第34話 続・仲間とは

 俺は《聖都ロア》から離れ、《荒くれの町ラガール》に来ていた。

 ……というか、連れ去られてきていた。


 『仲間連れ去り事件』中にルルナの不信感を解消させたかったのだが。


 まさか、俺が連れ去られてしまうとは……。


 廃墟の地下牢に入れられた俺は、途方に暮れることしかできなかった。


 今の俺は、ちっぽけな牢屋も打ち破ることができない状態なのだ。


 壁に最強スキルを叩きこんでもビクともしない。

 

 クエスト進行中なので、正しい・・・方法で攻略しないと先に進めないということだ。


 でも、それだったら、負けイベであるはずの『ルキファス』戦に勝利できたのは何故だろうか?


 それとも俺が知らなかっただけで、ゲーム上でも頑張れば『ルキファス』に勝つことができたということなのだろうか?

 

 ゲーマーとして、少しだけモヤモヤした気分になる。


 俺が地下牢の中でたたずんでいると、


「っは、ざまぁねーな! 運命の導き手の仲間っていっても、オレ様の前じゃタダの人間。タダの雑魚だ! ガッハッハッハッハッハ!!!!」


 男が大きな声をあげた。

 

 牢屋の前で椅子に座りながら高笑いをあげている男は、この連れ去り事件の犯人──『ボス・オーガイン』だ。


 黒の眼帯、手にしたサーベルなど、盗賊を思わせるような出で立ちの『ボス・オーガイン』。

 彼は、《聖都ロア》で俺たちの前に現れた黒ローブの仮面集団を束ねる親玉であり、《荒くれの町ラガール》のリーダーでもある。


 といっても、この事件の首謀者ではない。


「…………」


「おぉ? なんだぁ、だんまりかぁ? ッフン! まさか、運命の導き手の仲間が、こんな腰抜けとはな! この分だと、運命の導き手も大したことなさそうだな!」


 『ボス・オーガイン』は椅子にふんぞり返って、ビールを飲み始めた。


 彼の見た目や発言内容から、小悪党という印象を受けてしまいそうになる。


 しかし、このキャラクター、実は物語上で重要な人物なのだ。


 ……なのだが。


 主人公・・・とは、あまり深く関わることがない。

 プレイヤーからしたら、馴染みが薄く、感情移入しにくいキャラクターでもある。


 ゲーム上では、常に俺は主人公だったので『仲間連れ去り事件』においては、仲間を助ける役目だった。


 だから、こうして連れ去られた側を体験するのは初めてのことだ。


 ──こんな会話をしていたのか。


 ゲームとは別の視点を体験できたことに感動を覚える。


 しかし、それよりも……。


「…………臭いな、ここ」


 荒くれの町の廃墟の地下牢。


 めちゃくちゃ臭かった。


 連れ去られた仲間、こんな場所に長時間も監禁されていたのか……。


 俺はゲーム中、クエストの合間に寄り道しまくっていたことを思い出し、心の中でゲーム内の仲間キャラクターたちに謝った。


 そうして考える──




 ルルナたちは、果たして俺を助けに来てくれるだろうか?




 俺は、今の仲間たちのことを思い浮かべる。


 俺のことを倒すべき魔神という認識になっていたら?

 助けるべき仲間ではないという認識になっていたら?


 ゲームの主人公と違って、助けに来る道理はなくなる。

 俺のことなど無視して、リング集めに戻るかもしれない。


 そっちのほうが合理的だし、効率的だ。



「あぁん? おい、今、臭いとか抜かしたか!?」


 『ボス・オーガイン』が牢屋の前に立ち、威圧感たっぷりに訊ねてくる。


「気のせいだ」


「フンッ! まぁいい、お前は、この臭くて薄暗い場所で死ぬんだからな!」


「…………」


 こいつが俺を殺さずに牢屋に入れておく理由。


 それは、ルルナたちの持つ『フェイタル・リング』を奪うためだ。


 ルルナの仲間である俺を人質にして、『水のリング』と『火のリング』と『風のリング』を奪い取る。

 そういう計画なのだ。


「ッチ、また、だんまりか。にしても、なんでオレ様がこんな雑魚の監視なんかしなきゃならねぇんだ! クソッ」


 乱暴に椅子に座り直し、吐き捨てるように言う『ボス・オーガイン』。


 こいつ自身は『フェイタル・リング』などには全く興味がない。


 この《仲間連れ去り事件》の首謀者。


 つまり、『フェイタル・リング』を奪おうとしている者は──




 聖王エリオン17世である。




 聖王エリオン17世も皇帝ディギレスと同様、世界を支配しようと企む『悪』なのだ。


 その真実が、この《仲間連れ去り事件》のクエスト中に明かされる。


 だが、その真実をルルナが知ったら、どう思うだろう?


 ルルナは主人公であり…………聖女だ。


 自らの信奉する聖王が、実は敵だったと言われたら?


 人間の思想や考えなど、簡単には変えられない。


 ましてや、自分の近くに悪の権化のような魔神がいるかもしれないのだ。


 聖王よりも、先に俺を倒そうとするのではないか?


 そんなことを考えていると──


「なんだ、お前らは!? どこから入ってきやがったぁ!?」


 『ボス・オーガイン』の声が地下牢に響いた。


 彼が見つめる先。


 そこには。




「ヴェリオさん! すみません! 助けに来るのが遅れてしまいました!」




 主人公ルルナの勇ましい姿があった。


「この場所を突き止めるのが大変だったのよ! 許してね、ヴェリオ様♪」


 茶目っ気たっぷりに言うチェルシー。


 2人は最強武器を携えて、『ボス・オーガイン』に向かってきていた。


「……ルルナ……チェルシー…………助けに来てくれたのか……」


 ルルナとチェルシーは既にボロボロ状態である。


 この《仲間連れ去り事件》。

 主人公サイドのクエストは、危険なミッションや敵とのバトルの連続なんだ。


 そのクエストを2人はクリアしてきたんだ。


 ──俺を助けるために。



「助けに来るのは当然です!!!! ヴェリオさんは……私たちの大切な仲間なんですから!!!!!」



 ルルナは希望に満ち溢れた表情で叫んだ。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る