第十四話 『デートではないと言ったな、あれは嘘だ①』

現在時刻、9時22分。


(やばいやばいやばいやばいやばい……!!!)


現在位置、自宅のトイレ。

絶賛お腹を下している最中である。


(と、止まらないんだけど!?どうしてだよぉ!?)


10時に駅前と約束している手前、高瀬さんを待たせるわけにはいかない。

ちなみにここから駅まで20分かかる。

タイムリミットはあと18分。


(俺のお腹よ…!!頼む収まってくれえええ!!)






ジョオオオオ……


「……………終わった」


トイレから出た時点での時刻、9時48分。

詰みである。


「いいや、ここで諦めてどうする葉山大輔よ!今こそ限界を越える時だろ!」


必要最低限の物を持ち、超特急で家を出る。


(普段のランニングの成果、見せてやらあ!)


走る。

先程駅まで20分はかかると言ったがそれは正確ではなく、歩けば20分と言うのが正しい。

かと言って普段のランニング時みたいな走りやすい格好ではないため、全力を出し切ることはできない。

しかし、この時の葉山大輔は限界を超えていた。


まあ普通に高瀬さんに「遅れます」と連絡すればいいだけなのだが、普段LINEを使ったことがないため無意識でその選択肢を除外してしまっていた。

ぼっちの弊害の一種である。


(タ◯シ、高速移動だっ!)


心の中でこんなこと言えるなんて、案外この男は余裕なのではなかろうか。


「間に合えーーー!!」


ちなみにこの後叫びながら全力疾走する不審者がいると噂になったのだが、これはまた別の話である。




---------------

高瀬魅依side



「……遅いですね」


時刻はまもなく10時になろうとしているが、待ち人は未だ来る気配はなく、何かしらの連絡も届いていない。普段の学校生活では、自身より早く登校している彼がここまで遅いなんて何かしらのトラブルがあったのだろうか。


「……おいあの子可愛くね?(ヒソヒソ)」

「……お前誘ってこいよ(ヒソヒソ)」


「…はあ」


思わずため息をついてしまう。

自身が人目を惹く容姿をしていることは自覚しているし、そのための努力を怠ったことはない。

だがこうも下心剥き出しの視線や声を聞いてしまうと、憂鬱な気分になってしまうのは仕方のないことだった。今まで無理矢理襲われかけたことも少なくなく、男性は家族や古くからの知り合い以外あまり信用出来ず深い関係になることがなかった。

そんな自分が、


(こんな気持ちになるなんて、思ってもみませんでした)


葉山大輔。存在感がありえないほど薄く、自分でもよく注意しなければすぐに見失ってしまう。

けどちゃんと向き合ってみれば、若干自己肯定感が低いがそれでも自身に対して下心抜きに真正面から向き合ってくれて、自分の危機を助けてくれた人。

当然男の子であるから一定の下心を持ってはいるが、それを自分にぶつけてくることはなくあくまで一人の友人として向き合ってくれる。


始めは警戒心しかなかった。

自分に借りを作ってどんなことを要求してくるのか気が気じゃなかった。

けど彼は何もしなかった。何も要求しなかった。

それからだ。自分が彼のことをもっと知りたくなったのは。

もっと彼のことを知りたい、彼に自分を見てもらいたい、彼ともっと交流を持ちたい。

日に日にそんな気持ちが高まっていった。


好きなるのは時間の問題だった。


そして今日は彼の誕生日。

聞けば彼はあまり他人に自分の誕生日を祝ってもらったことがないと言う。

ならばと、考える前に彼を誘っていた。

多少強引に話を進めてしまったことは、マスターにも注意されたし自分でも反省してる。

だからこそ今日は彼に目一杯楽しんでもらおうと思っていたのに……


「やっぱり何かあったんじゃ…」

「たか、せさん!」

「あ…」


そこには汗だくになりながら自分に笑顔を向ける、思い人がいた。



---------------



現在時刻、10時ジャスト。


「ハア、ハア、ゲホゴホ、ハア」


ここまで全力疾走してきたがなんとかギリギリ間に合うことができた。


(た、高瀬さんは、どこに……って)


いた。ていうか探すまでもなかった。

なんか高瀬さんの周りにだけなんか光が当たってない?気のせい?

最後の力を振り絞って高瀬さんの元へ向かう。


「たか、せさん!」

「あ…」


こちらを向いた彼女の顔は、不安げな顔であったがこちらを見て笑顔になった。

その顔は今までの彼女のどの表情よりも、綺麗だった。


「すい、ません…ゲホ、お腹、壊しちゃって…」

「だ、大丈夫ですから!一旦息を整えてください!」

「ほんと、すいまゴホ…せん…」


5分後……


「何か事故にでもあったんじゃないかって心配したんですからね!」

「……すいません」

「報連相は大事って習わなかったんですか!」

「……ほんとすいません、今までLINEで連絡するなんて親以外としたことなくて、ハハ……」

「あっ、その、すいません」

「いや、全部悪いのは連絡忘れてた俺なんで、高瀬さんは気にしないでください」


はい叱られました。

いや連絡するっていう行動自体を今の今まで忘れてました。


「…トラブルもありましたが、今日は葉山さんの誕生日です。楽しんでいきましょう!」

「は、はい」


そうだった。今日の本番はこれからだった。

……なんかまたお腹痛くなってきたかも。








(ああ…!疲れてる顔の大輔くんもかっこいい!)


心の中の彼女はこんなことを考えていたとかいないとか……

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