第3話「旅へ出るための基礎準備」
「うぁ……」
ここは……見知らぬ天井だ、頭を抱えながら起き上がるとどうやらここは何処かのベッドの上らしい、
「えっと、俺は確か……」
交換ショップに居て、そこの店員に魔王が居ないという事実を聞いて、、、
「だめだ、、そこから先が思い出せない、」
「お、やっと起きたか?お客さん、」
頭を抱えながらボーっとしてると、奥の扉から交換ショップで接客してくれた褐色肌の店員が様子を見に来た、
「ああ、どうも、、えっと、ここは?」
「ここは、スタッフ用の簡易休憩室だよ、全く、お客さん、急に倒れるもんだから焦ったぜ?、」
そうだ、思い出した、魔王が居ない事実を聞いた後、空腹に勝てなくて気絶したんだ、きっと、というか絶対迷惑をかけてしまった、
「すいません、」
「なぁに構わねぇよ、とりあえずお客さんが無事で何よりだ、」
なんていい人なのだろうか、きっと今日以降、あなたが尊敬できる人物は誰ですかと聞かれればこの店員を上げるだろう、
「うちのスタッフが倒れたお客さんをみて、衰弱が酷いって言ってたから治癒魔法をかけてたんだよ、」
「ちゆまほう?」
「なんだ予想はしてたがやっぱり知らないか、、人の傷や病そういうもんを癒すんだ、治療魔法の一種だよ、」
「なるほど、、」
やっぱり夢ではなかったようだ、つまり俺はその治癒魔法をかけてもらえていなかったら今頃、、そう思うとゾッとする、
「その方にお礼って可能ですか?」
「ん?おう勿論いいぜ、だが、、」
「だが?」
その僅かに煮え切らない返答に男が問うた、
「そいつ、魔法技術はピカイチなんだが、どうも、人見知りが激しくてな、いつもは地下の部屋使って交換した素材に付与魔法を掛ける仕事をしてもらってるんだが、素直に出てきてくれるかどうか、、、」
なるほど、そういう事か、コミュ障だからこそ自分もよくわかる、
知らない人と話すのってやだよなぁ、
「まあなんとか、連れてくるから待っててくれや、、」
店員はそのまま行きそうになるが、男は自分も同じだからこそ思う、無理やり知らない人に会わされるって地獄やん、、
「ちょっと、、」
「ん?どうした?お客さん、」
「いや、、その、俺も行きますよ、」
男の返答に店員は口を開いて一瞬固まる、そして意識を取り戻すと直ぐに焦り始めた、
「え!?お客さんが!?えっと、、そりゃぁ、ちょっと止めた方がいいかもしれん、」
「え、なぜですか?」
「なぜって、、ええっと、ちょっとそいつの部屋がな、」
部屋?どうゆうことだ、何か部屋に隠しているのか?
「何かあるんですか?」
「いや、そうゆう訳じゃないんだが、、うーん、、わかった、来てもいいが驚くなよ?」
店員はいやいやながらという感じで了承してくれたが何がそんなに行かせたくなかったのだろうか?、
男はそんなことを考えながら店員と共に休憩室を出た、
「ここは、、」
「な?言ったろ?だから止めた方がいいって、」
男は店員と共に地下に続く階段を下りた先にあった扉の前に来た、そしてその扉の周りを見て男は絶句した、
そう、途轍もなく汚いのである、
男もある程度はそういった予想はしていたが、これは予想どころか一般的レベルを優に超えるレベルの汚さである、
「外側でこれってことは、部屋の中って、」
「ああ、勿論この倍は酷い」
ですよねー、って噓だろ、、、これを越えるって最早どのレベルだよ、、
「まあここで立ち往生してても仕方がない、お客さん、覚悟は出来てるな?」
覚悟って、なんの覚悟だよ!?、と一瞬ツッコミそうになったが、流石にそんな話でまた入り口前にたむろしていても意味がない、行くしかないだろう、
「はい、、」
「よし、開けるぞ、」
