第32話 逃げる魔王軍幹部

 初めのみ三人称です。

 作者の文才では一人称で表現することが出来なかった……!

————————————————————————————


 世界を包み込んでいた白銀の輝きが隼人を中心として収束していく。

 そして周りの色や音が元に戻った時にはその姿を表していた。


「は、馬鹿な……! こ、こんな事……あ、ありえない……! 落ちこぼれの雑魚の分際で……」


 ルドリートが驚愕するのも無理はない。

 隼人は己の身を、努力とありふれたスキルのみで竜王と同等並みの身体へと昇華させたのだから。


 白銀のオーラのベールから解き放たれた隼人の姿は、身体強化時に発言していた雷に打たれた時に発生する雷紋の様な亀裂は姿形を消していた。

 そして誰もが見惚れる程の美しい白銀の髪や瞳を持っており、その姿は神々しさすら感じられる程だ。


 その完成した隼人の姿にルドリートはただただ後ずさるのみ。

 これは体の本能がそうさせているからだ。


 その昔ルドリートは1度竜王に会っており、その強さを目に焼き付けていた。

 

 その輝く白銀は味方が見れば美しいが、敵が見れば死を直感する恐ろしい物に早変わりする。

 それを身に染みて体験したルドリートの体は、最早自分の意思で動かすことができないほどになっていた。


「……この威圧感は……竜王様と同等……」


 最早信じざるを得ない。

 隼人は落第勇者でも圧倒的強者だと。


 ルドリートは唾をゴクリと飲み込み、全身からは滝のような汗を掻く。


(アイツはもう落ちこぼれではない……立派な化け物の1人じゃないかっ! くそッ! これでは俺の勝ち目が無くなってしまう……どうにかしなければ! ……ん?)


 ルドリートは一向に動き出さない隼人に疑問を覚える。

 それと同時に今がチャンスなのではと思い、魔力を完全開放した。

 更には指を噛み、血を流して最硬度の剣を作ると、全力で襲い掛かる。


「死ねぇええええッッ!!」


 ルドリートの全力の振り下ろしが隼人に当たりそうになったその時。


「!?!?」


 まるで隼人を守るかの様に身体の周りを一瞬にして白銀のオーラが包み、ルドリートの攻撃を無効化する。

 ルドリートを退けたオーラは火花を散らして奔流の様に渦巻いていおり、隼人を守る盾となった。

 

 そこで遂に隼人が目を開く。 

 それはルドリートの敗北を意味していた。

 

 





☆☆☆






 俺の視界が開けると、目の前には驚愕と恐怖を綯い交ぜにした様な表情を浮かべて何歩も後ずさるルドリートの姿。

 そんな彼の手にはユラユラと幻影の様に不安定に揺れる剣の形をした何かが握られていた。


 俺がルドリートから目線を外して周りを確認すると、俺を中心として地面にクレーターが出来ており、更には周りの木々は根から引っこ抜かれて倒れている。


「……これは後で大変な事になりそうだな」


 俺は周りの状況を確認した後にそう溢す。

 下手したら異能者の存在を明かさなければならなくなるかもしれない。


 ただ俺はそれに関しては後悔していない。

 この目の前の塵を斃さなければ人類に未来はないのだから。


「それで……お前は何をしているんだ? どうした? 来ないのか?」


 俺はこの状態になった時にのみ使える技、《ドラゴンフィアー》を使用しながら言葉を紡ぐ。


「今から俺がお前を殺す——が、楽に死んでくれるなよ?」

「ちょ、調子に乗るな、人間風情がッッ!!」


 プライドを傷つけられたルドリートが、ユラユラと揺れていた剣を硬くすると、突っ込んでくる。

 しかし俺の《ドラゴンフィアー》が効いているのか速度はそこまで速くない。


 俺は首を少し傾けて奴の刺突を回避する。

 

「まだだ!! これで終わりじゃ無いぞ!」


 その言葉通り俺を通り過ぎた剣が横薙ぎによって再び俺の顔に接近してくるが、


「——遅い。こんなの避けるまでも無い」


 俺は無造作に迫って来た剣を掴むと、力を込めて握り潰す。

 すると仄かに血の匂いが俺の鼻腔を通る。


「……【血術】か。通りで他の剣より硬いわけだ」


 血術はヴァンパイア特有のスキルで、自身の血や眷属の血を自由に操ることが出来、血の量に応じて様々な物に作り替えることができる、俺の持つスキルよりもよっぽどチート級のスキルだ。

