキルはめったな人に知られると絶対搾取されます。

 俺はテリーさんを見込んで、話しました。

 どうか俺を雇ってください」



 それでテリーさんは俺を子どもポーターとして、雇ってくれることになった。



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追放系書かないと言っておきながら、思いついたので書いてしまいました。

よろしくお願いいたします。


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