39 終わり

 源白夜は快哉を上げかけた。

 執拗な脚部への攻撃によりついにサイクロプスは腰を下ろし、力角が器用に背中をよじ登って、暴力的なウォーハンマーを炸裂させ頭頂部をぶち砕いたのだ。

 サイクロプスの目玉は上がり、長い紫色の舌がだらりと垂れる。

 完全勝利だった。

 かつて自分達を壊滅状態にした敵を今度こそ完膚無きまでに倒した。 

 彼は腕を天に突き出すところだった。

 背後から上がった仲間達の悲鳴に動きが固まる。

 振り返ると、一人の少年が仰向けに倒れていた。未だばちばちと放電する電撃の矢を受けて。

 誰だかは考えまでもない。

「徳川!」

 白夜は駆けた。もうサイクロプスとの戦いの勝利の高揚感などは消えていた。

 駆けつけると、徳川准はまだ生きていた。 

 穏やかな笑みを浮かべ、空を見ている。

「……徳川」

「……やあ……サイクロプスは? 君は、みんなは無事か?」

 白夜の目がかっと熱くなる。

 彼はこんな時も戦いの行く末を、仲間達の事を考えているのだ。

「ああ、俺達の勝ちだ! みんなも無事だ、だからしっかりしろ」

「そうか……ならいいんだ」

「くっ」との苦痛の声に白夜が顔を上げると、右肩を押さえた黒いローブの人物が森の中にいた。

「アイツだ!」らららが甲高い声で叫ぶ。

「アイツが徳川を!」

 追跡は出来なかった。黒いローブの人物は踵を返し森の奥に逃げ、何よりも白夜は腕の中の友を離したくなかった。離したら……終わってしまう。 

「心配するな、徳川、お前のお陰でみんな傷一つ無い、だからお前も早く自分に魔法をかけろ、治癒だ。聖職者だろ?」

「……いや、魔法はまだ無理だ……集中、力が……でも、君達が無事でよかった、まだ旅が続けられる、から」

「何言ってんだ徳川! 勝手な事を言うなよ」

 徳川准の周りに、仲間達は集まってきていた。

 皆目を赤くし、涙に暮れている。

「……いつか言ったろ? 源。僕ではダメだと、リーダーなんて柄じゃない、僕がいなくても……」

「うるさい!」白夜が准を遮る。

「何を嘘言ってるんだ! リーダー失格だって? 俺達がここまで来れたのは全部お前がいてくれたからだ! お前がリーダーとして有能だったからだ……だからここから先もリダーでいてくれ、頼む……」

 白夜は赤く染まる准の胸に額を乗せた。

「……僕が、三年四組の級長に、なったのは、内申点が欲しかったからだ……だからリーダーなんてきっと、誰にも出来る……から」

 彼は源の肩に震える手を置く。

「元の世界に、戻れ、よ」

「…………徳川? おい、徳川?」

 だが徳川准はもう源白夜に答えはしなかった。

 三年四組はこの瞬間リーダーをも失った。

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