第17話 ソフトクリームを食べる麻保

 麻保は、ソフトクリームを上から舐めたり横から舐めたりを繰り返す。麻保の場合は、ソフトクリームに溶ける間を与えない。そのため、全方向から攻めていく。


 海斗は舌の動きを見ていると、それ自体が独立した生き物のように感じて、その動きに魅入ってしまった。一瞬、その動作を止め、口元が止まる。と同時に瞬きをする。ソフトクリームを食べることに熟達している。と感心していた。


 麻保の舌や唇はいつの間にか冷気で赤くなり、そのころにはとぐろを巻いた上の部分はすっかり消えてなくなり、量は半分くらいになっていた。


 麻保の動作を見ることに集中していた海斗は、いつしか自分のソフトクリームを食べるのを忘れてしまった。


 ふと麻保がそんな海斗のほう巣に気が付いた。


 ―――私のことばかり見ている! 


 ―――どうしてなの! 


 ただソフトクリームを食べているだけなのに。なぜだか、私のことばかり見てる。


 そんなに私の食べ方って珍しかったの、自分では普通だと思っていたけど。 はたまた私の姿が魅力的なの?


 もしかすると、私自分では今まで全くわからなかったけど、ソフトクリームを食べる姿が超イケてるのかもしれない!


―――そうだわ、きっとそうなんだわ!


 人呼んでソフトクリームの女王……おお、海斗さん私に見とれてる、見とれてる、

 

 これは絶対そうよ! 見とれてるんだわ! 私の姿にうっとりしてるのね、絶対、絶対そう! 


 だって、私の顔ばかり見てるし、全然自分のソフトクリームを食べてないし、こんなにおいしいソフトクリームを食べるのを忘れるほど、私って魅力的なんだわ!


 麻保は、さらに唇と舌の動きを活発化させた。


 それとともに、麻保の想像はどこまでも果てしなく広がる~~~! 


 さあ、後半戦もチャーミングに舐めまくるわよ! と気合を入れ一心不乱にソフトクリームにかぶりつく。今まで以上に動きが大きくなり……。


 すると、なんということか、海斗のソフトクリームが溶け出している。あ~~~、溶けだした液体が重力に耐え切れず、下へ下へと伝わっていく。一筋、二筋、たらーりたらーり……。これはまずいわよっ! 


「あれあれ、あれ、あれ、杉山さんっ! ソフトクリームが、垂れちゃう~~!」


と麻保が黄色い声を上げた。麻保は唇で海斗のソフトクリームを慌ててぺろりと舐めた。


「ああ……ああ~~あ、麻保さん」

「いけないわっ! 垂れちゃうとっ!」

「あわわわ……しょうがない人だなあ……なんだよ……」

「だって垂れそうなんだものっ! 床に垂れると、べたべたになっちゃって、あとで大変なんですよっ。それに手についても気持ち悪い~~」


 だからって、人の分まで舐めてしまうなんて。


 麻保は口をすぼめて、笑いだす始末。おお、先ほどまでの真剣なまなざしが崩れた。


 笑った顔は……年齢よりも幼い。だが、かなり結構かわいい! 


 と海斗は、あまりの表情の変わりように引き付けられたように、顔を見つめる。


 ま~だ、私の顔を見つめてる。こ~んなに私の顔ばかり見ているなんて、絶対気があるんだわ、と勝手に想像する麻保だが、海斗の今にも柔らかくなり崩れそうになっているソフトクリームのことも同じくらい気になる。

 

「どんどん食べてください! 溶けちゃいますよ」

「おお、そうでした」


 海斗は大急ぎで溶けて形がなくなりそうになったソフトクリームを口に押し込んだ。垂れそうなところからどんどん口に流し込み、ようやくカップに入っている部分だけになった。これで一安心。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る