さて、どんな光景が広がっているのか、、
覚悟を決め、店員が扉を開くのを待つ、ギィ、と軋む音を鳴らしながら開いた、先には、、
「・・あれ?」
入り口の半分もない、割と普通の部屋が広がっていた、確かに蜘蛛の巣や埃が部屋の隅に張っていたり積もっていたりはするが、それを見ぬふりすれば割と普通の部屋である、
そしてその部屋の奥にある机の前には、フードの付いた装束を纏い、何かに先程言っていた付与?をしているのか、ブツブツと何か呟いている、
「おい入るぞー、」
「・・・・」
「おーい、」
余程付与?に集中しているのか店員の声は届かず、机に向いたままブツブツと呟き続けている、
「おいって、、」
「ふにゃぁ!?」
店員に肩を叩かれた付与をしている、、付与師とでも言おうか、は、気の抜ける声を上げ店員の方を見る、てか待て、声からして女性じゃねぇか!、
「て、店長!?」
「はいはいそうです店長ですよ、、相変わらずいつも同じ反応するなお前は、」
「す、すみません、、で、て、店長は、な、何の用で、、?」
ものすごいおずおずとした声で店長だった店員に聞いている、てか店長だったのか、
「ああ、お前が助けたお客さん起きたぞ、」
「ふぇ!?」
「それ、驚くことか?お前が助けたんだからそりゃいずれ起きるだろ、」
当たり前の事で驚いている付与師に店長は突っ込む、どうやら付与師の人見知りは知っている人物でも有効らしい、
「ああ、、たしかに、そ、そうですよね、すみません、、」
「あと、そのお客さんが、礼がしたいってついてきてるぞ」
「あ、そ、そうなんで・・・ふぇあ!?」
付与師は驚くと周囲をキョロキョロと見回している、だが何故か扉の前にいる、男の姿に気付くことなく、男を探し終わると、一度首を傾げ「あれ?」と言って店長の方へ向き直る、
「あ、あの店長、お客さん、何処ですか?」
「お前何言って、、、ああ、その眼鏡つけてるからだろっ、」
そう言って店長は付与師のかけていた眼鏡を取り上げる、いや普通逆だろ、普通眼鏡を掛けなきゃ遠く見えないはずだろ、
「たくっ、魔眼鏡付けっぱになる癖、そろそろ直せ、」
「うぅ、す、すみません、、、でも何処に、ふぇあ!?」
眼鏡を外され、改めて周りを見渡した付与師が扉を見た途端、遂に男を見つけ店長と同じリアクションで驚く、然し、
「き、、きき、君があの金塊を作った人だよねぇ!!」
付与師は隠れるでもアタフタするでもなく、男の方へ飛んで行ったのである、予想外の反応をされ男は一瞬を身を引いた、
「え、、あ、ああ、そうだが」
「どうやって造ったの!?
「え、、あ、、っと、」
唐突な質問責めにタジタジになっていると、そんな生き生きとした先程とはまるで違う彼女の元に店長が割って入る、
「オイオイ、お客さん困ってんだろ、、」
「ふぇ?あ!!す、すみません、、、」
そう言って何故か付与師は男の後ろに隠れた、
何故の俺の後ろに、、
「お前なぁ、隠れてる相手はお客さんだぞ、、」
「へ?、あ!ごめんなさい!!」
直ぐに店長の横に移動し男に頭を下げる、なんかこの人は人見知りというより人との距離感つかめないせいで人から敬遠されてるだけな気がする、
「いや、まあ大丈夫ですが、、あ、そうだ、助けて頂いた礼がしたくて、何か手伝って欲しいことなどありますか?」
男が聞くと付与師は「うーん」と悩むと、思い付いた様に顔を上げた
「じゃあ、あの、、金塊を、造った方法を、、教えてほしい、です、、」
「ああ、っと、あれは、、」
言えない、自身の創造能力で造ったなんて言えない、言ったところできっと理解して貰えないだろうし、
「企業秘密ってやつ?なんだ、すまんが教えることは出来ない、」
