第29話 落第勇者、ゴブリンエンペラーとタイマンを張る②

 結果的に言えば、俺が追いついた頃にはゴブリンエンペラーは学校から1km程離れた山の巨木に激突していた。

 しかし俺の殴った所から血を流している以外にこれと言った傷は無さそうだ。


「相変わらずタフな野郎だな……」


 うんざりとした感じで深いため息を吐いてしまうが、今回はしょうがないと思う。

 これでも俺は結構本気で殴ったのに、殆どダメージがないんだぞ?

 あんまり長引いたら先に俺の体が壊れるっていうのに。


 俺が辟易としていると、ゴブリンエンペラーが巨木から身体を起き上がらせて俺へと目線を向ける。


「オマエ……ツヨイナ……」

「……はぁ……喋れるのも同じ。やっぱり俺のいた異世界の生き物で間違いなさそうだな」


 モンスター達は、高位のモンスターになるに連れて大陸共通語を話せる様になる。

 その為ドラゴンやグリフォンと言ったモンスター達は殆どが何かしらで会話可能だった。

 目の前のゴブリンエンペラーも異世界で高位のモンスターの一種だったので話せるのも納得だ。


「話せない方が俺的には罪悪感が湧かないから良いんだがな」 

「オマエツヨイ……イマカラホンキダス」


 そう言った瞬間にゴブリンエンペラーから大地を揺るがす威圧感が発生した。

 

「ぐっ……」


 俺はその威圧感に後退りそうになるが、ギリギリの所で耐える。

 モンスターとの戦いでは、先に怯えた方が負けを意味するのだ。

 ここで引くわけには行かない。


「【身体強化:Ⅷ】ッッ!!」


 俺は更に1段階身体能力を強化。

 すると地面が威圧だけで陥没する。

 そのお陰でゴブリンエンペラーの威圧から抜け出すことが出来た。

 しかし奴も俺の威圧感に怯えた様子はないので、この状態でも実力が拮抗していると言う証だ。

 

「一気に行かせて貰うぞ———はッ!!」


 俺は音速を超えてゴブリンエンペラーに接近する。

 地面を蹴った音が聞こえくる時には既に奴の懐に入っており、そこで初めてゴブリンエンペラーが俺の接近に気付くが、もう遅い。


「はぁぁあああ!!」


 破壊剣カラドボルグを一瞬の内に何十回も振るう。

 勿論ただ単純に振るうだけではなく、袈裟斬りや横薙ぎ、振り下ろしや振り上げを駆使して、四肢を中心にバラバラに攻撃していく。

 しかし奴の皮膚が硬すぎるのと、俺が弱体化している事によって破壊剣カラドボルグも弱体化しているのか深い傷を負わす事は出来なかった。


「グゥゥゥ……ニンゲン! オマエハコロス!!」

「!?」


 ゴブリンエンペラーが鬱陶しそうに片手で巨大な大剣を横薙ぎしてきた。

 その速度は軽く音速に達しており、反射神経では危険なので【感知】によって軌道を予測して体を逸らして避ける。

 そしてその状態のまま一旦剣をイヤリングに戻し、腕を地面に付けてブリッジの様な体勢から足を空中で曲げて一気に解放する。


「お返し——だッ!!」

「グォォッ!?」


 俺の渾身の蹴りは見事奴の鳩尾に入り、ゴブリンエンペラーが1、2歩よろける。

 その隙を逃しはしない——ッ!


「カーラッッ!! 解放だ!」

『よし来た、この我に任せろ。———《破壊》ッッ!!』


 破壊剣カラドボルグからドス黒いオーラが発生し、刀身がオーラに染まったかと思うと、刀身が1mほど伸びる。

 この技は破壊の概念を宿したオーラを刀身に纏って触れた対象を再生不可能なまでに分解すると言う恐ろしい技だ。

 しかしこう言った外皮の硬いモンスターには効果抜群である。

 剣がゴブリンエンペラーに触れるとそこからスッと刃が入っていく。


「ナ、ナンダト……!?」


 自身の自慢の体をあっさりと通っていく事に驚愕の表情を見せるゴブリンエンペラー。

 しかしすぐに焦りながら大剣で俺の剣を跳ね返そうとするが、


『そんななまくらで我を止める事など出来るわけないだろうが』


 その言葉通り、剣は止まる事なく一瞬にして大剣の方が真っ二つに割れた。

 折れた刀身が吹き飛び、運良くゴブリンエンペラーの体に突き刺さる。


「グルァァァァ!? イタイ!」

「——安心しろ、すぐに楽になる」


 俺は腕に力を入れて剣を振り切って胴体を真っ二つにする。

 しかし胴体を真っ二つにした所でこのくらいの強者ともなれば、死にたくてもすぐに死ねない。

 俺はそのを知っているため、更に剣を振るって細切れにする。

 

「…………」


 ゴブリンエンペラーは何も言う事なく灰となって消えていった。

 ここで1度気を抜きたくなるが、まだこの襲撃は終わっていない。


 俺は身体強化をⅧからⅣまで落として感知を全開にして首謀者を探す。

 身体強化をしている今の俺なら10kmまでなら何とか感知出来るはずだ。

 いや根性でやり遂げてみせる。

 

 俺は目を瞑って感知にのみ集中する。

 間違いなく帰還して過去最高レベルの使用に鼻から血が吹き出す。

 更には目からも血が流れていくのを肌で感じている。


「ぐぅぅぅぅぅ……! 後……少し……!」


 俺は既に自身の体が地面に立っているのか、それとも倒れているのか、そもそも地面に触れているのかすら分からない状態になっていた。

 【感知】は【身体強化】よりも身体への負担が少ないと思われる事がよくあるが、全くそんな事ない。

 何なら本気で使うとしたら【感知】の方が身体への負担は大きい。

 

 人間は足や手がなくとも生きていけるが、脳が無ければ生きてはいけないのはどの世界でも同じだ。

 それと一緒で、【身体強化】は主に脳以外の全身を強化するスキルで、【感知】の精度は脳の処理能力に依存する。

 

 俺はそれから5分掛けて何とか感知をが終了した。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 戦闘中ですら上がらなかった息が感知をしただけで苦しいほど上がる。

 

「だが……はぁはぁ……見つけたぞ……!」


 俺は軽く呼吸を整えて立ち上がる。

 そう言えば感知を終えたら俺は何故かぶっ倒れてた。

 それも仰向けに。


「本当に敵の前だと使えないな……」


 俺は改めて【感知】の欠点を確認出来たので気を付けて使っていこうと思う。

 俺は感知を解除し、その代わりに身体強化をⅥまで上昇させると、全速力で感知した元へと向かう。


「待っていろ、必ずもう1度ぶっ殺してやる。———魔王軍元幹部『支配者』ッッ!!」



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