文学少女JKは助けたい



 土曜日。

 私にとって土曜日は、週に一度の勝負の日になっていた。


 「早く帰らねば……!」


 私は午前の授業を終えて、猛烈ダッシュで帰宅中。

 早く帰って、シャワー浴びて、可愛い服を着て。


 将人様襲来イベントに備えるのだ。


 「……ん?」


 そんな時、ポケットに入れていたスマホが振動。

 これはSNSの通知。


 将人さんからもう連絡きたのかな?



【聖女の集い】


《三秋》

『汐里爆速帰宅しすぎ』

『プリント余裕で忘れてるよ』


《まな》

『wwww』

『汐里あれじゃない?王子様デーだから』


《初美》

『あ~そっかそっか画像よろ』

『私まだ信じてないから』




 グループチャットだった。

 なんか好き放題言われてるんだが???

 確かに将人様は王子様だが、画像を撮るのは許可が……。

 盗撮?いや流石に気が引ける……。




《篠宮汐里》

『ごめんごwww』

『今日夜でいいからプリント写メ撮ってくれると助かる』


 そんな急な課題プリントではないだろう。

 新しくできた友人達に感謝しつつ……と思っていたら、すぐにまた通知。


 無視して家に帰ってから返すか……と思っていたら。

 ――無限に通知が鳴る。


 なんやねん!

 流石に煩わしくなった私は仕方なくもう一度スマホを開いた。



《三秋》

『え?wwwちょっと待って?wwwww』

『汐里そんなアイコンだったっけ??www』


《初美》

『wwww待ってwwwwってか名前フルネームになっとるwwww』

『おまwwwwwこの前まで「しおりっち」だっただろうがwwww』


《三秋》

『さては王子様と連絡先交換したなwww』


《まな》

『待ってwwwwひとことも変わっとるwwwww』

『BGM設定すなwwwwww』


《三秋》

『ひぃwwwwwwお腹痛いwwwwww』

『おい。「推しの顔面を部屋に貼りたい」だったろ。戻せ』


《初美》

『アイコンもアニメのアイコンだったよなあ???なにしてんだ。戻せ』

『どこかわからない海辺で後ろから撮ってもらいましたアイコンやめろ』

『ってかそれどーせお前じゃないだろ』


《まな》

『お腹痛いwwwwwww』

『本人じゃねえなら誰だよこいつwwwww』


《三秋》

『バンドグループの流行りの曲BGMに設定すな。どうせ聴いたことねーだろ』

『ひとことも「秋が好き」じゃねえよwwww聞いてねえよwww』



 


 


 ……。


 ふう。


 私はスマホをそっ閉じ。


 よし。

 短い間だったけど――



 こいつらと友達やめよう。






















 ふと、読んでいた小説を一旦閉じて、壁にかかっている時計を見た。

 時刻は15時になろうとしている。

 いつもなら10分前から5分前には家のインターホンが鳴るのに、未だに将人様は来ていない。


 

 「……珍しいな?」


 将人様は私からすると……いや多分私からしなくても完璧超人で、遅刻なんてめったにしない。

 それに、30分前に連絡はちゃんと来ていて、いつものように『もうすぐ駅つくね~』と来ていた。


 それならば、もう着いていてなんらおかしくない。


 部屋を出て、階段を降りる。

 もちろん将人さんの姿はない。


 「お母さん、将人さんまだ来てないよね?」


 「?そうね。珍しいわね。いつもこのくらいには来てるのに」


 リビングの時計を見た。

 ぴったり15時になっている。スマホには、未だに通知等はない。


 もし駅についたのがあの時間なら、とっくについていておかしくはないが……。


 なにか、嫌な予感がした。



 「お母さん、ちょっと私駅まで行ってくる」


 「ええ?」


 「基本的に一本道だし、すれ違うはずだから。じゃ行ってくるね」


 胸騒ぎがして、私は急いで靴を履く。

 何事もなければそれでいい。


 けれど、あれだけカッコ良い男の人だ。

 なにかに絡まれていたっておかしくない。


 私はすぐさま玄関から飛び出した。







 

 

 





 スマホを握りしめて、私は進む。

 お母さんにも言ったが、私の家から駅までの道のりは複数あるけれど、わかりやすい道で行くなら一本だ。


 きっと将人さんもこの道を通って来てるはず。


 そろそろ駅についてしまうくらいのところまで来て……。

 遠くに、知っている人の姿が見えた。


 今日もいつものような白いTシャツの上に小麦色のベストでさわやかスタイル。

 間違えるはずもない。


 将人さんだ!

 スーツ姿の女性2人に、なにやら囲まれている。

 え、ナンパ?!


 

 「是非検討していただけませんか!無理なことはさせませんので!」


 「あ~っとさっきから言ってますようにそれはできませんし、それに今急いでいて……」

 

 

 

 とりあえず近くまで来た。

 話を聞くに……ナンパ、ではないようだ。モデルかなんかの勧誘かな……?

 

 確かに将人さんは誰がどう見てもイケメンなのでそれくらいはされるだろうけど……。

 耐性なさすぎでは?!話聞かずに突っ切っちゃっていいんだよそういうの?!


 きっと人の良い将人さんのことだ。

 話をしっかり聞いてあげたのだろう。そして断り辛くなって困ってる……そんなところだろうか。


 待てよ……。

 私の脳裏に、一つの可能性がよぎる。


 ここで私が助けたら、もしかして好感度爆上げでは?!?!


