第17話 自動走行椅子と秋の空
「よし……! 僕に任せてください!」
「なんとかできるんですか……!?」
「はい! たぶん! やってみます!」
それから僕は少し一人にしてもらい、時間をいただいた。
さっきの椅子を見た瞬間、アイデアがひらめいたのだ。
「ようは椅子を運ぶんじゃなくて、椅子が勝手に動けばいいんだ……!」
僕の家具には想像力とアイデア次第で、いろいろな効果をエンチャントできる。
自動で動く椅子くらい、なんとかできるんじゃないかな……?
「えい……!」
僕はラファさんの笑顔と彼女が大好きだという花を想像しながら木材を叩いた。
きっとあのかわいらしい彼女と、美しい花がいっしょにいるところはとても綺麗だろう。
「できた……!」
ようやく椅子が完成した。
もちろん、ただの椅子じゃない。
自動で動く、魔力を原動力にした特別な椅子だ!
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《自動走行椅子》
制作者 カグヤ
必要魔力 10
説明 魔力を込めて念じると
その方向に動く
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僕はさっそくその椅子をラファさんのもとへもっていった。
「まぁ……! これは……!?」
「座って、念じてみてください。ラファさんの魔力に反応するはずです」
ラファさんが座って念じると、ちゃんと椅子が動いた。
椅子は少しだけ浮いて、地面を滑るようにして走る。
速さも込める魔力量によって調整可能みたいだ。
「すごいです! 私、ひとりでも動けます!」
「よかったです……!」
「ありがとうございます、カグヤさん……!」
よかった、ラファさんは涙ながらに喜んでくれた。
僕としても、なんとか役に立ててうれしいよ。
「さすがですわカグヤさん! さすがはわたくしの未来の夫です!」
「えぇ……!? なにを言ってるのクラリスさん……!?」
突然、クラリスさんが僕に抱き着いてきた。
「わたくし、カグヤさんを絶対に落としてみせますわ……!」
「そ、そんなこと言われても……」
まさかいきなり貴族のお嬢さまから求婚されるなんて……。
クラリスさん、見かけによらず大胆だなぁ。
「と、とりあえず……! 花を見に行きましょう!」
僕は誤魔化すようにそう言った。
「もう、カグヤさんは照れ屋さんですわね。まあ、今はそれでいいですわ! そうですね、花のところまで案内しますわ」
なんとか許してもらえたようだ……。
どうもいまだに女の子の扱いはよくわからない。
僕たちは三人で、昔ラファさんが好きだった花のところまでいった。
その花は小高い丘に生えていて、真っ白な、とてもきれいな花だった。
まるで、ラファさんのように清楚で、透き通った花だ。
「うれしい……! またこのお花を見られる日がくるなんて……!」
ラファさんは心からの笑顔で喜んだ。
「きれいだ……」
「そうですね……」
「あ、いや……。お花もそうですけど、ラファさんも」
「え……もう、カグヤさん……」
僕は思わず、ラファさんに見とれてしまっていた。
お花と並んだ彼女は、本当にはかなげで美しかったからだ。
ひとしきり景色を堪能したあと、僕たちはその場で別れを告げた。
去り際に、ラファさんが椅子で僕のもとまで近づいてきて、耳元でささやいた。
「カグヤさん」
「はい……?」
「本当にありがとうございました」
「いえいえ、僕はできることをしたまでです」
するとラファさんは椅子から少し身を乗り出して、僕の頬にキスした。
「え……!?」
「お姉さまには負けませんからね……!」
「そ、それってどういう……!?」
たじろぐ僕をよそに、ラファさんは椅子に乗って去っていった。
クラリスさんがラファさんに文句を言っているのが聴こえる。
僕は放心状態でその場に立ち尽くすのみだった。
「キスされちゃった……どうしよう……」
まさか一日の間に、二人もの女性からアプローチを受けるなんて……。
僕はどうすればいいんだろう……。
アイリアさんに相談してみようかな、と思う僕だった。
ちなみに、本当にアイリアさんに相談したら怒られた。
なぜだ……。
やっぱり、まだ女の子の心はわからない。
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