第6話 初めての威圧スキル発動




私とレキシーさんが1階に降りると、ラドさん達と衛兵が睨み合ってる最中だった。

衛兵の中央には小綺麗な格好をした男が立っていた。


衛兵は見える範囲で20人はいる。


衛兵も中央にいる男も街の人達と違い、頬がふっくらしている。

衛兵の何人かと中央の男は、鎧と服の上から分かるほどお腹が出ていた。



個人的にはぽっちゃりは好きだけど、この現状ではそんなこと言ってられない。



「ラーロック」


レキシーさんが静かに呟いた。



「あの真ん中にいる人ですか?」


私は小声で聞き返した。



「そうよ。やつはラーロック。この街の領主よ」



やつ、ヤツ、奴

やつと言うからにはきっとろくな奴じゃないんだろうな。



そんなことを考えてると、ラーロックが口を開いた。



「どこかの小娘が無事に帰ってきたんだ、ここにいる我が衛兵に感謝しろ。そして、お前達は早くドラゴン退治に行け!!」


かなりの嫌味と激しい口調でラーロックは言い放った。



「ふざけるな!!ミアを助けたのはお前らじゃない」


ラドさんが言い返す。



「結果的に助かったんだ、どっちでもいいだろう」


「街の犯罪を守るのはお前達衛兵の仕事だろ!!それを何もせず屋敷に篭りやがって」


「ふっ、くだらん。だったら街の外の仕事はお前ら冒険者の仕事だろう。さっさと行け」


ラドさんが険しい表情でラーロックを睨む。



「ラーロックの所為で、この街は死にかけてるの」


レキシーが小声で話してくる。



「無謀な税徴収と、それに歯向かう者を平気で殺してる。冒険者だけは力があるから、街の男達だけを殺すのよ」


「だから、この街はこんなにボロボロで、皆んな痩せているんですか」


私は怒りを押し殺しながら言った。




「そうよ」


レキシーさんが拳を強く握りしめ、唇を噛み締めているが分かった。




「そして、私の父親も、ミアの父親もあいつに殺された。証拠はないけどね」



レキシーさんの言葉に、私は自分の気持ちが逆立っているのを感じた。




あんなやつにミアやレキシーさんの父親が•••

ラーミアさんはどんな気持ちで生きているのか•••




私はゆっくりと歩き出した。




「ちょっと、マリー」


レキシーさんは慌てて私を止めようとするが、私は歩みを止めない。



冒険者達の間をすり抜け、ちょうど1階フロアの真ん中に来た時、歩みを止めた。




後ろには冒険者、前には領主と衛兵達がいる。

真ん中まで歩いてきて分かったが、ギルドの外にまで衛兵がいた。

50人はいる。


これだけの人数がいれば、ミアを盗賊に攫われることも、簡単に助け出すことも出来たんだじゃないのか。



私が怒りに震えていると、汚らしい声が聞こえてきた。



「なんだ貴様は?」


「あなたに名乗る名前は持ち合わせてない」


「貴様、私が誰だか分かっているのか!!」



私は『魔眼スキル』を発動した。




あー、駄目だね。こいつは。

真っ黒だ。


これだけ真っ黒だと、『殺人』『暴行』色々と表示されるんだね。




「人殺しのラーロック、でしょ?」


私は表情を変えずに淡々と言った。



「貴様調子に乗りよって。子供といえど許さんぞ」



「あっ、そうだ。ドラゴンは私が倒しに行くよ」


さっきまで怒りに満ちた表情をしていたラーロックは、一転、馬鹿にしたように笑い始めた。



「貴様がドラゴンをだと。馬鹿なヤツだ。さぞ、親も馬鹿なんだろうな!!」


「早く馬鹿な親元へ帰れ!!」


後ろにいた衛兵達が声を上げると、蔑むかのように笑い出した。





私の親は馬鹿じゃない。


私を思いやってくれた優しい両親だった。



もう、会いたくても会えない。


本当は今日、一緒に旅行に行ってるはずだった。




きっと、今も泣いているだろう、私の両親。






ゾワッ






私の体から黒い靄のようなものが現れたのと同時に、部屋全体が揺れた。





【大魔王の威圧】が発動した。





【レキシー、ちょっとそこの椅子を持ってきてもらえる】



「は、はい」



私の変化に戸惑いつつ、レキシーは私の元に椅子を持ってきた。


私はその椅子に座り、足を組み、目の前にいるラーロックを睨んだ。



なぜか分からないが、今私がどういう表情をしているのか自分で分かる。

恐ろしい目つきをして、ラーロックを蔑んで睨んでいる。

自分で見ても震え上がるほどだ。



目の前のラーロックや衛兵は、恐怖に慄いた表情をして、一歩も動けずにいる。




【殺人犯のラーロック】


「なっ、なっ」


ラーロックはまともに言葉を発せない。



【情けない奴ね。反論もできないなんて】


「そ、そんな、しょ、証拠もないのに人を殺人犯呼ばわりするとは、み、皆のもの、こいつを殺せ」


ラーロックは部下の衛兵に指示を出すが、誰も動けずにいる。




そんな時、一人の少女が衛兵を掻き分けて冒険者ギルドの中に入ってきた。




「証拠ならあるわ!!」


少女が分厚い書類を掲げながら言った。




「な、何をしている、アイラ」


【アイラ?】


私が冷たく呟くと、椅子を持ってきてくれたままその場にいたレキシーが教えてくれた。




「アイラは、ラーロックの娘です」


「けど、ラーロックとは違い正義感に溢れ、冒険者でもあります」



【通りでお腹が出ていない訳ね】


私は抑揚もなく言った。



「お父様、もう止めて。こんなこと間違ってる」


「お前まで母親と同じ事を言うんだな」


「だからお母様を刺したんですか?」


ラーロックは何も言わずニヤついた。




【アイラ。あなたの屋敷は冒険者ギルドの奥にある石造りのやつね?

