51 絶望

「何故そんなことを? 異世界人が何故必要か、それは大まかには騙していない。ただ『封印』を解ける者が異世界人であっただけで『封印』するために神々が選んだ訳ではない……言うまでもないがな、私が欲しかったのは世界さえ次元さえ滅ぼせる、神に比肩する魔神剣ヴァルゼンダーム……それだ」

 三年四組の皆が多大な犠牲を払ってようやく出現させた、透明の棺に眠る剣をエレクトラが指す。

「……どう、して?」

 明智が呼吸を乱しながら問う。

「欲しかったからだ、それだけだろう? その剣は元々は我々側の秘宝だった。しかしある時訪れた異世界人が命をかけて封印したのだ。剣の威力を恐れてな、そしてこの世界の誰にも、我等さえも手を出さない仕組みを作った。それが『ガルベシアの封印』だ……もう数千年前、古代魔法帝国時代のことだ。だからその剣は神の物であるが神々さえも手を出せぬ宝となった、だから……」

「……異世界人の私達が必要だった、ただ『封印』を解くためだけに」

 大谷環がエレクトラの台詞を継いだ。

「か、和樹は? 和樹はどうして……」

「ああ、あの小僧か……お前はカタクラとか言ったな? あの小僧はお前が好きだったのだ……ちと違うか、お前達が、と言い直すべきかもな、例えお前達に責めさいなまれようと、どうしてかあの小僧はお前達が好きだった。その魂が大魔道士レイスティンと共鳴した……そうだな、それがお前達の成功に繋がったのだったな」

「……そんな、和樹……」

 斉藤和樹は黒咲達にあんな目に遭わされても、まだ彼等に憎めずむしろ助けたかった。 優しすぎる。あまりにも優しすぎた。だからその心を奪われた。 

 白夜は歯を食いしばった。

「では、『封印』すればこの世界が救われる、という話しは?」

「嘘だ」

 エレクトラはあっさり切り捨てる。

「ふふふ、むしろ世界は危うくなろう、なにせヴァルゼンダームが私の物になるのだ……それにしてもお前達の世界の大人も、軍隊らしき者達をも何人費やしても倒せなかった機械の守護兵をあっさりと突破するとは、お前達は素晴らしい『選ばれし者達』だった……一時は処分しようとポムドを殺して追いつめたのだがな……私のためによく働いてくれた」

 踵を返して白夜は走った。透明な箱、その中にある剣。

「困るな、横取りは」

 だがエレクトラは瞬間移動でもしたかのように、彼の前に現れた。

「なら俺達を帰せ! 元の世界に」

 立花が両手のグラディウスを持ち上げ恫喝する。

「何故?」

 エレクトラは歌うように問う。

「お前達の役目は終わった。終わったのだ、もう私が余計な力を使うことは無かろう」

 彼女が透明な塊に手を伸ばすと、そんな物無いかのようにするりと透過し剣の柄を掴み、再び消える。

 次の瞬間には魔神剣と共に、彼女は白夜達には手が出せない空中に現れる。

「悪いが異世界の扉を開くには膨大な力と儀式が必要だ、それよりこちらの方が簡単」

 エレクトラが呪文を唱える。

 誰もが刮目した。

 何もない空中に巨大な体躯が滲むように出現する。一つ目、一つの角……サイクロプスだ。そして大勢のオーク達、外からも消えていた怪物達の叫びが再び上がる。

「アークロードよ、その者どもに死の女神の加護を」

「御意!」とエレクトラの命令に黒い騎士が背中に背負った大剣を構えた。

「みんなっ」

 白夜は振り返った、応戦するのだ。外は兎も角、目の前の敵なら今なら勝てない相手ではない。

 しかし彼が見たのは、その場に蹲る仲間達だった。

 皆、目の輝きを失っていた。

 絶望……誰の顔にもくっきりとそれが刻まれている。

 ……ああそうか。

 源白夜もゆっくりとその顎に捕らわれた。

 もう帰れないのだ。どう戦おうと、もう元の世界に家族の元に帰れない。目的は失われた。全ては無為だった。 

 あれだけの犠牲を払って。あれだけの仲間を失って。

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