第10話「警益局、そこは正しくギルドなり!」
「この国で始めてであり最高の眠りでした、」
カザミはしっかりと爆睡し、それでいてしっかりと元の世界で言う午前七時という規則正しい時間に起床した、もはやカザミの中に植え付けられた腹時計は眠っている間も作用していた様だ、
「キュウ!!」
「ああ、おはようモチ、」
モチも元気になったのか、昨日までモチに纏わり付いていたの眠気まみれの空気も消え去り、今は活気に満ちている、
「さてと、今日は待ちに待った《警益局》へ行く日だぁ!!レッツ!ゴー!トゥ!ギルド!!」
カザミは昨日から今日という日を楽しみにしていた、ルーから《警益局》についての説明を聞いたからだ。
ルーから聞いた《警益局》に関する説明はこうだ、
世界各国に支局を持つ世界最大であり各国政府からは独立した民間問題解決局。
基本的に国家などでは、国内を巡回する衛兵が様々な国民間での暴動事件や殺人事件、その他諸々の対応に当たるが、やはり優先順位的に、小さい問題は後回しにされそのまま有耶無耶にされるということが多々ある、その為、それを有耶無耶にさせない為に、私的な問題や個人的な依頼を専門として取り扱い、個人的な問題は個人間で解決させようという試みから最初は小国の中から始まり今は世界全体へと広がった機関らしい。
依頼の選択は個人の自由であり、しっかりと依頼を解決した場合には、依頼者が先に局に預けて置いた報酬物品を局から間接的に受け取ることができるようだ、勿論ルールもある、例えば、依頼を請け負った際には局からその日中に依頼者側へ連絡が行く、その為、突然の依頼拒否などを局を通さず、一方的にした場合は罰則として一年間の《警益局》入場禁止をうけるようだ。
また依頼はランク制であり、依頼人側が自由に設定でき、請負人はランクが依頼人の設定したランク以上でない場合は受注不可能であるらしい、そして、稀に依頼人側が依頼受注契約完了後に内容の変更をする場合があるようだ、その場合は請負人側に遂行義務はなく、依頼遂行の有無は自由らしい、勿論、依頼人側は罰則を受けるが、成功した場合の報酬は局からの特別遂行ボーナスとして若干の割増が起きるとか。
そして、依頼の内容にはそこまでの制限がなく、内容も法の範囲内であれば殆ど自由らしい、
「これはもはや、《警益局》に名前を変えた《
カザミは歓喜を抑えられずガッツポーズをしたまま固まる、
「キュウ…」
そんな歓喜で半ば半狂乱の域にいるカザミを冷ややかな目でみるモチの視線をいとも簡単に躱し、カザミはモチを抱きかかえると片刃刀を背負い直して、下の階へと降りて行った、
「ありがとうございました!!またのご利用お待ちしております!」
元気な女性店員は鍵を受け取るとそう言って見送る、カザミは見送られながら、ルンルン気分で警益局へと向かった。
道順は確か、
《ウールポット》のあるこの通りを左に進んで最初に当たる交差通りを右に行って、見えて来た食事処を越えて直ぐにあるT字路を左に曲がって、そしたら見えてくる
「あ、あった、」
「キュ?」
カザミの正面には、小さい宮殿と言っても良いような石造の建築物、外面には二枚のタスペトリとランプ、そして、《警益局:ルナスタラ支部》と書かれた表示板、完璧にここだ。
カザミのニヤリ顔を見たモチは察した様にフードの中で器用に丸くなり隠れた。
カラン!、と硝子製の鈴がなる、中には連なった受付や休憩用の椅子、観葉植物に素朴だが味のある石材の壁、そんな壁に設けられた大きな掲示板、正しくアニメに描かれた様なギルドそのものだ、
「ここが《
こんな理想を実現した様な空間があるのかと、警益局内に入り目を輝かせていると受付からそれを眺めていた女性が遠くのカザミに声を掛ける、
「見ない顔ですね、登録に来られた方ですか?」
カザミは声を掛けて来た受付嬢の元へ歩く、
「ええ、登録をお願いしたいです!」
余りにも爛々と目を輝かせてながら目の前にやって来た男に、受付嬢は一瞬身を引くが直ぐに「こほん!」と気を取り直す、
「分かりました、ではこちらの用紙にサインと血印を、」
そう言って受付嬢は用紙とインク瓶に刺された羽ペンを差し出す。
用紙には、
氏名・年齢・職業・
と書かれていた、
ヤバい、まあ予想は出来てたけど・・文字が書けん!!
「あのー、すみません、代筆ってしていただけますか?」
カザミの言葉に想定していなかった受付嬢は若干驚いた顔している、
「えと、申し訳ございません、本人の筆跡でなければならない規則ですので、代筆は・・・」
そりゃあそうだ、これは言わば俺が《警益局》を利用する事を認める為の契約書、それを本人じゃない人が書くのはそれ相応の理由が必要だ、
「あー、ですよね、すいません」
仕方がないこうなりゃやけだ、カザミは羽ペンを手に取ると、漢字で名前を書き、カタカナでルーの名前を書いた、
「あのすみません、この所望依頼っていうのは何ですか?」
「そちらは、登録された方が望む依頼内容を優先的に紹介する為の項目欄です、例えば戦闘関連の依頼を優先的に受けたい場合は、戦いと、薬草や鉱石の収集などの回収依頼を優先的に受けたい場合は、回収と、今、例に挙げた様にそちらの欄には登録者の所望する依頼内容を書いていただければ大丈夫です、」
なるほど、好きなジャンルの依頼を選べるって訳か、と言っても俺はこの異世界に来たこと自体、それ自体で満足してる、そこまで依頼内容にこだわる気はない、
「全てっと、」
そうして全ての欄を書き切った、
氏名:
年齢:22、
職業:旅人、
規則条項の同意:✓、
所望依頼:全て
「これで大丈夫ですか?」
受付嬢へカザミは書き終わった書類を手渡す、受付嬢は一瞬記された文字に怪訝な顔をしたが、直ぐに表情を戻すと、一度書類を返す、
「ホウライ様ですね、それでは最後に、こちらの針を使って血印をお願い致します、」
そう言って裁縫用の針に似た形の針を手渡す受付嬢にカザミは少し驚き、針を貰うのに手間取った、
「どうかなさいましたか?」
「えっと、いやあの、読めるんですか?」
カザミが困惑していたのは、受付嬢が文字を読めていたことだカザミが書いた文字は日本語、この世界にはない文字だろう、それが読めたのに驚き、困惑していた、
「読めるんですか、と仰られましても、
極東文字・・・漢字とか片仮名とか平仮名に、近い文字があるのか?
