第4話

そして分かれ道の手前。

正也の目の前が真っ暗になった。

少し間をおいて急ブレーキ、女二人の悲鳴が連続して聞こえてきた。

そしてしばらくして正也の目が見えるようになった時には、車は再び村の中にいた。

横にはまたもや腹立たしいことに二体の地蔵が。

四人とも口を開かなかったが、やがてみまが言った。

「また同じことの繰り返しだわ。なんとかしないと。ねえ、ここの人たちに聞いてみるのはどうかしら」

「聞いてみてどううするんだよ」

 と陽介がふてくされたように言った。

「そんなの聞いてもないと分からないじゃないの!」

当たり前の話だが、二人ともいらだっていた。

普段はいつも冷静で、感情的になるなんてことがなかったみままでが。

正也が口をはさむ。

「とりあえず聞いてみよう。それが先だ。どうするかを考えるのは、その後にしよう」

陽介はまだぶつぶつなにかを言っていたが、一応は同意した。

それにしてもさやかが大人しいのには驚いた。

ヒステリックに騒ぎ続けると思っていたから、これは助かった。

さやかが騒ぎ出したら誰にも止められない。

彼氏の陽介でも無理だ。

それなのにちょっとしたことで大騒ぎしたことが、短い付き合いの中で何度か見たことがある。

おそらく、展開及び現状があまりにも異常すぎて、頭がついていってないのだろう。

正也はそう思った。

そして四人で車を降り、一番近い民家へと向かった。

最初に訪ねた家だ。

呼ぶとさっきと同じ還暦前の女が出てきた。

「なんでしょうか?」

正也が聞いた。

「すみません。どうも道に迷ったみたいなんですが。この村から出るには、どうすればいいでしょうか」

女が答える。

抑揚も感情もない声で。

「ここは一本道だから、西に行くか東に行くか。そうすれば村を出られるね。それしかないです」

正也は感じた。

最初の時にも思っていたが、どうもこの女には感情とか人間味と言ったものが、人一倍ないように思える。

顔もまるで能面のようだし。

しゃべっていても動くのは口だけで、それ以外の顔のパーツの全く変化がない。

まばたきすらしないのだ。

その顔は気味が悪くて仕方がなかった。

「そうですか。わかりました。どうもありがとうございます」

正也がそう言い、そのまま四人で車に戻った。

「それで、どうするんだよ」

陽介がそう言った。

不機嫌な声で。

「戻れないんなら、先に進むしかないだろう。道は一本道だそうだから。今のところそれしかなさそうだ」

正也がそう言うと、「わかった」と言った後、陽介は車を走らせた。

何度も通った道ではなく、その反対側に車を進めた。

川を挟んで左右に細長い集落。

しかししばらく走ると山の中に入った。

来た道と同じく下り坂だが、その勾配は緩いように思えた。

カーブも少なく、相変わらず進行方向の左側には川が見える。

山の中にしては大きく緩やかな川だ。

――この川は……。

地元を離れてこの地に来てから数か月しか経ってないが、正也はなんだかこの川を知っているような気がした。

何故そんな気がしたのかは、正也にもわからないのだが。

車は走り続ける。

ひたすら山道を。

そしてみんな無言だった。

正也もそうだが、こんな時にしゃべることなど思いつかないのだ。

考えていたよりも、山道は長かった。

戻った時にはしばらく走ったら村に戻されてしまったが、そんなこともなく車は順調に進んで行く。

――これはもしかしたら、ひょっとして……。

今度はあの村に戻されることなく、そのままどこかに出られるのではないのか。

正也はそう思い始めていた。

しかしそうだったとしても、いつになったらこの山道を抜けられるのだ。

道が下り続けている以上、どこかの街に出られるとは思うのだが。

だがもう一時間近くも走り続けている。

とっくに山は越えて、ふもとに降りているはずなのだが。

しかしまだ車は山道を走っている。

車は今、どこを、どの道を走っていると言うのだ。

こんな道がいったいどこに存在するのか。

そんなことを考えている間も、相変わらず誰も口を開かない。

が、突然聞こえた。

「きゃっ!」

さやかの声だ。

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