ゲーム内最強の『裏ボス』に転生したが、誰も俺を倒しに来ないので正体を隠して主人公たちの手伝いをすることした。~知識チートと能力チートで無双していたら、なぜかハーレムができあがっていた~

迅空也

第1話 最強の裏ボス、覚醒する

 いよいよ、その時がきた──


 大人気オープンワールドRPG「フェイタル・リング」。

 そのゲームのラスボスを残り一撃で倒せるという状況まで辿り着いていた。


 あと1回の攻撃でゲームクリア。


 コントローラーを持つ手が自然と震える。


 ゲーム発売から毎日15時間以上、計9000時間を攻略に費やした。

 600日間の壮大な冒険が幕を閉じるのだ。


 ゲームばかりしていたので大学の取得単位数はヤバい状況になっている。


 しかし、友達の居ない俺にとっては、このゲームで過ごした時間と経験こそが何よりの宝物になっていた。


「ありがとう、みんな……ラスボス倒したら、俺……ちゃんと大学の単位取るから!」


 これまで一緒に冒険をしてきたNPCの仲間キャラクターたちに、俺は液晶ディスプレイ越しで感謝の言葉を述べる。


 ゲームをクリアしたら、現実の大学生活クエストに戻るんだ。


 俺は覚悟を決め、握り締めていたコントローラーのボタンを押した。



 ──ラスボスへ最後の攻撃を繰り出すボタンを。



 直後。


 主人公の攻撃がラスボスに当たり、ムービーシーンに切り替わった。


 そして、エンディング画面に移行した後、荘厳なBGMとともにスタッフロールが流れ始めた。


 こんな素晴らしいゲームを作ってくれたスタッフの方々には感謝の言葉しかない。


「……スタッフさん、俺の無味乾燥な大学生活に彩りを与えてくれて本当にありがとうございました」


 ゲーム内での思い出が走馬灯のように脳裏に浮かび上がってくる。


 一方、画面上ではスタッフロールが流れ終わり、ゲームクリアを表す「The End」の文字が浮かび上がってきていた。


 これで本当に終わりか……。


 万感の思いに浸っていると──


 突如視界が暗転し、俺の意識は糸が切れたように、そこで途絶えた。



 ◆



 意識が戻り、俺は自然と目を開ける。


 しかし、視界は暗いままだった。


 真っ暗闇というわけではない。電気を消した記憶はないが、どういうわけか部屋が薄暗くなっているようだ。


 どうやら俺はゲームをクリアした直後、寝落ちしてしまったらしい。


 椅子に座ったままだが、液晶ディスプレイの電源は落ちており、スピーカーから流れていた荘厳なBGMも消えていた。


 徐々に視界の暗さに慣れてくる。


 そして、異変に気がついた。


「え、なにここ……俺の部屋じゃないんだけど……」


 視界に飛び込んできた光景。

 明らかに自分の部屋ではなかった。


 愛用のゲーミングチェアは、獣の骨を剥き出しにして作られたような悪趣味な椅子に変わっており、液晶ディスプレイもスピーカーもコントローラーも全て消えて無くなっている。


 BGMどころか世界から音が全て消えてしまったかのように、周囲には静寂が広がっていた。

 