 しかしそんな強力なスキルも竜王の身体には無意味。


 俺は自慢の血剣を壊された事に呆然としている屑の腹に蹴りを入れる。


「カッッ——ハッ!?」

「ふッ———まだまだこれからだぞ」


 体を『つ』の字にして音速を超える速度で吹き飛ぶルドリートに一呼吸で追い付くと頭をアイアンクローで掴み地面に叩き付ける。

 目を白目に剥いて気絶しそうになっているルドリートを首を掴んで持ち上げ、鳩尾に拳を叩き込む。


「ゴハッ!? ゴホッゴホッ!! ……ハァハァハァ……。グッ……ギザ……マ"アアアアアアア!!」

「五月蝿い」


 俺はルドリートふわりと空中に投げると顔面を消し飛ばす勢いで拳を振り抜く。

 すると「パァン!!」と言う破裂音と共にルドリートの顔面が跡形もなく消滅した。

 しかし——


「……このくらいでは死なないか……」


 首から一瞬にして顔面が再生した。

 顔面の復活したルドリートは俺から高速で距離を取る。


「ハァハァハァ……ば、化け物め——ッッ!!」

「お前に言われたく無いな。人類から見ればお前の方が化け物だ」


 同族を殺す事に快楽を覚える奴など人では無い。

 人間の皮を被った悪魔が化け物だ。


 俺は拳を構えると、音もなく接近し反応すら出来ない速度で何百発も打撃を加える。

 その全てが山に風穴を開けれる程の力が籠っている。

 そんな力の篭った拳を無防備に喰らったルドリートは無事な訳なく——跡形もなく吹き飛ぶ。


 しかしそれでもヴァンパイアは殺せないらしくすぐに再生してしまう。

 

「———ハァ!? き、貴様……」


 噛みつこうとしたルドリートだったが、俺を視界に捉えた瞬間に恐怖で体を震わせて口を継ぐんだ。

 俺はそんな情け無い男の姿を見てトドメを刺そうとする。


「これで終わりだ。幾らお前の再生力であろうとこの一撃には耐えられないだろ?」


 俺は破壊剣カラドボルグを手に召喚して【破壊】を使用。

 漆黒の魔力によって刀身の伸びた剣を奴の首に向ける。


「グ、グウウウウウ……こんな所でまだ死ねない……! お前には必ず絶望を味あわせてやる……ッ!!」

「無理だ。もう無駄な抵抗はよせ。どう足掻いてもお前はここで死ぬ」

「いや———死なない方法はあるさ。とっておきがな!!」

「!?」


 その瞬間にルドリートの姿が掻き消える。

 すぐに感知を発動させるが、半径1kmに奴の気配はない。

 俺は最後の最後で奴を逃してしまった。


「くそッ——! どう言う事だ!? 魔法の発動なんて感じなかったぞ!?」


 どこに行った……?

 奴が逃げるとしたら何処だ……?


 俺は物凄い速さで思考を働かせる。


 異世界か?

 ——いや違う。

 もし異世界に転移するなら必ず魔法発動の兆候があるはずだ。

 神々が作ったとされる古代魔法の異世界転移ですら魔法の発動を隠す事なんて不可能。


 ならこの世界の何処かのはずだ……考えろ……必ず奴の言動にヒントがあるはずだ……!


 俺は出会ってからの奴の言動を思い出す。

 しかしこれと言った手掛かりは思いつかない。


「くそッ! 一体何処に行きやがったッッ!!」


 俺の叫びに呼応する様に大地が揺れる。

 それに気付いた俺は深呼吸をして冷静になるように努める。


 ふぅ……ダメだ、落ち着かなければ。

 怒りは時に大切な物を失う原因となる。


 ———……ん? 大切なもの……?


 俺はそこで思い出した。

 奴が逃げる前に発した言葉を。


『お前には必ず絶望を味あわせてやる……!』


 俺の大切なものは、1番に家族。

 そして次に一目惚れした優奈さんと友達となった優奈さんの弟——颯太。

 更に何かと気に掛けてくれた清華と俺の親友である光輝。


 そこまで考えた時、奴の居場所が分かった。


「分かったぞ——! 奴の居場所は———学校だッッ!!」


 俺はその瞬間に白銀の残像を残しながら超速を超えて走り出す。

 既に考え始めて2分は経っているため、それは奴が向こうに着いて2分経っているということだ。

 このままだと皆が危ない。


「頼む……必ず無事でいてくれ———ッ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る