 き、来た……好感度爆上げイベント……これを、颯爽と助けてしまったら……!


 『ふふふ。大丈夫ですか?将人様……』


 『し、汐里ちゃん……好きだ(トゥンク)』



 きtらあああああ!!!!

 大勝利。勝ったわ。


 よしでは早速――。



 

 ……いやちょっとマテ茶。


 どうやって颯爽と助け出す?


 『すみません。私の彼氏から離れてもらっていいですか?』


 ハードルが高い!

 いきなり彼女ムーブは流石に!!他は?


 『ごっめ~~んお兄ちゃん待った??ほら、はやくおうち帰ろ?(キャルルン』


 キャラがきつい。そんな妹ムーブ私にはできない。

 なにか、なにかいい案はないの?!



 「じゃあ、よかったら連絡先だけでも!交換してもらえませんか!」


 「いや、あの……」


 「電話番号だけでいいんです。またご連絡しますので……」


 まずい!

 こうしてはいられない。

 将人さんが連絡先を交換してしまう前に!!



 ぜ、全然ムーブ決まってないけど、助けなきゃ!!

 

 私は、全速力で将人さんのところへ駆け寄った。


 もうなんでもいい!や、やらなくては!



 「あ、あのおおお!!」


 「……?」


 私の声が予想以上に大きかったからか、スーツの女性2人がこちらを見た。



 あ、圧がすごいこの人達。

 私のことナメクジかなにかだと思ってません??


 け、けどおいら負けないよ。


 私は勇気を奮い立たせた。



 「お、おうおう随分威勢がいいじゃあねえか。そこにおわすお方をどなたと心得る」


 「……?誰ですか?」



 や、ヤバイ。もう導入もめちゃくちゃ。

 時代物の官能小説なんか読むんじゃなかった。


 颯爽って言葉本当に知ってる?辞書引こっか^^

 王子様を守る騎士様になるつもりだったはずがどうしてこんな……。



 あーもう!ものすっごい怪しまれてる!なんとかしナイト!騎士だけにね!(激ウマギャグ



 「あ~拙者伊賀のくノ一として生を受けて早17年。この技は大事の際に使うと心に決めておりましたが……致し方ありますまい。とうっ!!」

 

 「は???キモ……ってあっ!ちょっと!!」


 

 終わったわ。

 何言ってんだ私。


 とにかく私は終始きょとんとしていた将人さんの手をとって走り出す。

 もうなんでもええわ!!逃げたら勝ちやろ!!!


 


 














 「はぁ……!はぁ……!」


 そうでした。私体力クソザコナメクジでした。

 もう家に着く前にバテました。


 でも、追ってきてはないみたい。

 なんとか撒けたようだ……。


 「将人、様……大丈夫、ですか……」


 あ~もう最悪だ。

 プランが台無し。

 もっとカッコ良く助けて、惚れてもらうはずだったのに……。

 


 それになんか思い出すとめちゃくちゃキモかったし。

 ドン引かれてる……よなぁ……どうやってごまかそう。


 清楚がしていい所業じゃなかった……。



 「……ふふ……あははははは!!!」


 「将人、さん?」


 振り返ったら将人さんが、目に涙を浮かべながら笑っている。

 私が呆気に取られていると、ひとしきり笑い終えた将人さんが涙を拭いながらこう言ったのだ。


 

 「ありがとう……ありがとう汐里ちゃん!それに……汐里ちゃんってあんな風に話すことできるんだね!」


 「あ~~いや、あの、忘れていただけますと……ほんと、緊張してしまっていただけですので……」


 お、終わった……バッチリ聞かれていた……いや当たり前だけど。

 最悪だ……せっかく清楚お嬢様を完璧に演じ切っていたのに……(本人調べ


 

 「ほんと、ごめん。笑うとこじゃないよね。助けてくれてありがとう。助かったよ。それに、遅れちゃってごめんね。けっこうしつこくてさ……振り切れなくて」

 

 「え、ええ。そうですね。なかなかしつこそうでしたね……」


 「でも、なんだろう」


 「……?」


 ……あ、そういえば、手、握ったまま……。



 「汐里ちゃんのあーゆー所、もっと見てみたいかも」


 「……え?」



 「だってさ、汐里ちゃん、いつもなんかこう……俺と壁作ってるみたいだったから。さっき、確かにテンパってたようには見えたけど……なんか楽しそうだったよ?だから……俺に見せてるような顔だけじゃなくて……色んな顔、見てみたいなって」


 「……」



 手を、強く握ってしまった。


 心臓の鼓動が伝わりそうで、ごまかしたかった。




 ダメだ。ダメに決まってるよ。

 こんな内面見せたら、嫌われるに決まってるから。



 なのに。



 どこかと思う私もいる。





 物語のヒロインのような娘じゃなく。

 


 素の私という村人Bを好きになって欲しいというワガママな想いが顔を出す。


 




 「……考えて、おきます」


 「うん」



 繋いでいた手を放した。

 心臓がまだバクバクとうるさいのは、きっと全力で走ったせいだけじゃない。



 今はまだ、勇気がでないけれど。



 この人なら。


 受け入れて、くれるのかなあ。






 

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