第6話 鍵




ベッドの中の家主に驚き、詩織と顔を見合わせて固まっていた。


「ん〜、、、?」


僕らの石化を解いたのは、百葉箱の中から聞こえた声だった。

ゆっくりと、少しずつ、声の主へと視線を移すと、寝起きのツバメと目が合った。


「おはようさん!」


ツバメが片翼を上げてそう言った。


「喋った、、、。」


僕の頭に浮かんだ言葉が詩織の口から飛び出していた。


「生き物やねんから喋るやろ!!!!

そうや!“雲の森の試練“合格おめでとさん!

ほな!行こか。」


ベッドから出たツバメは嘴で羽を整えると百葉箱の中から飛び立ち、僕の肩に乗った。


「うっわ!!!」


初めての経験に驚き、大きな声が出てしまった。


「うるっさいわ!!!

鼓膜破れるわ!!!」


怒鳴り声が響き、ツバメの右翼が思いっきり僕の頬を叩く。


「ご、ごめんなさい、、、。」


反射的に謝った後、鳥にも鼓膜ってあるのか!!??と考えていた。


「あの、、、行くってどこに?」


詩織の質問にツバメがカラカラと笑い出す。


「何やそんなことも知らんのか!

上や!上!

ここから出て次の試練行かなあかんやろ!」


僕の頬をバシバシ叩いて笑っている。

ツボに入ったようだ。


「は〜、むっちゃ笑ったわ!

その鴉で来たんか?

早よ乗ってくれや!兄ちゃん!」


促されるまま、ツバメを肩に乗せた僕と詩織は鴉の背に乗った。


「ほな、失礼しますわ!」


そう言うとツバメがワイシャツの襟元を嘴で引っ張った。

そしてそのまま、、、中に入った。


「うっ!!!わ、、、。」


また叫んでしまった。

しかし先程怒鳴られたことを思い出し、終盤は声を抑えた。


「なんで服の中に入るんですか、、、?」


首元にツバメの頭が当たる。

フワフワした感触と、ツバメの体温が不快だった。


「なんでって!飛ばされたらどないしてくれんねん!

自分“鍵“やで!!??

失くしてもええんか!!??」


また怒鳴られてしまった。

だが、ツバメの言うことは一理ある。

僕はこの不快感を受け入れるしかない。

詩織の服に入られるよりマシだと思った。


「あ!忘れもんしとった!

ええもんあるんやったわ!」


一度僕の服の中から出ると、ツバメはベッドの下をゴソゴソと嘴で探る。

引っ張り出したのは2本のロープだった。

端にはカラビナが付いている。


「気絶するやつたまーーーに居んねん。

落ちんように使うてな。」


ロープを嘴に加えて飛び、僕と詩織に一本ずつ渡してくれた。

僕らは腰にロープを巻いて結び、カラビナを鴉の手綱につけた。


「よっしゃ!出発や!」


ツバメの声と共に、僕らは大空へと飛び立った。

僕の首元を2度目の不快感が襲っていた。




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