調教士と従魔士

 エーエンの森、最奥にある草原。

 

 その中心には、異様な素材で作られた”塔”が立っていた。

 魔物が持つ、電子基板に似た模様の素材だ。


(あれは、バイオマス鉱石で出来てるのか?)


 塔は奇抜な凹凸のある円錐形だが、特に、出入り口と思われる所が一際が大きく開かれている。


 ソリオンは塔に近づいてみる。


(あまり高くはないな)


 塔と言っても、高さはソリオンの家より少し高い程度でしかない。

 やはり一際目を引くのものは、大きな出入口だ。


(中はどうなってるんだろう?)


「これがブリースの言ってたスタートライン?」


「そう。”魔物のかご”。人間はダンジョンって呼ぶよ。そして、目的はこの最下層にある」


「ダンジョン、か。ちなみに最下層ってことは、地下になってるの?」


「そうよ、ここは全然、深くはないけど」


「ここはってことは、他にもあるのかい?」


「沢山ある。だって、すべての魔物はこの魔物の揺り籠から生まれてるんだから」


(魔物の卵や受胎しているところは見たことがなかったけど、ダンジョンで生まれるのか)


「少しだけに中に、入ってみようか」


 ソリオンと従魔たちは入口をくぐる。

 中は、外と同じ、電子基板のような模様を浮かべた壁となっており、幾何学的な線をなぞるように光が通っている。

 そのため意外と明るい。


(結構、道が広いな)


 少し進むとすぐに傾斜になっており、下へ下へと続いている。

 道に沿いながら降ていく。


 そして、トンネルのような通路を抜け、やけに天井が高く、開けた空間へと出る。

 


「街だ…」



 そこには、外の世界とは全く異なる意匠の建物がひしめきあっていた。あえて言えば、前世の雑居ビル街に近い。


 大小、様々な建物が立ち並んでいるが、誰一人おらず、話し声も聞こえない。


 外観はコンクリートではなく、バイオマス鉱石に近い素材で作られている。

 看板の文字は、魔導時代の文字だ。脈絡なく、衣服、食料品、オフィスなど様々な目的の建物が乱立している。


 そして、建物によっては、出入り口や窓がなく、居住空間として使えないものすらある。


 それが一層、不気味さを際立たてせている。



「なんで、ダンジョンの中に街が」


 ブリースが近くまで飛んできて、話しかける。


「今は、とにかく進みましょう」


 ソリオンたちは街の大通りのような場所を進んでいく。

 しかし、いくら進んでも似たような街の風景が続くばかり。


「どこまで続くんだろう」


 ソリオンが立ち止まった時、空を切る音が響いてくる。


「囲まれている」

 

 辺りを見回すと、建物の間から巨大なハチ姿の魔物が四方から飛び出てくる。


アピハチの魔物か」


 ソリオンは鉾ではなく短剣を持ち、指示を飛ばす。


「ニーは飛びながら数を減らして、サンはできるだけ魔物を引きつけて」


 アピハチの魔物が一斉に襲いかかってくる。


 ニーは素早く舞い上がながら攻撃を仕掛け、サンはその固い甲羅で、毒針を受け止めながら確実に数を減らしていく。


 ソリオンはイチに乗りながら、ハチの毒針を掻い潜りながら、すれ違いざまに短剣で斬り伏せていく。


 すると何かが猛スピードで襲いかかってくる。


「次はアルミス刃を持つアリクイか」


 アルミスが体を丸めて輪転りんてんしながら、高速でソリオンへと襲いかかる。

 イチに命じ、素早くそれを避けながらが、片手に持った鉾で突く。


「数が多い」


 アルミスをなした直後、熱源を<可視光拡張>が察知する。

 

(火炎弾!?)