それを聞いて付与師は少し落ち込んだ様に見えたが直ぐに気を取り直したのか、目を真っ直ぐに男へ向ける、
「な、なら、私に戦いを、お、、教えてください!!」
え?、店長も男も二人共が付与師の言葉に固まる、
「はい?」
「え、えと、貴方が背中に背負っている、そ、その剣、、か、かなりの
そう言ってペコリと付与師は頭を下げた、
どうしよう、、自分に戦闘経験はない、それどころか、この剣だってついさっき創造能力で造ったばかりの偽りの業物だ、然し、このお願いすら断ってしまってはどうすればいいかわからない、、、、仕方がない、
「わかりました、いいですよ、」
「!!、ほ、本当ですか!?」
付与師は顔を明るくして喜んでいる、然し、となりにいる店長はどうも、浮かばない顔をしていた、
「お客さん、、アンタ本当にコイツと戦う気ですかい?」
「え?何かまずい事でも?」
店長の顔は依然と険しいまま、男のことを見ている、
「そりゃあ、そんな剣一本で旅するようなお客さんなら、相当な腕はあるんだろうが、、コイツァ、攻撃魔法の制御法を知らねぇ、それでもやるか?」
制御法を知らない?、つまりこの付与師が撃つ魔法は常に最高威力ってことか?でもそれぐらいなら多分、
「それぐらいなら、きっと何とかなると・・────」
「3人、、」
「はい?」
「コイツと戦って戦士人生を棒に振ったやつの人数だ、然も全員ある程度名の知れた、立派な戦士だった、それが一分も持たず負けた、、そんな奴にお前は挑むか?」
一分?、、噓だろ、そんなヤバい奴なの!?、もしかして俺かなり、まずい掛けに出ちゃった?でも、、もう言っちゃったしなぁ、
「が、頑張って生き残りますはい、」
「そうか、、じゃあお前はお前自身の旅人人生を終わらせないように気をつけろよ、」
「ご心配、、ありがとうございます、、」
男は少々重い空気を纏いながら、店長の言葉に礼を言う、
そのまま地下から階段を上り一階に出るが、、、
その先広がっていたのは、転移直後の草原の様な、がらりとした平原だった、、
「これは、、」
「お前は見たことないか、
改変って、、なんだそれ、意味が分からない、まあとりあえずはここで付与師と戦うのだろうか、、
男はそんなことを考えながらいつの間にか草原の中に立っていた付与師の正面側に移動する、男は剣を抜刀し、片手で持つと思った、
これ、俺も付与できるんじゃね?
そんな浅はかな考えを思いつくと物は試しと、男はもう片方の手を刃にかざし、自己流に魔力が刃に流れていく感覚を思い浮かべる、
「(効果付与:魔力遮断)」
男は目を閉じながらそう小さく唱えた、すると突如、剣の刀身が紫に淡く輝いた、、
「え、成功した!?」
「ふぇ!?それって、、ど、
男も中々に驚きを隠せないでいるが、その向こうでは男以上に付与師の少女が驚いていた、
「なんか、分からないけど、かっこいいからいっか!!」
「
付与師と男は全く違うことを考えながら戦う準備を進めているが、遂に付与師が叫ぶ。
「あ、あのー!!じゅ、準備いいですかー!!」
「あ、はい!!大丈夫ですよ!!」
その付与師の声に男も返す、付与師は「じゃあ十秒後から開始します!」と言うと、装束の内から片手サイズの杖を取り出す、そしてそのまま男の方向へ突き出す、
十秒が経過し、戦いが始まる、、と思いきや、
両者はどちらも一歩も動かずに、相手へ眼を飛ばしている、
「とりあえず、まずはこうゆうのって、相手を見るよな、、」
男は、剣を両手で握り直し、付与師の出方を伺いながら、静かにその時を待っている、一方付与師は、、
「
静かに詠唱を完了し、今まさに男へ向けて放とうとしていた、直後、静寂は引き裂くような高音にかき消され、一本の極光の筋が男の元へ向かう、迫り来る極光線を見据えながら、男は言った、