あの屋敷にはあまり人がいなかったようだけど、避難でもさせたの?】


私はアイラを見て言う。



「この証拠を手に入れた時に、屋敷の者は衛兵以外避難させました」


アイラは急に名前を呼ばれたことへ驚きつつ、震えながら答えた。



【なら、問題ないな】


私はそう言いながら、探知スキルで冒険者ギルドの2階と3階を確認した。

誰もいない、みんな1階にいるようだ。




私はニヤっと笑うと、ラーロックと衛兵以外に『バリアスキル』を使った。

そして、ラーロックの屋敷を囲うように障壁を遠隔で展開した。




「な、なんだ。何をするつもりだ」


ラーロックが震えながら言ってくる。



【気にしなくていいわよ。諸悪の根元であるあなたの屋敷を吹き飛ばすだけだから】



私はそう言うと右手を突き上げ、手のひらに魔力を集めた。


部屋全体、いや街全体が揺れ、あたりに魔力の渦が立ち込める。




「お、おい、嘘だろ。な、なんだこの力は」


ラーロックはその場に跪く。




「私にこんなことして、国王様が黙っていないぞ」




【そんな国王なら、国ごと私が吹き飛ばすだけよ】



私は笑いながら言った。




そして私は魔法を放った。





アタミ





その瞬間、嵐のような風が巻き起こり、激しい光と炎が放出された。

けたたましい轟音と共に冒険者ギルドの2階と3階を突き破り、弧を描いてラーロックの屋敷に放たれた。


大爆発とともに屋敷は一瞬で吹き飛び、欠けら一つ残っていなかった。

それどころか、屋敷の建てられていた土地全体が50メートル程抉られ、大きな穴を開けている。


私の目の前には、バリアスキルが展開されなかったラーロックと衛兵が吹き飛ばされた光景があった。

冒険者ギルドの壁を突き破り、外にまで吹き飛んでいる。




【ちょっと、やり過ぎたかしら】





レキシーとアイラはその場に座り込んでいた。

私は【大魔王の威圧】を終了した。


自分でも黒い靄がなくなり、いつもの表情に戻ったことが分かった。




「ま、マリー。も、戻ったの?」


レキシーさんが瞳を滲ませて聞いてくる。




「はい。戻ったというか、スキルを終わらせました」


「よ、よかったー」


レキシーさんだけじゃなく、アイラや周りの冒険者も安堵の表情を浮かべた。




「そ、そうだ」


足を震わせながらレキシーさんが立ち上がった。

そしてアイラに近づいて話しかけた。



「アイラ、本当にいいのね?」


「はい」


アイラは真っ直ぐにレキシーさんを見つめる。



「みんな、そこら辺に吹き飛んでるラーロックと衛兵を捕まえて」


レキシーさんは周りにそう告げると、我に返った冒険者達は一斉に動き出し、あっという間にラーロック一味を拘束した。




「しかし、派手にやったわねー」



レキシーさんは空を見上げながらそう言ってきた。

冒険者ギルドの2階、3階が吹き飛んだことで天井がなくなり、上空には青空が広がっている。




「す、すいません。けど、戻せますから」

「戻せる?」

「はい」

「スキル?」

「はい」

「もういいわ。何も驚かない。そもそもあのアタミって攻撃はなんなの」

「魔法です」

「マホ?」



そんな話をしていると、アイラが私に近づいてきた。



「マリーさん。この度は本当にありがとうございました」


「ちょっとやり過ぎちゃいました」


私は右手で頭の後ろを掻きながら言った。




「いいえ。これくらいやらなければ、負は、悪は終わらなかったと思います」


アイラは私の目を見ながら続けて言った。



「もう少し早くマリーさんと出会えていれば、色々変わったのかもしれませんね」


アイラはどこか寂しげな表情をした。

アイラは金色の髪に緑色の瞳、あの馬鹿領主と似ておらずとても綺麗な顔をしている。



母親似だな。

母親??



「そういえば、アイラのお母さんは?」

亡くなったの?と、最後までは言えなかった。



「いいえ。今は生きています。ただ、刺された傷が深くて、明日までもたないだろうと医師に言われました」


私が何を聞きたいのか、察して答えてくれた。



「生きてるの?」

「え、ええ」

「どこにいるの?」

「この先にある教会ですが」

「行こう」

「私も行きたいんですが、医師が私達がいることで壊死した部分が更に悪化するから近づくなと言われていて」


瞳を潤ませ、アイラは俯いた。



「違うよ、アイラ」

「はい?」



「治しに行くんだよ」



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