第16話 触るな危険



「僕、そちらに向かいましょうか?」


詩織のお母さんは最初遠慮していたが、僕が何度もお願いして詩織の家に向かうことになった。

いつも助けてくれる詩織と詩織の両親、何かあったのなら力になりたかった。

詩織のお母さんは僕が迷子にならないように、車で家まで迎えに来てくれた。


「お邪魔します、、、。」


無事に詩織の家へと到着した。

久々の幼馴染の家に少し緊張する。

手や足にじんわりと汗が滲み、懐かしい匂いが鼻と心をくすぐる。


「コレを詩織に見せようと思って部屋に行ったんだけど、居なくて、、、。」


詩織のお母さんの手にはラケットのような物が握られていた。


「それ、何ですか?」


「ハエ叩き!

ボタンを押すと電気が流れるようになってるの。

今日買ったから詩織に見せようと思ったのよ、、、。」


僕が知らない間にハエ叩きも進化しているらしい。


「あの、、、詩織の部屋に入ってもいいですか?」


夕食後、部屋に戻ってから居なくなったのなら、そこにヒントがあるかもしれない。


「ええ、お願い。」


階段を登り、詩織の部屋を目指す。

家に入った時よりもずっと緊張する。

小学生の時はよくあの部屋で遊んでいたが、ここ数年は入っていない。

辿り着いた先、見覚えのあるドアノブを回し、部屋へと入った。


「詩織、入るよ?」


彼女が部屋に戻っている可能性を考え、声をかけてから入る。

そこに詩織の姿はなかった。


「居ないですね、、、。」


数年ぶりに入った幼馴染の部屋はほとんど変わっていなかった。

カーテンも、家具も。

何もかもが記憶より小さくなった気がしたのは、僕が成長したからだろう。


「あれ?これは?」


机の上にスプーン、フォーク、ナイフが三角形に並べられていた。


「水?」


並べられたカトラリーの中心には水が溜まっていた。

まるでそこから湧き出ているようだった。


「お母さん、これ何かわかりますか?」


「これは、、、。」


詩織の母親が机のそばまで来て、カトラリーを見て固まる。


「どうしてこんな物が、、、。

じゃあ詩織はあっちに、、、。」


そう呟くと水の中に指を入れる。


「お母さん!私も入れてください!

そっちに行きたいの!

詩織を探させてください!

私の娘なの!!!」


詩織のお母さんは泣きながらカトラリーに向かって必死に声を掛け続けるが、変化は起きない。

一体何をしているんだろうか。


「ダメ、、、入れない、、、。」


何も起きないことがわかると、水から指を出し項垂れる。

この行為を不思議に思った僕は、つい真似をしてしまった。

指を水の中へと入れたのだ。


「蒼くん!!!ダメ!!!」


その声が遠く離れて行くのを感じた次の瞬間、僕は水の中で溺れていた。



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