第3話 事件改変Ⅲ

 紗奈と篠木が修正部に入ると、


「あー! やっと来た! 二人とも遅いですよー」


 と、和弥が文句を言った。部屋には和弥一人しかいない。


「すみません。和弥君、今どんな状況ですか?」 


 篠木が聞くと、和弥は、少し不確かですが、と前置きして話し出す。


「時間ステーションの閉店時間中に、自然改変が確認されたらしいんですよ。俺らの時間機も、誰も借りていないらしく、密渡航が疑われると」


 自然改変とは、現代人が過去に干渉したこと以外が原因の改変のことだ。

 時間旅行で時空間を通るだけでも、そこに歪みは発生する。その歪みによって生じるのが自然改変だ。

 時空間の利用においては、必ず起こると言える自然改変だが、もちろん被害は微々たる物なので、修正も簡単。その為、普段問題にされる事はあまり無い。


 しかし、今回は違った。自然改変が起きたのが、一般向け時間旅行サービスを提供する、時間ステーションの閉店期間中だからである。

 時間ステーションが閉店中という事は、一般の旅行客が時間旅行をする事は出来ないということになる。

 また、時間警察の特権である小型の時間機も使用履歴は無いらしい。

 その為、時間警察は今回の自然改変を起こした時間旅行を、把握していないのだ。


「密渡航……それに使ったのは密製造の時間旅行機でしょうか」


「それはまだ分かりませんけど、恐らくそうだと思います」


 どちらにせよ、何者かが時間犯罪を起こそうとしていることは確実だ。


「今、中山部長は社長の所に居て、一ノ瀬先輩は……」


 和弥の言葉の途中で、修正部の自動ドアが開いた。


「篠木さん来てますか?」


 現れた律希に、和弥は


「噂をすれば、ですね」


 と言う。篠木が律希に「来てます!」と言うと、律希は言った。


「TSやってるんです。来てもらえますか?」


 TSは、対策部が持つ時空間探査の技術「Time search」の略だ。

 自然改変の規模や形状から、それを発生させた時間旅行の目的地などを割り出す技術で、使いこなすには、時空学の高度な知識や実力が必要である。

 その為、TSの資格を持っているのは対策部でも5人だけ。修正部には律希と篠木だけだ。


 密渡航したかもしれない誰かが、今いつの時代のどこに居るのか。

 それを突き止めて、歴史が改変されるのを止められれば、時間犯罪は阻止できる。

 今はTSに賭けるしかない。


 篠木は律希の頼みを了承し、自分のPCを持って修正部を出て行った。

 律希も戻ろうとしたが、途中で振り返る。


「川野も来て」


 紗奈は、えっ、と声を上げる。


「私、TS出来ませんけど」


「ちょっと手伝ってくれればいいから。早く来て」


 律希はそう言うと、紗奈の弱気な反論を無視して出て行ってしまう。

 和弥を見ると、彼は諭すように言った。


「TSは2人1組でやるじゃん。TSチーム7人だから、1人足りないんだよ」


「でも、私は出来ないです。まだ和弥先輩の方が……」


「うわ、紗奈ちゃん冗談言わないでくれる? 一ノ瀬先輩と俺って、それ最悪の組み合わせじゃん」


 大袈裟に肩をすくめて見せる和弥に、紗奈は困ったように眉を下げる。


「そんなこと、言ってる場合ですか?」


「紗奈ちゃんこそぐずぐずしてる時間無いよ。一ノ先輩は『川野』って言ったんだからさ。TSの資格持ってないのはお互い様なんだし、ここは一ノ先輩の指示に従おうぜ」


 続いて和弥に、「俺はここで後から来た人への説明係続けるから」と言われてしまい、紗奈は仕方なく対策部に向かった。

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