第48話 聖女の心

「ふぅ……色々あったけど、これで無事『光のリング』を手に入れられたわけだし、残すは皇帝ディアギレス討伐だけね!」


「ああ」


 俺が答えた直後、なにやら騒がしい音が大聖堂の扉の外から聴こえてきた。


 そして、喧噪とともに大聖堂の扉が開かれる。


 現れたのは聖エリオン教会の人間たち。

 その数、少なくとも20人。


「な、なんだ、これは!! 大聖堂で何があった!?」

「聖王様!!」

「聖王様は御無事か!?」

「急いで事態を把握する必要がある!」

「あそこに、1……2……3名の人間がいます。事情を訊きましょう!」


 教会の関係者が、慌てたような口ぶりで声をあげている。


「なんか、マズいことになりそう?」


 チェルシーが冷や汗を流しながら言う。


「…………」


 ルルナは俺に身体を預けながら、無言で教会の人間たちを見つめていた。


 そんな俺たちのもとへ、教会の者たちが近寄ってくる。

 眉間に皺を寄せながら。


「聖王様を傷つけたのはお前たちだな!?」


「聖エリオン教会のトップであらせられる聖王様に、なんということを……!! これは神の天罰が下るぞ!!」


「この大罪人たちを、ひっ捕らえ次第すぐに処刑するのだ!」


 問答無用といった様子で、聖職者たちは俺たちを取り囲む。

 

 神の代行者である聖王を攻撃したのだ。

 彼らからしてみたら、俺たちは神への反逆者。


 悪逆皇帝ディアギレスと何ら変わらない存在として見られているのだろう。


 無理もない。


 この教会の人間たちは、聖王の裏の顔を知らない者たちなのだ。

 いわば、以前のルルナと同じ立場。


 純粋に、実直に、聖エリオン教を信仰し、神を、聖王を崇拝する者たちなのだ。


 ルルナは、そんな彼らと以前の自分を重ねているのかもしれない。


「聖王様は、まだ息があります! このまま医務室にお連れします!」


 聖王を確認した者が声をあげる。


 どうやら、ルルナは聖王にとどめを刺さなかったらしい。


 ルルナらしい。


 世界を支配しようと企む悪者だったとしても、その命までは取らない。

 聖女としての矜持が残っているのだろう。


 しかし──




 その聖女の心は、俺にとっては……裏ボスの俺とっては、邪魔なモノだ。




 いずれ訪れる、裏ボス主人公ルルナの決戦。


 《裏ダンジョン最奥部に到達した主人公に討伐される》。


 このメインクエストを達成するためには、俺はルルナに倒されなくてはならないんだ。


 果たして、今のルルナに俺を倒しきる戦闘力……いや、精神力は備わっているのだろうか!?


 俺は目の前の喧噪とは全く関係ない、己の事情について深く考えていた。




「ええいっ! 何をしている! この大罪人たちを早く連行するのだ!」


 リーダーと思しき人物が声を荒らげる。


「さっきから言ってるでしょ! 悪いのは聖王! アタシたちは聖王の企みを止めるために戦ったの!」


 チェルシーは教会の人間たちに事情を説明しているようだ。


「そんな荒唐無稽な話が信じられるか! 聖王様の行いは常に正しく、常に正義なのだ! その聖王様に仇なした者こそ、悪なのだ!」


 しかし、聖王を盲信している人間たちに、真実の声は届かなかった。


 俺たちが強引に連行されようとした、その時──




「そいつらの言ってることは正しい。なんならオレ様が代わりに説明してやるぜ」




 大聖堂という神聖な場所に相応しくない、盗賊のような出で立ちの男が扉を乱暴に開けて入ってきた。


「お、お前は……《荒くれの町ラガール》のリーダー、『ボス・オーガイン』!?」


 その男は、俺たちの良く知る人物だった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る