 気がつくと無数の火の玉がソリオンへと向かってきている。

 機転を効かせたイチが、それらを避ける。


 が、完全には避けきることはできず、1つがソリオンの胸へ直撃する。


 けたたましい爆音が辺りへと響く。


 当たった場所の服は吹き飛ばされ、焼け焦げている。

 イチの体の一部は、毛皮ごと剥がれており、肉が見えている。


(今のは<衝撃耐性>がなければ、危なかった)


 ソリオンは魔力をイチへと込め、再生を強化する。


 火が飛んできたほうを見ると、羽から爪を生やし、大きく発達したくちばしをした、真赤な鳥が建物の上に数匹いる。


カッソ火を吹く鳥まで来るのか」


 巨大なくちばしを大きく開け、再度、炎弾を一斉に放ってくる。

 さらに、先程から群がっているハチの魔物も襲いかかる。


 短剣と鉾を両手で持ちながらが、ソリオンはハチを斬り伏せ、突き刺し、巧みに炎弾を避けていく。

 炎弾が着弾する度、火柱が立ち上がり、周囲にいるハチを巻き添えにする。


(仲間意識なんてまるで無いな)


 それぞれの魔物が好き勝手に、人間へと襲いかかっているようだ。

 

 さらにひづめを響かせフリペド鹿姿の魔物の群れが、こちらへと向かってくる様子が見える。



(まだ来るのか!?)



 ソリオンは鉾と短剣を強く握る。

 


「仕方がない、行くよ!」




 −−−−ソリオンは、従魔達と共に、建物の中に入り、壁に寄りかかっている。


 肩には穴が空いており、強く包帯で絞ってなお、血が流れていく。

 さらに、服の至る所が焼け焦げ、凍り付いている。


 先程の襲撃を潜り抜け、やっとの思いで、数多の魔物を退けた。


「あんなに来るなんて聞いてないよ、この森の魔物が大集合じゃないか」


 先程まで逃げていたブリースが戻ってきた。


「それはそうでしょ。この森の魔物はここで生まれたんだから。でもD級がいなかっただけマシでしょ」


 エーエンの森には稀にだが、D級の魔物が出るらしい。

 無論、この魔物の揺籠で生まれるのだから、居てもおかしくはない。


「イチとサンはE級の変異個体だからD級並みの力はあるけど、さすがにD級の群れはごめんだね」


 ソリオンが魔物の肉をみながら、砂時計のような鑑定器を握る。


 ■従魔士

 魔物図鑑 系統使役


 ■汎用

 <病魔耐性> <熱耐性> <毒耐性> <切断耐性> <刺突耐性> <衝撃耐性> <精神遮断> <受流>

 <切断> <刺突> <衝撃>

 <反射強化> <可視光拡張> <反響定位> <魔力感知>

 <悪食> <不眠不休> <循環促進> <付与>



(3つも<特技スキル>を覚えたか)


 乱戦の中で、全ての攻撃を回避できず、幾度となくダメージを受けたため、<熱耐性>や<刺突耐性>を覚えた。

 また、遮二無二しゃにむにに鉾を振り回した結果、ツルハシでの攻撃により<衝撃>も習得した。


「これだけの怪我は久々だな。流石に、今日はここまでにしよう」


 ブリースが飛びながら、話しかける。


「仕方ないね。魔物が少ない所を案内してあげる」


「ああ、頼むよ」


 ブリースの後へと付いていくと、大通りが壁と突き当たった場所へ出る。


 大通りの先は、更に下り坂となっており、下の階層へと繋がっているようだ。


「ブリース? まさか下には向かわないよね?」

「分かってる。この辺りが魔物が少なかっただけ」


 ブリースの瞳が名残惜しそうに、下層へと続く道を見る。


「…後、少し」


 小声でつぶやく。

 そして、下へと続く道を、背にして歩き始める。

 

(道が崩れるな)


 歩きはじめて程なくして、道が崩落している場所が目に止まる。

 ソリオンはその横を通るとき、下を覗き見る。


「すごい…」


 崩落した道の下には、深く、広大な空間が広がっていた。

 更に、離れていても、はっきり分かるほどのが一本だけ生えている。


「なんで、ダンジョンの中に木が」


 葉は1つも付いておらず、全て花のようなもので覆われている。

 花は淡く光っているようだ。

 滲んだ青色にも関わらず、ソリオンは満開の桜を連想してしまう。


「ソリオン、置いて行くよ」


 ブリースの呼びかけで、我に返ったソリオンは急いでブリースの後へと続く。

 帰りはブリースの案内もあり、3度ほどの戦闘で外へと戻れた。


 今回の狩りでは肉は諦めており、一部の魔物から切り取った魔物のバイオマス鉱石だけを持ち帰る。


 久々の負傷に、狩人ギルドのマッシモやカルロッタ、母シェーバに、心配を掛けてしまった。

 

