Lost Child

enmi

第1話 雲漠



「お!見えてきた!あれが雲の森だ!」


真っ白な雲の上を、手綱をつけた大きな黒猫が2匹横並びで走る。

背中にはそれぞれ2つの人影があった。

1匹には僕と幼馴染の詩織、もう1匹に乗るのは魔女ドロシーの弟子であるノアくん、レアちゃんだ。


「あの中に“1つ目の鍵“がある!」


ノアくんは大きな森を指差す。

僕たちが今から突入するのは雲の森。

目の前に迫る大木の大群は、枝から雲が生えている。

一番高い木で200メートルくらいあると聞いた。

風が吹くと木の葉のように雲が舞う。

こちらでは雲はこうやって発生するらしい。

風で顔に纏わりつく前髪と、猫からする炭のような匂いが気になる。


「空を飛んでもいないのに、雲の上を走っているなんて不思議、、、。」


詩織は自身を乗せて走る黒猫の足元を見ていた。

風に揺れる彼女の長い黒髪は、天の川を連想させるほど綺麗だった。

後方では黒猫が蹴り上げた雲が煙のように消えていく。


「ああ、あっちには雲漠(うんばく)無いんだっけ?」

「あっちにあるのは砂漠って言うんでしょ?」


ノアくん、レアちゃんにとっては砂漠の方が珍しいらしい。


「しばらく風が吹かないと、雲が地面に落ちるんだよ。

落ちた雲が堆積して雲漠が出来んだけど、、、。

砂漠も同じ?砂の森から砂が落ちるの?」


砂漠の出来方なんて調べたこともなかったけど、確実に言えることがある。


「「同じではないと思う。」」


僕と詩織は同じ台詞を同時に言っていた。


「お喋りはここまでだ!もうすぐ森の中に入る!

いいか、帰りのことは考えるな、行きのことだけ考えろ。

俺たちが案内出来るのはここまでだ。

何度も言うけど雨雲、雷雲には気を付けろ!」


「もっと気をつけるのが“台風“だったよね、、、。」


詩織が真剣な表情で言う。


「そうよ!台風には絶対近づいちゃダメ!

万が一中に入ってしまったら、目を探して!

暴風雨の中で目を探すのはかなり厳しいけど、、、。」


「詩織、蒼(あおい)、覚悟は出来たか?」


雲の森の前で黒猫たちが足を止めた。

詩織と顔を見合わせ、息を一つ深く吸う。


「「、、、出来た。」」


次の瞬間、僕らの体は宙に舞い上がっていた。

大きな黒猫は大きな鴉へと姿を変え、僕らを雲の森へと誘なう。

手を振るノアくん、レアちゃんの姿がどんどん小さくなっていく。

やがて、視界は真っ白になった。


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