第11話 楽々レベリング♪

「すみません……試練、失敗してしまいました……」


 《試練の塔》から出てきたルルナは、しょんぼりと項垂うなだれて言った。


「フハハハハハッ!! だから言っただろう! お前みたいな弱いヤツが塔の試練を突破することなど、絶対にできんとな!」


 ルルナが塔へ挑戦している間、ただ外で待つことしかできなかった俺。

 衛兵の嘲笑に何も言い返すことができない。


 今回の入山許可証入手クエストの失敗。

 主人公ルルナをLv1の状態で挑ませた俺に全ての責任がある。


「ルルナ……アタシはルルナの挑戦を誇りに思うわ! だから、そんなに落ち込まないでっ」


 チェルシーがルルナを励ます。


 チェルシーの表情には、落胆や絶望といった負の感情は一切なかった。

 ゲームの悪役令嬢チェルシーは完全に消え、主人公を支える『仲間』の姿がそこにはあった。


 それに比べて、俺は……。


 ゲーム知識とチート能力に頼り、調子に乗った結果がコレだ。


 クエスト前は、あれほど慎重にいこうと思っていたのに。


「ヴェリオさん……ごめんなさい……」


 落ち込む俺に対し、申し訳なさそうに謝ってくるルルナ。


 ルルナにも気を遣わせてしまったようだ。


 俺も落ち込んでなんかいられない。

 

「ルルナが謝る必要なんかない。むしろ、俺が一人で突っ走って行動したのが悪かった。ごめん、これからは2人にも相談して物事を進めていくから」


「ありがとうございます、ヴェリオさんっ。でも……これから、どうしましょうか……塔の試練をクリアしないと鉱山へは入れませんし……」


「そのことなら大丈夫だ。これから、俺がルルナをレベルアップさせるから」


 そう。

 文字通りに、レベルアップさせるのだ。


「どういうことでしょう?」


 首を傾げるルルナ。


「この付近の平原フィールドでモンスターを狩るのさ。塔の試練を突破できるLvまでレベル上げレベリングしようぜ!」


「なるほどっ。モンスターを倒すことで、私の基礎能力を上昇させるのですね?」


「そういうことだ。今がLv1だから……あと2か3くらいレベルを上げればクリアできるようになるだろう」


「わかりました! 次は…………必ずクリアしてみせますっ!」


 聖女様は瞳に炎を燃やし、意気込んだ。


「アタシも応援するわ! 頑張ろっ! ルルナ!」


 こうして、俺たちパーティーは《試練の塔》を離れ、近くの平原へと移動した。



 ◆



 《フェイタル・リング》はパワーレベリングできない仕様である。


 つまり、俺(Lv100)が倒したモンスターの経験値は、他のパーティーメンバーに分配されない、ということだ。


 そのフィールドやダンジョンの適正レベル帯のキャラクターでなければ、そもそも経験値を得ることができない。


 なので、『ゲーム終盤のダンジョンに飛んで、大量の経験値が得られる強力なモンスターを倒す』という方法は取れない。


 Lv1のルルナが、自身の手で適正レベル帯のモンスターを倒さなければならないのだ。


「……う、うわっ……っと! こ、このオオカミさん、なかなか手強いですねっ」


 ルルナが狼の突進攻撃を避けながら声を漏らす。


 平原に来た俺たちは《レッドウルフ》というモンスターと対峙していた。



【 名前 】レッドウルフ

【 種族 】狼

【 Lv 】3

【能力値】物理攻撃力15

     魔法攻撃力 0

     物理防御力15

     魔法防御力 0

【スキル】

 ・突進(攻撃力20) 

 ・噛みつき(攻撃力25)