 そして、新しい包帯へと換え、レビ薬工店へと出勤する。


「おはようございます」


 レビがいつもとは違う場所で。仕事をしている。

 普段、ソリオンが行っている棚の仕出しなどをレビ自らが行っているようだ。


「なんだい、来たのかい」

「来たのか、って。当然、来ますよ」

 

 レビはソリオンの目を真っ直ぐ見る。

 

「それで、どうすることにしたんだい?」


 ソリオンは昨日の騎兵団の駐屯地で、エフタとの会話を思い返す。


「僕は全ての魔物の魔獣石を集めて、魔物図鑑を埋めます。これは変わりません」


(そして、『あの子』を取り戻す)


 レビの瞳に、嬉しさと悲しさが同時に混ざっていく。

 我が子が、成長し、家を出ていく姿を見守るような視線だ。


「そうかい。それで、いつまでここで働くんだい」


「もうしばらくは、お世話になります」


「なんだい、そりゃ」


 レビが少し安心した様子を見せる。


「エーエンの森の最奥で、ダンジョンを見つけまして。あそこを全て探索したいと思います」


 レビが大きく目を見開く。


「入ったのかい!?」


「ええ、入りました。地下1階だけは探りましたが、怪我してしまって地下2階はこれが治ってからですかね」


 ソリオンは肩の傷を見せる。


「悪いことは言わない。それ以上、潜るのは止めときな」


「何故ですか?」


「ダンジョンなんて魔物の巣窟だ。は、更に魔物よりタチが悪いものまである。いいかい、絶対に近づくんじゃないよ」


「あのダンジョン、ってことはレビさんも行ったことがあるんですか!?」


「昔の話さ」


 レビは一方的に話を打ち切る。


 その後は、仕事を始めるが、普段はソリオンがやっている仕事の半分は、レビやネヘミヤがこなしていく。

 

 まるで、ソリオンがいつ居なくなっても問題ないかのような、寂しさを感じる日となった。



 正午を過ぎ、約束どおり駐屯地へと再び訪れる。

 昨日と同じよう守衛が、迎え出てくれ、そのまま獣舎へと案内してくれる。


 しばらく歩いた所で、獣舎と思われる建物が見えてくる。

 獣舎の前には、イチの以前の姿である青い鹿姿のフリペドが、放牧されている。


「おお!フリペド冷気を持つ鹿がこんなに!」

「知ってるのか。流石、従魔を連れているだけあるな」

「ええ、森で何度も見ましたから」

「森で何度もあって、生きてるんだから大したものだな…」


 守衛の男は呆れ気味だ。

 獣舎の横にある、建物へ着くと、入り口の近くで、赤髪のナタリア、ショートボブのローレル、そしてはじめて見る40歳くらいの女性が待っていた。

 

「お迎えが在るようだね。それなら僕はここで失礼するよ」

「ありがとうございました」


 守衛は、門へと戻っていった。


「おまたせしました」


 ソリオンが獣舎の前へと掛けていく。

 ローレルが厳しい口調でソリオンを責める。

 

「遅い。 ナタリア様を待たせるとは、どういうつもりだ」

「ローレル、大丈夫。時間を指定したわけじゃない」


「…そういうことであれば」


 ローレルは渋々と言った様子だ。

 ソリオンは既に見慣れつつある、様子を軽く流して、はじめて会う壮年の女性へと挨拶する。


「はじめまして、ソリオンと申します」

「あらら、礼儀正しい子。<従魔士>なんて聞いてたから、どんな怖い人が来るのかと思ってたわ」


 40歳くらいの女性は、柔らかい雰囲気だった。


「エフタ大将から、<調教士>のやり方をお伝えするように、と」

「はい、楽しみにしてます。<調教士>の<特技スキル>には、興味がありましたので」

「あら、そう言ってくれるの。おばさん、がんばっちゃう」


 ソリオンは後ろ振り返り、女性へ話しかける。

 

「あのフリペド《冷気を持つ鹿》達も、<調教士>の<特技スキル>でテイムしたんですか?」


「そうよ。フリペド冷気を持つ鹿は<騎獣士>が操れるE級の魔物で、最も標準的な従魔でね。<調教士>はフリペドをテイムできるか、が一人前の証なの。まあ、この辺りでは、だけどね」