 俺は、さらなる異変に気づく。


「この服はなんだ?」


 ジャージ姿でゲームをしていたはずなのだが、いつの間にか俺はファンタジー世界の魔術師のような黒いローブを着ていた。


 やがて視界が晴れていき、自分の居る空間の全容が明らかになったことで、俺に一つの考えが浮かんでくる。


 変容してしまった自分の服……そして、この殺風景な暗い部屋……。


「これ、もしかして寝落ちじゃなくて異世界転生ってやつか?」


 しかも、いきなり訳の分からない場所で目覚めて、いきなり物語をスタートさせるパターン。


 神的な存在に説明を受けた後、異世界生活をスタートさせるパターンのほうが個人的には合っているのだが……。


 新しいゲームをプレイする際、俺は事前情報や操作方法、ストーリーやキャラクター紹介をネットで細かく調べてから発売を待つタイプだ。


 こんな唐突な展開で始められると、いくらゲームやラノベに慣れ親しんでいる俺でも面食らってしまう。


「──まるで《フェイタル・リング》のような意味不明な展開だな」


 先程まで俺が熱中してプレイしていたゲーム《フェイタル・リング》。


 あのゲームも、物語開始時点で何の説明も無かった。

 ゲームを進めていくことで世界観や設定、操作方法を学んでいったのだ。


 あまりの自由度の高さに、何をすれば良いのか悩んでしまうプレイヤーが続出したとか。


 俺はゲームを遊び尽くそうと、序盤から世界ワールドを探索しまくった。

 結果、メインクエスト以外のサブクエストも達成度100%になったのだが。


 そんな俺が、今の意味不明な状況でやることと言えば……。


「スペック確認と探索だな!」


 まずは、俺がなのか。それを確認しなければならない。


 静寂が広がる空間には鏡のようなモノは見当たらない。

 というか、モノ自体なかった。


 高校の体育館くらい広い部屋なのに、モノが何一つ置いていない。

 

 キャラクターグッズが所狭しと並べられている俺の部屋とは正反対の空間だ。

 とても、自分の自室とは思えない。


 俺は、自分が自分以外の存在に置き換わってしまった可能性を考える。


 そんなことを考えていると……。


 視界の右上に、点滅する『!』マークが現れた。


「このインフォメーションマーク……マジで《フェイタル・リング》じゃん……」


 新たな情報が得られた際に、ゲーム画面上に出てくるマーク。

 今まさに、それと同じマークが俺の視界に表示されていた。


 なんだ、この世界は……。


 本当に異世界なのだろうか?

 まるでゲームの──《フェイタル・リング》のような世界だ。

 しかし、ここは《フェイタル・リング》の世界ではないだろう。


 100%ゲームをやり込んだ俺だが、この陰気な場所に見覚えはなかった。

 こんな部屋、ゲーム上で一度も訪れていない。


 俺は怪訝に思いながらも『!』マークを指で押してみた。


 すると視界に、たくさんの文字列が一斉に表示された。


 アイテム、ステータス、仲間、クエスト……等々。

 俺はスマホの画面をタップするように、『ステータス』に触れてみた。




【 名前 】魔神ヴェリオーグ

【 種族 】魔族

【 Lv 】100(MAX)

【 職業 】魔神

【能力値】物理攻撃力 850

     魔法攻撃力 999(MAX)

     物理防御力 850

     魔法防御力 999(MAX)

【 装備 】魔神のローブ(ユニーク)

【スキル】

 ・《悲劇的なカタストロフィ・終幕ジ・エンド

  指定範囲上に、触れた者を無に帰す『闇』を発生させる。

  主人公が『闇』に飲まれた場合、即ゲームオーバーとなる。


 ・《混沌のカオティック・終劇フィナーレ

  前方へ向けて放つ、直線的な魔法攻撃。


 ・《闇の幕開けヴェ・リオーグ

  HPが0になったキャラクターに自身の血を注ぎ込み眷属化させる。

  魔神ヴェリオーグの眷属になった者は闇属性となり、魔神に支配される。

                 ・

                 ・

                 ・



 魔神ヴェリオーグ!?

 っていうか、職業の魔神ってなに!?

 魔神って職業だったの!?


 その後、様々なスキルが表示されていき──


 俺はステータス欄の最後の項目に目がまった。



【 特記 】

 ・《フェイタル・リング》の裏ボス。

 ・裏ダンジョンであるデーモンパレスの最奥部で主人公たちを待ち構える。

 ・ゲーム内最強の敵キャラクター。



 これ、完全に《フェイタル・リング》の世界に転生しちゃってんじゃん!


 しかも、裏ボスって。


「俺、敵キャラクターなのかよ……」


 魔神ヴェリオーグとか全然聞いたことないし、なんだよ裏ボスって!?


 それにLv100ってマジかよ。


 俺がゲームクリアした時の主人公、Lv30くらいだったんだけど……。



「これ、チートキャラすぎるだろ」



 裏ボスの声が薄暗い部屋に寂しく響き渡った。






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