5分休み探偵五反田くん

美崎あらた

第1話 中休み

「バトルフィールド、展開!」


 僕の掛け声とともに、我々は市川いちかわくんの机と羽生はにゅうさんの机をくっつける。

 2時間目と3時間目の間に与えられた20分休み。

 伊礼座いれいざ小学校5年2組の教室。

 雨が降っていてドッジボールができない日にすべきこと、それは『消しバト』だった。


「さーて、やりますか」

 市川くんはそう言って、スタンダードな『MONO』消しゴムを審判である僕に手渡す。青白黒のカバー。6月に入ってから無敗の『MONO』使い市川くん。


「今日は負けないよ」

 青のカバー『AIR-IN』使いの羽生さん。消しバト選手唯一の女子。男勝りな性格というのだろうか、いつも僕らとつるんでいて、消しゴム使って恋のおまじないなんかに興じている女子チームにはあまり入らない。


「オイラも入れてくれ~」

 重たそうな足音とともに近づいてくる『まとまるくん』使いの兵頭ひょうどうくん。あまり動かない防御タイプ。


「ボクもやるよ」

 眼鏡をふきながらやってきたのは『レーダー』使いの種崎たねざきくん。水色にRadarの白文字。彼は正確な遠距離射撃が持ち味である。


「市川殿の天下も今日まででござる」

 まさかのござる口調は『カドケシ』使いの角田かくたくん。小さな立方体が互い違いについていて、ずっとカドが使えますよという変わり種消しゴム。


 僕は全員の消しゴムをフィールド中央、上空から落とす。それが皆のスターティングポジションだ。順番は公平にジャンケンで決める。

 消しゴムバトル通称『消しバト』のルールは簡単。自分の消しゴムを指ではじき、他の消しゴムにぶつけて机の外に落とせば勝ちというものだ。


「じゃあ俺から」

 青白黒のカバーでおなじみ、市川くんの『MONO』が机の中央へ。初手はセンターポジションを取るのが無難だ。下手に攻撃をして自分の消しゴムが机の端に止まってしまうと、他の選手から狙い撃ちにされる。


「そこはオイラの場所だぞぅ」

 兵頭くんの『まとまるくん』がズイッと出てきてセンターを横取り。『MONO』はやや脇へ押しやられる。


「皆の衆、守りに入りすぎですぞ」

 角田くんの『カドケシ』が躍り出るが、机と机の間にできた溝で大きくバウンドし、そのまま自滅。一同爆笑。


「はえー」

「よえー」

「ござるー」


 次は種崎くんの番だった。彼の『レーダー』はスタート段階で他の消しゴムたちから離れた場所にいた。

「今日は無敗記録を破るために市川くんを狙っていくよ」

「よかろう、かかってきな」

 市川くんの『MONO』を狙って、まっすぐ放たれた『レーダー』。最初はよかったのだが、なぜか途中から吸い寄せられるように『まとまるくん』の方へ。

「おわぁ、なんでオイラの方にくるんだ~」

「ごめんごめん」

 謎の幸運に守られた『MONO』からやや離れたところに『レーダー』と『まとまるくん』が並ぶ。


「チャーンス!」

 ここで紅一点『AIR-IN』使いの羽生さん。

「まさか、二つ同時に?」

 ビビる種崎くん。

「女子のパワーじゃできないぞ」

 虚勢を張る兵頭くん。


「なめんじゃねぇ!」

 羽生さんの『AIR-IN』がすさまじい勢いで飛ぶ。そう、「飛ぶ」という形容が良く似合う。飛ぶように机上を駆け、『レーダー』と『まとまるくん』を場外へ吹き飛ばしながら、自らも机の外へ。


「おいおいやりすぎだよ」

「ありゃ、どこいった?」

「教室の隅へ消えたでござるよ」

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