 その言葉を聞き、ナタリアの表情がくもる。

 自分がまだ一人前には遠く及ばないといわれたと、感じたようだ。


「わかります。イチも少し前までフリペド冷気を持つ鹿でしたからね」

「少し前? どういうこと?」


 40代くらいの女性は理解が追いつかないようだ。

 ソリオンは慌てて話題を変える。


「<調教士>の<特技スキル>は、どんなものなんですか?」

「ああ、それは獣舎の中で見せるね。悪いけど従魔は入れないよ。新しい子がいきなり入ってきたら皆が興奮しちゃうから」

「わかりました」


 イチ達には、舎の前にある広場で待ってもらい、獣舎の中へと入っていく。


 獣舎にはソリオンが見たことある魔物から、見たこと無い魔物まで、多くの魔物が囲いの中にいる。

 多くは悪獣系統だ。


 そして、獣舎を奥に進んでいくと、巨大な扉が見える。

 扉には魔物特有の電子基盤のような模様が入っており、巨大な扉がバイオマス鉱石で作られている事がわかる。

 そして、中から凄まじい魔力が、漏れ出てきている。


「この中に何が居るんですか?」


「セーレカロっていうB級の魔物よ。エフタ大将がテイムした国の最高戦力の1つ。だけど、今は乗り手がいないから、ずっとこの中で待ってるの」


 40代女性は何処か寂しそうな表情をする。


「B級ですか…通りで凄まじい魔力ですね」


「ここはまだ封魔の門で閉じられているから、全然よ。中に入るともっとすごいよ」


「これで全然……」


 B級の魔物に興味を惹かれるが、本日の目的はそれではない。

 ソリオン達は、その横の扉へと入っていく。

 扉の奥は、通路となっており、両側に格子が付けられた扉がいくつもある。


(映画で見た、刑務所みたいだな)


「ここは野生のG級の魔物を捉えてる場所よ」

「なんで野生の魔物を?」

 

 女性は振り向くと、少し脅かすようにソリオンを見る。

 

「隣にいるセーレカロのご飯」

「ああ、なるほど」


 そして手前の扉を開けると、2匹ほど、ロリポリだんごむしが居た。


「ロリポリはあんまり攻撃してこないから、練習にはもってこいなの」


 40代くらいの女性は、近くにいるロリポリの近くにいく。


「見ててね」


 女性は魔物へと手を当てる。

 ロリポリは嫌がり、短い脚バタバタと足掻く。


 女性の手からロリポリの魔力が、取り込まれる。


(魔物の魔力を吸うのか?)


 次に、女性はロリポリを見ながら、魔力を流し込む。

 手で撫でながら、魔力を与えているようだ。

 

 その瞳はロリポリを真剣に、そして暖かく見守っている。


 しばらくすると、ロリポリが、女性の腕へと掴みかかる。


「危ない!」


「大丈夫よ。もうテイム出来ているから」


 ロリポリは女性の腕にじゃれ付いているようだ。


「今のがテイム…」

 

 女性が振り返る。


「どうだった?」

 

「すごいですね。<従魔士>の捕まえ方と全然違うんですね」


「素直に褒めてくれて、おばさん、とっても嬉しい」


「そのロリポリは、どうするんですか?」


「可哀そうだけど、今日のセーレカロのご飯ね」


「ご飯!? 従魔を殺すんですか!?」


「元々ご飯だったから。それに、もう群れには戻れない上に、<騎獣士>が乗れるわけでもないし」


「そうですか…。随分<従魔士>とは従魔の扱いとは違うんですね」


「<調教士>は命を扱う<系譜>よ。残酷ざんこくかもしれないけど、憐れみや感傷だけじゃやっていけないの」


 女性はそう言った後、テイムしたばかりのロリポリを抱き上げる。

 そして、優しい目で、ロリポリを撫でる。


「全ての命は、巡るの。私も例外じゃない。<調教士>はその巡る命の距離を、少し人に近づけてあげるだけ。全ての生き物が手を繋いでは生きられないから。だから、近くにいるときだけは精一杯、可愛がってあげるの」


 女性の表情からは、諦めに似た、しかし同時に自らが悩んで辿り着いた信念のようなものを感じる。


「すみません。何もわかっていないのに」

「うんうん。おばさんも、その気持はよく分かるよ」


 そう言うと40代くらいの女性はロリポリを抱きしめたまま、部屋を出ていった。


(従魔との向き合い方…か)