「、、、ここだ!!!」
男は静かに片刃刀を握る両手の内、片手を逆手に掴み直すと、極光線が男に当たる直前に斜めに切り裂いた、極光線はそのまま切り裂かれ霧散していく、霧散し晴れた視界の奥には付与師が啞然とした顔をして、男を見ていた、
「う、、噓、でしょ?、
付与師が驚きで男を見ていると、付与師はいつの間にか店長の鉄拳を喰らっていた、
「馬鹿かお前は!?なんつうもん撃ちやがるんだ!!!お客さんがこれで死んじまってたらどう責任取るつもりだったんだ!!」
「ひ、、え、、えと直ぐに治癒魔法をかけて、、」
「そうゆう問題じゃねんだよ!!!!そもそもあんなもん当たってたら身体も残らねぇだろうが!!!!」
そのレベルなのか、、あれ?、じゃあもしタイミングを間違えて当たっていたら、、考えたくない、、
「たくっ!集中すると周りを何も考えなくなる癖はとっとと直せ!いいな!、」
「うぅぅ、す、すいません、、、」
店長の鉄拳制裁を喰らった付与師は頭をさすりながら、今度は男の元へ来た、そしてキョロキョロと男の身体見ている、
「ぇと、、その、すみませんでした!!!!」
付与師はそう言いながら腰を九十度に曲げ謝る、男はその光景を僅かに怖気を残しながら眺めた、
「いやまあ、奇跡的に怪我は無かったので、大丈夫です、、、はい、」
そう言って付与師を宥める、付与師は顔を俯かせている、怒られたのが相当響いているようだ、
「わりぃな、お客さん、まさかあんなもん撃つとは思って無くてな、、にしても、それをぶった切っちまうお客さんもお客さんで、すげぇがな、」
そう言って苦笑の表情を浮かべる、そのまま店長は付与師の方へ向き直ると言った、
「んじゃ、そろそろ戻してくれよ、営業再開しねぇと赤字になっちまう、、」
説教はもう終わった事なのか、平常の話し方に戻り、付与師に元に戻すよう頼んでいた、
付与師が「わかりました」と言いながら杖を下に下げると、空間のところどころが段々とめくれ落ちるように、消えていく、そうして見えたその消えた隙間からは店内が見えていた、
「相変わらず、、この光景圧巻だな、」
店長は崩壊する様子を眺めながらそう言っている、
全てが剝がれ消え終わると、店長はカウンターへむかっていく、男はその圧巻の景色を見た直後で固まっていたが、直ぐに立ち直ると店長の方へ向かう、
「あのすいません、」
「あ?どうした?」
店長は男の方へ振り返り聞く、
「いや、もしかしたら、またこの国に立ち寄ることがあるかもしれないので、名前だけでも聞いておこうかな、と思いまして、」
そう聞いた店長は一瞬きょとんとした顔をした直後、軽快に笑い飛ばした、
「あっはっはっは!!!なるほどな!いいぜ、名前を教えてくれなんて言われんのは久しぶりだ、、なら、改めて!、俺の名前はギード、ギード・アンスタムだ、この《
そう言ってギードは男の肩を叩く、男は聞いた名を口の中で反芻したのち自らも自己紹介しようとするが、、、
「おーっと!!お客さん、アンタの名前は大丈夫だ、個人情報は聞かない主義なんでな、」
「え、、でも、」
「大丈夫だお客さん、アンタの顔はもう覚えた、てか、」
そこで一度言葉を切り、男の背負った剣に目を移す、
「剣一本でまさか、本当にアファスの魔法を防ぐとは思ってなかったぜ、、」
「アファス?」
「ん?、ああ、あのお客さんが戦ったうちのスタッフの名前だよ、アファス・ミルカ、彼女の名前だ、」
なるほど、付与師の方はアファスと言うのか、、
男はギードと話し終わると、店の扉に手を掛ける、
「んじゃ、またな!、旅人のお客さん、、売りてぇもんが出来たら、またのお越しを!!」