【経験値】5~8




 ゲーム上では初心者向けの雑魚モンスター。


 しかし、実際に間近で見ると、なかなかに迫力がある。


 赤いたてがみに赤い尻尾。そして、鋭い牙。

 見た目は狼っぽいが、この世界では完全に『モンスター』だ。


「グルルルルルルゥッ!!」


 唸り声をあげて、ルルナを威嚇するレッドウルフ。


「オオカミさん……そんな怖い声をあげても、私は逃げませんからねっ」


 ルルナは貧弱な杖を握り締め、一人でレッドウルフと向き合う。


 ──やはり度胸がある。


 Lv1のルルナからしたら、Lv3のレッドウルフは格上の相手だ。

 レベル2差くらいであれば討伐経験値は入るが、倒すのが難しい敵である。


「ルルナ……大丈夫かしら……? アタシたちも一緒に戦ったほうが良いんじゃ!?」


 そう言って、ルルナを心配そうに見つめるチェルシー。


「大丈夫、ルルナ一人で問題ない」


「……ヴェリオ様がそう言うなら……アタシもルルナを信じる! 頑張れ! ルルナ!」


 チェルシーはルルナに向けて声援を送る

 

 実際のゲームであれば今のルルナが勝てる見込みは薄い。


 しかし──


「ルルナ! を使え!」


 俺は亜空間から1本の武器を取り出し、ルルナに投げ渡した。


「ひ、ひゃっ!? なんですか!? この禍々しい武器!」


 ルルナは渡された武器を恐る恐る両手で抱える。


「それは『デーモンサイズ』という名前の鎌で、最強の武器の一種だ。それを装備してレッドウルフに攻撃してみろ」



【デーモンサイズ】物理攻撃力900

 ・ゲーム内最強の大鎌。装備者は特殊スキル《悪魔の審判ラスト・ジャッジメント》が使用可能になる。



 ──俺が裏ダンジョンで入手した最強の武器である。



「…………んっ、んんんんんっ!! ダ、ダメですっ! この武器、私には装備できないみたいです……」


 ルルナの身丈を超える大きさの大鎌『デーモンサイズ』。

 どうやらルルナには重く、両手で支えるのが精一杯らしい。

 

 装備して相手に攻撃することなど、とても無理そうだった。


 ここまでは予想通り。


 聖女であるルルナに、魔の装備である『デーモンサイズ』は装備できるはずがない。そもそも、悪魔の大鎌を振り回す聖女など、もはや聖女ではない。


 だが! 俺には、その制限を解除することができるはず!



【スキル】

 ・装備制限解除

 キャラクターに設定されている装備制限を解除し、全ての武器防具を装備可能にする。



 ──以前確認した、このスキル。


 使うのは、今まさに、この時だろう!


 俺はルルナに手を翳し、《装備制限解除》スキルを使用した。


 すると──


「あ、あれ!? ルルナが鎌を持ち上げてるわよ!? どういうこと!?」


 チェルシーが驚きの声をあげる。


 聖女ルルナは、闇のドス黒いオーラを放つ大鎌をで持ち上げていた。


「これは……? なんだか私の手に馴染む武器ですね……今まで使っていた杖よりも軽く感じます」


 不思議そうに大鎌を見つめるルルナ。


 ルルナは『デーモンサイズ』を片手で軽く振り回し、周囲に風を発生させる。


「うわっ! 凄いわね、あの鎌! 風圧だけでレッドウルフが飛んでいくわよ!」


 ルルナの周囲にいたレッドウルフは、一瞬にして吹き飛ばされていた。


「ルルナ! その調子で、この周辺に居るレッドウルフを全部狩ってみろ」


「わかりました!」


 『デーモンサイズ』を装備してゴリ押しすれば、大体のクエストはクリアできる。


 しかし、《試練の塔》イベントのように、キャラクターのレベルがクリアに直接影響してくるクエストも存在する。


 それに、このタイミングでレベル上げレベリングしておくと、後々、楽になるだ。この時間は決して無駄ではない。



 その後、ルルナはレッドウルフを黙々と狩り続けた。

 悪魔の大鎌『デーモンサイズ』を振り回しながら。


 その結果──



【 名前 】ルルナ

【 種族 】人間

【 Lv 】5

【 職業 】聖職者

【能力値】物理攻撃力 905

     魔法攻撃力  20

     物理防御力   5

     魔法防御力  20

【 装備 】・聖女の服

     ・デーモンサイズ

【 特記 】

 ・《フェイタル・リング》の主人公。

 ・水のフェイタル・リングを手に入れたことで、運命の導き手となる。



 《試練の塔》クリア推奨レベルを簡単に越えることができたのだった。






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