早朝

 Side エリク・クロフォード


 =早朝・男子学生寮の部屋にて=


 僕の朝は早い。

 昨日は早く寝たのもあるが普段から早起きだ。

 日課のランニングでもしようかと思ったがふとシュンが起きているのを感じた。

 机の明かりだけをつけて何やら本を読んでいる。


「シュン? 何をしているの?」


 僕は気になっておそるおそる声をかけた。


「バトルスーツの雑誌」


「日本じゃそう言うのあるんだね」


 バトルスーツの雑誌を読んでいたようだ。

 分厚い百科事典のような詳しい奴じゃなくて、万人向けに薄っぺらくして、写真付きで色々と解説されている奴だ。

 表紙には特集号、世界のバトルスーツ解説と銘打たれていた。

 よほど大事な透明なカバーを付けて何度も読み込んでいるようだった。


「バトルスーツ好きなんだ」


「好きじゃなかったらこの学園に来てないよ」


「それもそうだね」


 シュンが言う通り、バトルスーツが好きだからそれを学ぶクロガネ学園に来た生徒は大勢いるだろう。

 自分でも馬鹿な質問をしたと思う。


「将来の事は分かんねーけど、とにかく色んなバトルスーツを乗り回したいんだ。だからエリク、俺はお前が羨ましい」


「羨ましい?」


「テロリストに立ち向かったあの時のエリクとバトルスーツはなんつーかこう、イキイキとしていた。不謹慎かもしれないが俺もあんな風に動かせたらと思った」


「そうか――」


 その純粋さが僕には輝いて見えた。

 出来るならばその想いを大切にして欲しいとも思う。 


「と言うか、日本じゃってことは外国の?」


 唐突にシュンは話題を変えてきた。


「うん。アーティス王国出身だよ」


「アーティス王国って確か悲劇の王国の――」


「そのアーティスだよ」


 僕は出来るだけ笑みを作って言った。


 アーティス王国。

 シュンが言う通り戦火でやかれた悲劇の王国だ。

 世界大戦の引き金を引いたヘルべス帝国に一方的に宣戦布告され、大量破壊兵器すら使用されて滅ぼされた。

 だから悲劇の国と呼ばれている。


「そうか、あのアーティスか」


「よく知ってるね」


「知らない方がおかしいだろ。一般常識レベルだ」


「そう……」


 どうやら母国での事はここでは有名らしい。

 正直言うと複雑な気分だ。


「正直に答えてくれて嬉しいけどあまり言いふらさない方が良いだろう。接する距離感みたいなもんが分かりづらくなる」


「気配りが出来る人なんだね、シュンは」


「おだてても何もでないぞ――と言うか自分もそうだけど朝早いな」


 そう言ってシュンは話題を切り替える。


「何時も僕はこれぐらいだけど、シュンは違うの?」


「昨日ドンパチやったせいか寝付けないんだよ――」


「ああ……」


 初めての突然の実戦で興奮して寝付けなかったようだ。


「大丈夫?」


「正直言うと危ないかも。ちょっとしたら仮眠がてら横になるわ――この分だと同じような状態の生徒は多いんじゃねーのか?」


「そ、そうだね」


「エリクは大丈夫なのか?」


「僕は大丈夫だから」


「えっ……あっ……そうか、タフなんだな」


 何か聞きたげだったが雑誌を戻してベッドで横になるシュン。

 彼なりに色々と気を遣ったのだろう。

 その様子に僕はもうしわけなさを感じると同時にシュンの優しさを知った。


(さてと――)


 僕は静かに部屋を出てランニングに出ることにした。 

 隣室も起きている気配を感じる。

 シュンの予想通り初めての実戦で気が立っているのかもしれない。

 

(あまり物音を立てない方がいいかな)


 僕は静かに外に出ることにした。



 

 

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