第6話 言いがかりと透明カーテン
モンスター襲来騒動から一夜明け、街ははやくも復興モードに移行していた。
今日もあちこちで家を修理する人たちや、物資を集める人たちが働いている。
僕は家具職人ギルドに戻ってきて、さっそく仕事に取り掛かっていた。
壊れたのは家だけじゃない。
街の人たちの家具も沢山壊れている。
僕は一日中、壊れた家具の修復に忙しかった。
ギルドで仕事をしていると――。
聞き覚えのある声に呼ばれて、顔を上げた。
「おいカグヤ! てめえちょっと来いオラ!」
「ぶ、ブキラ……!? なんで……!?」
僕を追い出したはずのブキラが、今更なんの用なんだろう。
今は僕もこの家具職人ギルドでうまくやっているんだから、できればもう二度とかかわりたくないんだけどな……。
それに、この前会ったときの落ち込みようとはえらい違いだ。
「お前のせいで俺が兵士団に怒られたんだぞカス!」
「はぁ……? 僕がなにをしたって言うんだよ……」
「お前の整理がずさんだったせいで、回復の矢が毒の矢になってしまった!」
「そんな……僕は知らないよ……!」
「うるせえ俺に逆らうのか? いいからお前が代わりに兵士団に出頭しやがれ!」
「えぇ……? どういうこと……?」
いくらなんでも、回復の矢が毒の矢に変化したりなんてしないはずだ。
それこそ、
僕がギルドにいたころは、そういった質のチェックは僕がしていたから、なにも問題は起きたことなかったんだけど……。
まさか、ブキラはそんな初歩的なことも理解していなかったのか?
全部ブキラのミスだと思うんだけど、僕に押し付けようという魂胆らしい。
「俺は毒矢をさらに調べてみるつもりだ。まあ明日にはお前のところに裁判官と兵士団の屈強な男たちがやってくるだろうよ。まあせいぜい、今から覚悟の準備をしておくことだな……!」
「そ、そんな無茶苦茶な……!」
ブキラはそれだけを言って、嵐のように去っていった。
まったく、まだ僕の人生を邪魔しようとしてくるなんて、ろくでもないやつだ。
「うーん、困ったなぁ……」
「どうしたんですかカグヤくん」
「あ、アイリアさん……それが……」
僕はアイリアさんに事の顛末を話した。
「まあ、それは困りましたね……ひどい話です」
「ええ、なにか手を打たないと」
あれでも一応、ブキラは武器職人ギルドのボスだ。
そして僕は実家を追われた元職人。
実際のことはどうであれ、裁判官や兵士たちがどう考えるかはわからない。
それに、ブキラのことだから裁判官を買収するくらいはやりそうだ。
毒の矢を調べるとか言っていたけど、きっと証拠をでっちあげるつもりなんだろう。
「そうだ……! なにか家具で解決できないかな……!」
「家具ですか……! カグヤくんならきっとできますよ!」
しばらく家具を作ってみて、いくつかわかってきたことがあった。
どうやら家具に付与される特殊な能力は、僕の願望が反映されたものになるみたいだ。
だからただ漠然と修理したりしても、変わった効果は現れない。
タンスのときはただ力が欲しかった。
ベッドのときは、ただ人を救いたかった。
僕の家具には、そういった僕の思いが乗っかるみたいだった。
「今回もなにか使えそうなものを……!」
いろいろと想像力を膨らませて、家具のイメージを考える。
今必要な能力と、それに合った家具。
僕の能力は、思った以上に応用が利くみたいだ。
「よし……! できたぞ!」
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《透明カーテン》
制作者 カグヤ
耐久値 70/70
効果 透明化1時間
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「すごい……! ほんとにできた!」
できるかどうか半信半疑だったけど、そこには僕の思い描いた通りの家具が完成した。
これを体に巻き付ければ、透明になっていろいろなことができる。
さっそく僕は透明カーテンを身に着けてみた。
「すごいですよカグヤくん! 本当に透明になっています!」
「よし、これでブキラの策略を暴いてやりますよ!」
「透明になったからって、その……えっちなことには使っちゃだめですからね……!」
「わ、わかってますよ……!」
◇
僕は透明になって、ブキラの元へ偵察にきた。
もともとは僕の実家でもある武器職人ギルド【神の槌】だ。
工房エリアはお店にもなっていて、誰でも入ることができる。
だからこれは不法侵入じゃない……っていうかまあ、本来僕の家だし遠慮はいらないかもしれないけどね。
ブキラはなにやら回復の矢を作っているみたいだった。
兵士団に渡した回復の矢がなんで毒の矢に変化したのか、それを再現して確かめるつもりなんだろう。
僕はクラフトに夢中になっているブキラに、後ろからそっと近づく。
(こ、これは……!?)
