第7話

次の日の朝、キッチンからパンとバターの香りがして私は目が覚めた。

普段は、私は寝過ごす事はない。


私は好きな人に抱かれたのが心地よくて、ぐっすり寝ていたようだ。


そうしているうちに、喉がかわいた。


私はキッチンへ行き、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、ゴクゴクと飲んだ。


「おはよう」


私は普段通りに智美に挨拶をした。


「おはよう。簡単なものだけど出来たよ」


二人でテーブルを囲って朝食をとる。

しばらく沈黙が続く。


「昨日はごめんね。気持ち悪かったでしょう?女性に襲われて」


智美は下を向く。


私は首を横に振る。


「そんなことないよ。病気がそうさせただけだから。全て病気のせいだからね」



今気づいたのだが、智美は落ち着いて話す事が出来ている。

彼女のテンションが明らかに落ち着いている。


「そういえば、智美はテンション落ち着いたね」


「本当だ」


「良かった。私も役に立てて」


私は智美との肉体関係をずっと望んでいた。


でも、まだ智美にそれを言ってはいけないと思う。

現段階では言ってはいけない。

病人の弱みにつけ込むと、後で仕返しがくる。フェアじゃないから。


全てが落ち着いてから…。躁と鬱の中間で言おう。

そう、全てが落ち着いてからにしよう。



智美は私の目をじっと見る。


「私はこの家を出て行くね。たびたびこんな事があったら、美穂ちゃんに悪いし」


「えっ」


私は慌てた。


「こういうのがあっても、私は全然気にしないから」


私は智美のそばに居たい。

それに、一人暮らしでは智美の場合、病状が悪くなる。

だから、ここで智美を逃しちゃダメだ。


「私は智美の家族になるよ。だから、一緒に住み続けよう。気のおけない人と一緒にいる方が、病状は悪くならないよ。」


「いいの?」


「いいの、私が望んだことだから。もし智美に何かされても、私は受け入れるよ。約束する」


私の言葉を聞いて、智美は静かに泣いた。

智美の近くへ行って、タオルハンカチで涙を拭った。そして、背中をさすった。





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