「なるほど?、」
「はい、それでは、この針を使って血印をお願い致します、」
そう言って微笑む受付嬢を横目に、僅かに硬直しながら考える、
血印ってことはこの針を指に刺して出した血で押すんだよな、うぅ、ちょっと怖い、
カザミは生まれてこの方、自分で出血を促す様な事はしたことがない、勿論間違えて怪我をしたことはあっても、自分では始めてのことだ、少しだけ緊張する、
「大丈夫、少しだけ、一瞬だ、注射みたいなもんだ」
誰にも聞こえない位の小声で自分を落ち着かせる、慎重に指に針の先端を当て一思いに刺す、チクりとした刺激が指先に伝わる中、針を抜き、血印欄に指を押し付ける、指を離せばそこにはしっかりと血で出来た指紋の跡が出来ていた、
「登録完了です、ホウライ様。それでは
「ああ、よろしくお願いします・・・・え?専属?」
専属は聞いてない、つか、ルーさんからは局での依頼に関する規則とかの情報は大体聞いたけどほかの事全く聞いてないぞ、
「はい、えっと、
「ああ、はい、始めて聞きました、」
「そう、でしたか、局では規則として、なるべく受付では専属に就く前の職員が担当することになっているんです、もし専属に就いた後の職員が受付で対応した場合、まず、登録をしに来たかを伺い、その後、登録後の場合専属の者へ連絡し呼び出し、登録前であればその局の専属になる前の職員に対応をする職員を変えるようにと、」
なるほどな、要するに《警益局》に登録した人はみな、一人専属の局職員を持つようだ、だが、一つだけ違和感がある、
「呼び出す、ってどうやるんです?」
そう、ここで登録をしたとしても、次に何時、何処の支部に入るか分からないどうやって呼び出すんだ?
「ああ、そのことはご心配なく、職員はみな小型の連絡用の魔導具を持っているんです、」
そう言って来ている制服のポケットに入っていた小型の手鏡の様な物を取り出す、
「この、
なるほど、そんな便利な物が何個も、しかも元の世界よりも高度な物だってあるぞ。
「教えて頂きありがとうございます、それでは一つ何か手頃な依頼を受けてもいいですか?」
カザミの言葉に、アルナは笑顔で対応する、
「畏まりました、少々お待ちください。」
そう言ったアルナは、後ろの処理していない依頼用紙を
「それでは、こちらはどうでしょうか?、」
アルナはそう言って依頼用紙を持ってくる、依頼内容は収集活動の護衛任務だ。
依頼者:リグ・アルカナ
依頼:ロウウェア
報酬:銅貨二十枚+依頼内容照らし合わせ時の食事
等級:
迷宮、収集、護衛、なんかかっこいい響き!、これは楽しくなってくるぞ。
カザミが依頼用紙を読んでいるとある文字が気になった、
「アルナさん、この等級:
カザミが等級欄を示して聞くと、アルナは等級制度について詳しく教えてくれた、
「ああ、そちらの等級:
そして、国家から警益局へ渡される緊急の集団依頼や、師団規模団体からの指名依頼をこなした登録者のみが持てる、今挙げたものとは別物として扱われる等級に
懇切丁寧に細かく教えてくれるアルナを前にカザミはその説明を一言一句聞き逃さんと真剣に目を輝かせながら聞く。
なるほど、これは
「なるほど、それでは
「はい!、その御認識で間違いございません、」
カザミの疑問にアルナはハッキリと明言する、カザミはそれに更にキラキラとした目線を向ける、アルナはそれに若干引いてる様に見えるが、カザミは相変わらず気付いていない、
「ここで等級を上げるのも、また一つ、今後の目的にしてもいいかもな、、となると、訪れる国で一個ずつやっていけば・・・」
カザミがブツブツと今後の目的について独り言を呟いていると、アルナは「ホウライ様?」と僅かに身体を傾け、顔を覗き込もうとする、
「あ、はい!!」
カザミが勢い良く顔を上げた事でアルナの顔が目の前に現れる、「きゃ!」と驚きながら後ろに捌ける、
いかんいかん、考え過ぎると周りが見えにくくなる癖、さっさと直さないと、
「あ、すみません!、えと、じゃあこの依頼お願いします、」
気まずくなったカザミが依頼の用紙を手に取ると軽く折り畳み、パーカーのポケットに入れる、それを聞いたアルナもまた慌てて返事をすると
「只今、依頼者のアルカナ様に連絡したところ《食事処:ティラスト》にて話したいとのことです、先ずはそちらでアルカナ様御本人から詳細を伺いください!、」
「ありがとうございます!それでは行ってきます!」
「はい!、行ってらっしゃいませ、」
アルナはこれからのカザミの行くべき場所を伝えると、元気よく子供様に飛び出すカザミを笑顔で見送った。
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