「G級の魔物をテイムできただけなのに」


 ナタリアが冷たく言い放つ。

 G級の魔物、という表現に違和感を覚える。

 

「……ナタリア様、見せてもらえませんか」

 

 ナタリアは少しだけソリオンを見た後、緊張しながらもロリポリへと触れる。

 先程と同じ用にロリポリは必死に抵抗している。


 ナタリアの手へロリポリの魔力が流れ込んでいく。

 そして、ナタリアが魔力を流し込む。


 ロリポリは脚をバタつかせ、苦しんでいるようだ。

 更に強く魔力を流し込む。


くだりなさい!」


 ロリポリは更に抵抗を強める。


「言うことを聞きなさい! 私は早く、もっと階級の高い魔物を従えないといけないの」


 ついにロリポリが手を払い除け、ナタリアへと襲いかかる

 ローレルが剣を引き抜く。


 だが一歩早く、ソリオンがナタリアを抱きかかえ、ロリポリを払いのける。


(これは重症だな)


「なんで!? さっきと何が違うの!?」


 森の中で会ったときと、同じような必死さ伝わる。

 表面上に見せる高圧的な態度から想像できないほど、追い込まれている。


「おい、早くナタリア様から手を離せ」


 ローレルが、ナタリアを抱きかかえる、ソリオンへと剣を向ける。


「おっと、これは失礼しました」

 

 ナタリアを起こし、手を離す。

 そして、ナタリアは気まずそうに、ソリオンを見る。


「……どう? あなたも指導を諦める?」

「そうですね。正直そうしたい位です」

「……そう」

「ですが、もう取引してしまってます。お付き合いしますよ」


「えっ?」


「少しづつ見ていきましょう」


「本当にいいの?」


「もちろんです。ですが、すぐに出来るとは思いません」


 ナタリアが落胆する。


「ですが、きっと出来る様になります」


 ソリオンはそう言って、ナタリアへ笑いかける。

 少しだけ、ナタリアが顔を赤らめる。


「ねえ。あなたには、私がテイム出来ない原因が分かるの?」


「おおよそ、見当はつきます」


「そう。やっぱり才能があるのね。私も欲しかった。そうすれば……」


「才能というより、心のあり方ですね」


「エフタ様も同じ様なことを言ってたけど。全然わからない」


 それは当然だろう。

 心のあり方を、言葉で説明されてすぐ理解できるのであれば、人類みな聖人になれる。


 ソリオンは少し考え、確かめるように問いかける。


「ナタリア様は、テイムした魔物を誰に見てほしいのですか?」


「意味が分からない。誰かに見てもらいたいという話ではなくて、国に貢献できることよ」


 静観していたローレルが、同意する様に頷く。


「では、質問を変えます。国に貢献した事を誰に認めてもらいたいのですか?」


「それは……」


 ナタリアの言葉が詰まる。

 見かねたローレルが、立ち入ってくる。


「お前はまるで分かっていない。貴族と平民では考え方が違う。貴族というのは国や民の為に尽くす義務がある。褒めて欲しいからやるのではない」


 その言葉を聞いたナタリアはうつむき、言葉を飲み込んだ。


「それは大義名分であって、個人的な本当の欲ではないでしょう。魔物に大義名分は意味ありませんよ」


「貴様に貴族の何が分かる!」


 ローレルが怒りをあらわにする。


「貴族のなんたるかは分かりません。それにあまり興味もありません。ただ、魔物に関しては、おそらくお二人より詳しいです。一歳からいっしょにいますから」


「一歳からテイムできたの!?」


 ナタリアが目を丸くして驚く。


「ええ、半分偶然でしたけどね」


「そう…、やっぱりあなたは凄いのね」


「そうでもありません。話を戻しますが、ナタリア様は、もしB級の魔物をテイムできたら、誰に、最初に知らせたいですか?」


「もちろん、それはこの街の領主であるお父様よ」


 ナタリアの目が少しが希望を帯びる。

 まるで、その瞬間を夢にまで見ているようだ。


「……そうですか」


(取り巻き達のいいように操られ、自らの信念を持たない公爵でも、この子にとっては親なんだな)


「ナタリア様、ここを出ましょうか」


「なぜ? テイムの練習はここでしか、出来ないよ? エーエンの森でも全然ダメだった」


 全く理解できないという様子だ。


 ソリオンはニヤリと笑う。


「僕に考えがあります」


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