思わず、僕は声が出そうになってしまった。
だって、それほど衝撃的なものを見てしまったからだ。
なんとブキラは瓦礫の山から調達した、折れ曲がった汚い木材を使っていたのだ。
それに、水も汚れたものを使っている。
これはきっとモンスター襲来で廃墟と化した家からとってきたものだろう。
(そんな馬鹿な……! こんな汚い素材で回復の矢を作るなんて……!)
そりゃあ、粗悪品ができるに決まっている。
そんな簡単なこと、見習い職人だった僕にでもわかることだ。
いつも父さんの話を話半分にしか聞いていなかったせいだろう。
「くそう、カグヤのやつめ。相変わらずいけ好かない。とりあえずあいつに擦り付けることにしたが、どうやって証拠を作ろうか……。何も思いつかない……。まあ、裁判官を買収すればいいだけだ! がっはっは!」
ブキラは思った通り、なにも考えなしに僕のところへ乗り込んできたらしい。
相変わらず、短絡的な男だ。
回復の矢を調べていたブキラが、突然大声を上げた。
「お……!? 回復の矢が毒の矢に変わった……!? どういうことだ……!?」
「どうやらギルド長の作った回復の矢だけが、毒の矢に変わるようですね……」
「なんだと……!? てめえトリマー、俺のせいだというのか!?」
「いえ……そういうつもりでは……」
今のやり取りを見て、僕はある可能性に気づいた。
どうやらブキラ以外の職人が作った矢は、粗悪品ではあっても毒の矢に変化したりはしないようだ。
だったら、原因は明らかにブキラにあるんじゃないのか……!?
「どうやら俺の【毒属性付与】のスキルが邪魔をしているようだな……!」
ブキラ自身もそのことに気づいたようだ。
やっぱり、あいつの自業自得じゃないか……!
彼の【毒属性付与】は強力なスキルだが、回復の矢を作るのには向いていなかったということだね。
どうりで父さんがブキラに回復の矢を作らせなかったわけだ……。もしかしたら父さんはそのことを予見していたのかもしれないな。
「まあ、俺様ほどの才能があっても不得意なことはあるということだ。がっはっは! まあそれはそれとして、ここは才能のないカグヤに責任をなすりつけてやろう!」
「そ、そうですね! ギルド長はなにも悪くありませんよ! ギルド長の才能はこんなものを作るためにあるわけじゃないですもんね!」
「はっはっは! そうだそうだ!」
くそ……こいつら、どこまでもクズな奴らだな。
まあ、でも今のやりとりで大体の原因はわかった。
あとはその証拠となるものを持ち帰ればいいだけだ。
僕はこっそり、ブキラの作った矢を持ち帰ることにした。
それから、他の職人が作ったものもだ。
武器は鑑定すれば製作者がわかるようになっているから、証拠として十分だ。
すべての矢を鑑定して見せれば、彼が原因だというのは簡単にわかる。
それから、念のために矢の材料となった木材と水も持ち帰る。
彼らが粗悪な素材で回復の矢を作っていたことの証拠になるからね。
◆
ブキラが原因であることの確かな証拠をつかんだカグヤ。
一方のブキラは自分が報いを受けることもしらず、愚かな策略を夢想するのであった――。
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