第13話 最城大学 Ⅴ

「2015年か。ラグビーW杯で歴史的勝利……これは歴史通りだな」


「パリ協定採択もですね」


 2人は、ネットニュースのサイトを片っ端から読み漁って行く。

 それを見て紗奈は、律希の意図に気付いた気がした。


「一ノ瀬さん、あの……」


 思い当たった事を、紗奈は聞いてみる。


「ネットニュースから本来の歴史に即さない出来事を探して、改変の元になった事件を見つけようって事ですか?」


 すると律希は頷いて、説明してくれる。


「そう。今までは原因が明確な改変が多かったから、時空学からのアプローチで良かった。だけど、今回の改変なら、こっちの方が早いんじゃないかと思って」


 紗奈は納得し、呟いた。


「だから歴史の先生なんですね」


「達紀はちょうどいい事に基礎時代の専門家なんだ。僕だったらニュース記事を見ても、即座にそれが歴史通りか、そうでは無いのかは、分からないけど……」


「達紀さんなら分かりますね」


「うん。ああ見えてあいつ優秀だしね。歴史分野だけ、に限るけど」


 律希が言うと、


「だけ、は余計だ」


 と達紀が返す。


「国語だって得意だし」


 その言葉の意味に気づいて、紗奈は思わず笑ってしまう。


「紗奈ちゃん何? 何か文句ある?」


 達紀に聞かれて、慌てる紗奈だったが、律希が代わりに言ってくれる。


「国語って言っても古文だろ」


「あっ、気づかれてしまったか……」


 その時松永が、達紀の頭を叩いた。


「い、痛っ……! 松永さん何すんの?」


 達紀が騒ぐと、松永は毅然と言い放つ。


「雑談してる場合ですか⁉︎ 早く集中して下さい」


「……松永さん、最近俺に厳し過ぎ」


 達紀が文句を言い、松永がそれを跳ね除ける様子は、さながら『気の強い妻と恐妻家』と言った感じで、紗奈は思わず呟いた。


「仲、良いんですね」


 すると2人が、


「は?」


 と同時に言った。


「どこをどう見たら仲良く見えるんだよ!」


「聞くだけでぞっとするので止めて下さい」


 あまりの勢いに紗奈がびくりとすると、律希が小声で言った。


「川野、それは1番駄目なやつだよ」


 その言葉を聞いて、紗奈は「すみません」と頭を下げる。しかし、2人は溜息をついてお互い少し離れ、無言でまた同じように作業を再開した。


 しばらく、少し気まずいような静かな時間が続く。

 ただ、作業効率は落ちるどころか上がっていた。紗奈と律希は一言も話さずに、彼らの作業を見つめる。


 何の気無しに時計を見ると、SIX STORYを出てから2時間弱が経っていた。


「後……68時間ですね。対策部とか、分析チームの状況はどうなんでしょうか」


 紗奈が口を開くと、律希は小声で返した。


「連絡が無いって事は、特に何も無いんだろうけど……。そろそろ焦るな。僕たち修正チームが使える時間が減るばかりだし」


「そうなるとまずいですか?」


「……今回の修正、時間がかかると思うから」


 律希は少し下を向いて、少し深く息を吐いた。


「それでも修正してみせるよ。その為の修正チームだ」


 その言葉は、自信や確信を持ってでは無く、そう信じようとして言った言葉に聞こえた。

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