秘めたる想い sideアゲハ

 オーダーとフリューゲルの戦力差は大きい。オーダーは火星を筆頭とした宇宙民の正義であり、それに対してフリューゲルは地球という遅れている星の過激派組織。国ではなく、オーダーを良く思わないディクラインたちで構成され、活動はゲリラに近いだろう。

 私はフリューゲルが嫌いだ。両親は平和主義を訴えるユイ家だったが、無慈悲にもフリューゲルに殺されてしまった。

 憎い。平和を望むのは誰だって同じ筈なのに、それとは乖離した戦争を始める奴等が憎い。


 粛正の蛹計画。先日、諜報部が察知したフリューゲルの計画で、その内容は謎に包まれている。唯一、判明しているのは計画は随分前から発動しており、既に新兵器は開発されて、コロニーに潜んでいるということ……


 私はその新兵器捜索の任務に就いていた。

 情報はないに等しい。コロニー市民からの聞き取り捜査と同時に、虱潰しに廃コロニーを調べていた。


 そうして直ぐにフリューゲル製の兵器は見つかったのだが……とても変な奴だった。新兵器ではないのだろう。森の中から裸で現れて、友達になりたいなど戯言を抜かす変人。私の服を奪おうとしてくる変態でもある。

 しかし、その力は本物で、変身したかと思えば魔力を醸し出し、それは4444万という現行の携帯兵器以上に高く、駆逐艦一隻に相当する出力だ。

 そんな彼女はオーダー軍の学校を首席で卒業した私を一瞬で気絶させた。今にもあの光景を思い出せる。スラリと伸びた腕に、迷いのない足取り。あっという間に背後を取られてしまった。


 彼女が兵器だから?

 魔力出力が桁違いだから? 


 いや、それもあるだろうが、一番に彼女の技量は武神に達しているのだ。正直、私には彼女を殺せる気がしない。


 目が覚めた時には何故か戦闘機に乗っていて、彼女に捕らえられていた。分からなかった。彼女の口ぶりは私の部下を一人も殺しておらず、それなのに追っ手に怯えているようで、きっと優しくて臆病なのだろう。兵器らしくなく、寧ろ人間臭い。


 そんな彼女からまた友達になりたいと言われた。無防備にも縄を解かれた。優しさに包まれたと錯覚するような熱い瞳、それでいて矜持を感じられて、その真摯な態度に、私の中にあった彼女への懐疑心は溶かされた。彼女に惹かれた。一緒に居たいと、純粋に思った。


 だから、つい、我がユイ家の名前を上げてしまった。ユイ家は由緒正しい平和主義の家系なのに……彼女なら悪用はしないだろう。そう確信している自分がいる。

 

 それから私はこっそりと本部に生存報告し、記憶を取り戻したいと言った彼女に付き添った。

 オーダー軍が管理するコロニーへ誘導し、そこの図書館で情報収集。その後は最高級のホテルを手配した。


 ホテルではワインを強請られたが、彼女は子供だろう? 実際の年齢は分からないが見るからに子供だ。


 それにしても彼女が施してきたマッサージは何だか変な感じがした。いや、どちらかといえば気持ちよかったのだが、神経を逆撫でされているようで落ち着かない。

 幸いなのか、マッサージ途中で彼女が「我が生涯に一片の悔いなし……」と言い残して気絶したのは何故だろう。もしかしてあれは演技で、私は焦らされていたのだろうか?


 しかし、それを訊こうにも彼女はもういない。フリューゲルの攻撃から私を助け、何処かへ行ってしまった。報告では例の新兵器とだ、だだだ抱き合っていたようだが、どういう関係なのだろう。もしかして記憶を取り戻して、フリューゲルに帰ったのか? 私を裏切ったのか? 私は友達ではなくなったのか?


 それを知るためにも私は……この軍で上り詰めないといけない。そして、フリューゲルを殲滅し、この世に平和が訪れた時、彼女を友達として、同志として、家族として迎え入れたい。

 ああ、その時が待ち遠しい……

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