地女に恋した俺は夢を見ていた

@cakucaku

第1話

 

 ここは俺が住む地下の世界。


 これは噂だが、地上の世界との出入り口は一つしかない。


 もちろん俺は地上の世界に行った事はないし、行ったと言う人も俺の周りには一人もいない。


 俺の住む地下の世界はいつも暗く涼しい。


 地上には四季というものがあって暑い時や寒い時もあると聞いた。

 明るさだって、朝、昼、晩と時間によって変わるらしい。


 このぐらいの知識は小学校低学年で習うような事だ。


 しかし、俺は思った。


 そんなにコロコロ気温や明るさが変わっては眩暈がしそうだと。


 その時はまだ知らなかった。

 俺の身に起こる奇妙な体験を。




 俺の名前はアニ45歳だ。



 普段は主に工事現場で働いている。


 今日も朝5時に起きて現場に向かう。


「おはようございます!」


 現場に着くと先輩たちに元気に挨拶する。


「おはよう!アニは今日も元気だな!」


 この人はトンさんだ。

 トンさんは俺の5歳年上で今年50歳だ。


「トンさんもまだまだ現役ですね!」


「当たり前だろう!俺は家族を食わせていかねーとならねーからな!」


 トンさんは三人の子の父親なのだ。


「いいですね!俺にも家族がいたらもっと頑張れるのに」


「今からでも遅くねーぞ!いい人見つけろ!」


 俺とトンさんはもうかれこれ20年の付き合いだが、その間に彼女がいた事がない為紹介した事はない。


「そうは言っても出会いがないんですよ」


「お前、地女って知ってるか?」


 トンさんが少し小声で言うものだから、俺もつられて小声になる。


「地女?聞いた事ないですけど、なんですか?」


「特別に教えてやるよ。地女ってのはな、地上に住む女の事だよ。地女と書いてちじょと読むらしい」


「地上?地上ってあの?」


「そう、なんでも地女と会えるっていう秘密の場所があるらしいんだが、ほんの一握りの人間しか知らないらしい」


「もしかしてトンさん知ってるんですか?」


「それが、知らねーんだよ!ハハハッ!」


 騙された。

 トンさんはいつも俺の事をからかっては面白がって笑っている。


「どうせそんな事だと思いましたよ」


 一瞬でも期待した俺が馬鹿みたいに肩を落としていると、トンさんは続けて言った。


「でもよ、その話は本当らしいぞ」


「知らないのによくもそんな嘘言えますね」


「俺はよくお前に冗談や嘘を言う、でもこの話はどうも本当らしいんだ!信じてくれ」


「でもそれどこから仕入れた情報ですか?」


「最近結婚したギョプって知ってるか?」


「はい、あのチビデブハゲのですよね」


「そいつが結婚したってのがその地女らしくてよ、話してるの聞いたんだよ」


「じゃあギョプに聞いたら分かるんじゃないんですか?」


「それが、俺が話を聞こうとギョプを探してもいねーからよ、他のやつに聞いたら、どうもギョプのやつ行方が分からなくなってるらしいぞ」


「それって関わったらやばい事になるんじゃないんですか?」


「ハハッ!だからよ、一か八かで出会えるかもしれねーだろ?」


「他人事だと思って、トンさんはー」


 でも、内心気になっていた俺は帰ってからネットで調べて見る事にした。



 俺は真っ直ぐ帰ると手も洗わずPCに向かい検索をかけてみる。


 すると、地女とはーーー。

 

 地女の読み方や意味などが出てくるだけで、それっぽいものは見当たらない。


 やっぱりトンさん嘘ついてる。

 本当からかうのが好きだなと思っていた。


 しかし、念のため画面を一番下までスクロールしてみたところ、興味深いサイトが見つかった。


 それは地女と出会えるかも?と言った謳い文句のサイトだった。


 ワンクリック詐欺かとも思ったが、思い切ってクリックしてみる。


 すると、PCの画面が急に落ちた。


 は?どうなってんだ?


 電源は切れてない。って事は真っ暗な画面になってるだけか?

 

 クリックしても反応しない、電源のスイッチを押しても反応しない、俺はその真っ暗な画面をぼーっと見つめるしかなかった。


 あー、トンさんが余計な事吹き込むから面倒くさい事になってしまったと、間に受けた事に後悔していた。


 しかも待てど暮らせど画面は戻らない。


 仕方なく画面から離れようとしたその時、どこからか声がしたような気がした。


 ん?今なんか聞こえたぞ。


 動きを止めて耳を澄ませて見ると、どうやら画面から聞こえていた。


 俺は真っ暗な画面に耳を当てて見る事にした。


「ようこそ!!よくクリックしてくれました!!」


「わぁ!!」


 いきなり大声で画面から聞こえたのは男性の声だった。

 耳の鼓膜が破れるかと思う程大きい声に、俺は後ろにひっくり返り尻餅をついた。


「なんだよ!誰だ!」


 俺はついそう叫んでしまったが、画面は真っ暗なまま。


 なんだったんだ今のは。


 状況が飲み込めない俺は恐る恐るもう一度画面に近づいてみる。


「ビックリしたでしょ?ね?そうでしょ?」


 今度は普通の声量でさっきの男性だろうか、同じ声の人が喋った。


「う、だ、誰?」


「どうも、申し遅れました。私、このサイトの管理人で地上人のサイと申します」


「サイトの管理人のサイ?さん?」


 俺は自分でも驚く程疑う事なく会話していた。


「はい。あなたは地女と出会いたいですか?」


「あ、俺は出会いたいとかじゃなくて、興味本位で、調べてただけなんですけど」


 嘘だ、本当は内心期待していた。


「そうですか、残念です。では」


 声の男性はさっきとは声質が変わりとても暗くなっていた。


 俺はとっさに言った。


「待ってください!さっきのは嘘です!本当は出会いたいです!」


 すると、今度はまた元の明るい声に戻り言った。


「そうですか!ではではご案内致しましょう!」


「案内するってどこにですか?」


「もちろん夢の世界にですよ」


「夢の世界?地女はどうなったんですか?」


「まぁまぁ、来てみたら分かりますって!」


 俺は何がなんだか分からず、ただ呆然と画面の前に立ち尽くしていた。


 ‥‥‥‥‥。


 って何も起こらないじゃないか!


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