そう言ってギードは相変わらずながらっぱちな笑顔を浮かべて手を振っていた、男は微笑んで言葉を返す、
「ありがとうございます、ギードさん、また売りたい物が出来たらここに来ます、」
「おう!、あ、だが、また金塊とかはやめてくれよ?流石にうちが破産しちまうからな!、」
今やすっかり話す仲となったギードとそんな会話をしてまた街へと男は出ていった、
────
「さて、、今度は何処に行こうかな?」
男はそんなことを考えながらまずは最初に着いた、芸術広場を目指した、ある程度道なりに歩くと、昨日と変わらず盛況な広場が見えてくる、
「着いた、んー!、やっぱいい匂い!、」
周囲の出店の一つで出していた、何かの肉を使った香草焼き?だと思われる食べ物の元へ歩いて行った、、
「いらっしゃい、」
その店の中年の女店員が優しく話しかけてくる、
「何にするかい?」
「えーっとじゃあそこの、肉の奴を、」
店員の声に、男はとりあえず先程からいい匂いをまき散らしている、香草焼きを指差す、
「あいよ、ローグホーンのミスナズ焼きね、1個銅貨一枚と石貨五十枚だよ、」
男はおもむろに白金貨を一枚差し出す、店員は目を見開き声にならない声を上げている、
「え、、とお客さん、もう少し小さい金は無いかねぇ?ちょっとこれじゃあお釣りが払いきれないよ、」
「あ、大丈夫です、えっとじゃあ、銀貨の場合のお釣りで、、」
男はそう言うが店員はとても信じられないという顔している、
「え、でもお客さんにしちゃあ損しかないのにいいのかい?」
「ええ、どうやって消費しようか悩んでたので、、」
その答えに、店員はぽかーんとした顔をしているが、男はなるべく目を合わせないようにしながら、お釣りを待つ、
「じゃあ、本当にいいんだね、」
「はい、あ、じゃああとこっちのもつけてもらっていいですか?」
そう言って男はローグホーンとやらの隣にあった、魚を何かの葉で挟んだ串焼きと、サンドイッチを指差す、
「はいはい、スクアルシュの黄泉の葉挟み焼きと、ピグリットミートとトラトのパンドイッチね、合計銅貨三枚分だよ、あいお釣り」
そう言って、食料とお釣りである銅貨二枚(銀貨一枚で支払いした場合)を受け取り、男は店員に会釈して、その場を離れた、
「さて、今度はどうしようかなー、」
男は食料が入った革袋を持って次に行く場所探す、、
「改めて思うが、やっぱり革袋だと雰囲気出るなぁ、って雰囲気じゃなくて本当なんだもんな、なんか旅行してるみたいで楽しい、」
男は革袋を見て、本当に異世界にいるという事実に浸りながら、のんびり歩いた、、
「よし、この辺りを探してみるか、」
男は先程の広場を抜けて商店街へやってきた、その中である一つの店に男は足を止めた、
「
本屋だ、ちょうどいいここで本を買っていこう、この世界の情報収集にはこの世界の本の情報が一番だ、見たところまだこの世界に機械の様なデータ保存機構を持つ物はないっぽいしな、、
「なら、一番手っ取り早いのはこの世界の本を収集することだ、」
そう言いながら男は《
「いらっしゃい、、」
奥に置かれた古風な小さいカウンターに小柄なご老人が座っていた、
男はその老人に会釈をすると本を眺め始め、何か良い物がないか探す、然し、、
「やっぱり分からねぇ、、」
だめだ、やっぱり理解できない、、いや、この世界の本なのは分かるが、何がどの事柄を合わしているのか、さっぱり分からない、
「仕方がない、、こうなったら、、、、すいません!!」
男は老人に向けて叫ぶ、
「??、はい、どうしました??」
「あの、、えっと、ここからここまで、、、、全部ください!」
言ってしまった、、人生で言うことはないだろうと思っていたセリフ、だが、こうするしかない、、金ならある!!
成金の様な発言をして緊張している中、老人は驚きを抑えるような表情で静かに男に向き直る、
「本当に買うのかい?」
「はい、」
「・・・・・・・わかった、」
老人は長い沈黙の後に答えを返す、そして男が指した本棚を眺めながら手をかざす、すると本棚の本は流れる様に宙を飛びカウンターの方へ向かっていく、
「あい、全部で金貨二十五枚分だ、、お客さん??」
「・・・あ、えと幾らで?」
あまりに流れる様に使われた魔法?に驚きを隠せずフリーズしていると、老人が話しかけて来た、フリーズしていて聞き逃したので再度老人に聞くと、老人は少し
「だから、合計で金貨二十五枚、じゃが、そんな大金、本当に持ってるのかい?」
老人の視線を受けつつ、男はギードからもらった銭袋の中の白金貨を一枚取り出した、
「これで、、」
男は差し出したが今度は老人が固まってしまっている、男は声を掛けようか考えているうちに老人は気を取りもどした、
「ん?ああ、白金貨一枚ね、、アンタ何者だい?そんな大金を当たり前に差し出すたぁ、貴族の付き人か何かか?」
受け取った白金貨を少し眺めてから、男に問うた、男は「あはは・・」と苦笑いで受け流し、老人の言葉を素通りさせる、老人は仕方なしげな表情を浮かべる、
「まあ何でもええか、ほら、釣りの金貨七十五枚確かに返したぞ、」
「ありがとうございます、、」
釣りを革袋に入れたところで男は自分が買った今まさに目の前にそびえ立つ山積みの本の塔を見上げる、どうしようかと考えていたところに老人がしびれを切らして話しかけてきた、
「アンタ収納魔法が使えんのかい?」
「?しゅ、収納魔法?」
また魔法だ、、流石異世界、平然と魔法を使いやがる、、俺だって魔法は使いたいけど、やり方が分からん!!、
老人の言葉に答えられず目を逸らし続けていると老人がため息をついた、
「はぁ、アンタ大層な金は持ってんのに、、魔法は使えんのか?収納魔法なんぞ初歩の初歩じゃろうて、」
老人の言葉が辛い、、そりゃ使えるなら俺も使ってみたいよ!、でも、、使い方がわからないんだよ!!
気まずいと思い暗く俯いていると、老人はやれやれと首をふり、男を見る、
「仕方ないのぅ、、それぐらいの魔法なら儂でも教えられるかもしれんしな、どれ今やって覚えてみぃ、、なーに、簡単じゃ大事なのはイメージだけじゃよ、」
老人はそう言うが、実際に本当にどうすればいいのかわからない、とりあえず男は頭の中に棚を想像してみる、
然し、何も起こることはなく、ただ時間だけが過ぎていった、
「うーん出てこんのぅ、、成功したら空間の穴みたいなもんが浮き出るはずなんじゃが、、」
老人はそう言って頭を掻く、空間の穴・・ブラックホールの様なものだろうか、男は次にブラックホールを基本にして考えてみる、、すると、
「おお!やりゃあできるじゃないわい!、」
「え?」
老人の称賛の言葉に目を開くと目の前には黒くぽっかりと空いた空間の穴が出来ていた、
「これが収納魔法、、、」
「そうじゃ、まあこれが使えるようになったんならもう大丈夫じゃな、ほれ、この本の山、全部その穴ん中に放り込めんぞ、」
「え?ちょちょ!!」
老人はそう言うとそのまま本の山をどんどん今作りたての穴の中へ投げ込んでいく、最初は驚いた男だが一冊もそのまま床に放り落とされずに穴に吸い込まれて言ってるのをみてほっとして眺めた、
「うし、終わった終わった、それじゃあまいどさん、」
「えぇ、ありがとうございました、」
男は老人に深く礼をしてそのまま《
「おぉ、、本当に魔法が使えた、」
剣を舞わせたり、金を生み出したりしたが、実際の話、こうゆう感じの実生活に役立つ系の魔法は初めて習得した、何でも魔法な世界だからこそ、やっと日常的に使えそうなそれらしいものを覚えられた、
「さて、魔法もひとつだけだが覚えられたし、この国は一度出るか、」
案外魔王がいなかったり、魔法が上手く使えない事もことが過ぎれば受け入れられてしまった、さて、とは言ってもそうなるとこの剣と魔法の夢みたいな異世界で何をするか、、
特に思いつくわけでもなく、男はゆっくりと国を囲う大型の城壁に近づく、
「にしても、、この城壁高いよなぁ、進撃〇巨人みたい、、おっと、何故か言ってはイケナイキガスル。」
男はそんなことを考えながら城壁に取り付けられた城門を渡ったところで声をかけられた、
「おや、旅人殿、もう行かれるのですか?」
誰かと思えば昨日話した丁寧な老年の門番だ、
「えぇ、まあ」
男の返答におっとり頷いた老年の門番は、男、というよりは男の雰囲気を見るような不思議な視線を送り話す、
「これはこれは、随分と我が国を堪能していただけたようで、何よりでございます」
門番の反応に男は「え?」と疑問に思う、確かに楽しんでは来たがどうしてわかったのだろうか、、
「あの、、やっぱり顔に出てました?」
男がそういうと、門番は一瞬顔を傾げたが直ぐに男の意味を理解し、「はっはっは」と笑いながら答える、
「いやはや、勿論お顔にも出ていらしたが、一番は旅人殿の周りに纏われている魔力の量ですな、」
男のは「魔力の量?」と疑問を浮かべたが門番は丁寧に説明する、
「その通り、旅人殿は我が国で沢山の買い物を致したでしょう?」
「ええまあ、」
「やはり、、収納魔法というのは言わば目には見えない不可視の空間を作り出す魔法、沢山の物を購入し、収納すれば、無論その空間の大きさも広がる、そうすれば空間形成にかかる魔力も増えるので、周囲に纏う魔力も増えるのですよ、、然し、さすがは一本の剣に己の肉体一つで旅する武人なだけありますな、」
なるほど、と男は思ったが最後の言葉に疑問が残った、
「そこまで褒めるところですかね?」
男は謙遜するが、門番は「いかにも」と随分強い口調で男の言葉を肯定する、
「一般人でしたらそれ程の魔力を収納魔法に使えば、魔力の使い過ぎで倒れるか、空間の拡張が出来ずポロポロと収納したものが落ちてしまいますからなぁ、ですが旅人殿はそれ程の魔力を使いながらも平気なご様子、それは誇るべきですぞ?」
そうなのか、、そこまでの魔力を持ってるって、、やっぱり俺は最強系主人公とやらの系譜に入ってしまったのだろうか、
「なるほど、、、そこまで凄かったんですね、」
「そうですとも、それでは、
門番はそう言って、遠ざかろうとするが思い出したかのように「あ、そういえば、、」と男の方へ向き直り話す、
「入国される際言い忘れていたのですが最近ここらを根城にする盗賊がいるという情報がありますので、旅人殿でしたら大丈夫だとは思いますが、万が一もございます故、お気を付けて、」
門番はそう言って、一礼すると行ってしまった、
「盗賊か、、異世界っぽいのキターーーーーー!!」
然し、門番の心配も裏腹に男は盗賊という言葉の響きに歓喜の声を上げているのだった、
盗賊!!なんて素晴らしい!、賊らしく、そして異世界らしい響きなんだ!!最高!!
「っとと、いかんいかん、つい興奮してしまったが、、そもそもこの国を出た次はどうするか、」
そう、この国を出たが次はどうするか、それが次の問題だ、いっその事、世直し旅でもしてみるか?いや、それはそれで何か面倒臭そうだ、ならあえて悪に堕ちてみるってのは、、、いやいやいや無いわ!!
まあ、結局はこれから何て決まってないし、のんびり旅何てのもいいのかもね、幸い本屋のじいちゃんが俺が買った本を収納魔法に投げ込んでるときに地形書と書かれたものが見えた、それを見れば旅路だって思いつくだろう、
「まあ、まずは、あの剣ぶっ刺したところに戻りますか、、今度は何しようかなぁ」
そんなこんなで男は剣を刺した地を目指して歩くのだった。
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