第31話 弟だって許しませんっ!2




「ふ~さっむーー・・・・・・てか、まりあちゃんその格好可愛いね。クマさんとか嫌じゃないんだ」


「うるっせ。格好なんかどうでもいいわ!!あったかいが正義じゃ!」



 冬休み。いつもよりも大幅に気温が低く、珍しく積もった雪にはしゃぐ弟たちは元気に庭を駆け回って雪合戦の真っ最中だ。

 海矢は寒さが苦手だが、可愛い弟たちの様子を見たいがために防寒を完全にして彼らの微笑ましい様子を眺める。海矢が今被っているのは、愛海とお揃いで購入したクマ耳フードのついた、裏表が大変温かい仕様になっているコート。寒さに弱すぎる自覚のある海矢は、羞恥などとっくのとうに投げ捨て所有する中で最も戦闘力の高いこのコートを被っているのだ。

 そんな海矢の隣では大空が同じように厚着をし、一つ年下の青年たちを肉まんを咥えながら傍観している。湯気を立てている肉まんが目に入ったことで改めて寒さを自覚し手を擦り合わせていると、目の前に半分になった肉まんが差し出された。


「寒いだろ。半分あげる」


「さんきゅ」



 海矢と大空は頬を赤くしながら、雪の上を駆け回りながら雪合戦に夢中になっている青年たちを、まるで彼らの両親のように温かく見守っていた。



 ********


「よ~し、いいかぁ。これに勝った奴が今日の添い寝相手だ!」


「ぜ~ったい負けねぇ!」


「僕も!!」


「ここは正真正銘本物の弟である僕が勝つ!」




 傍観している二人には、いや少なくとも海矢にはただ微笑ましい光景として見られていた彼らだが、実のところ雪上では肉食獣同士の闘いの如く熾烈なバトルが繰り広げられていた。

 それは突如始まったこの雪合戦で、勝った者は本日就寝時に海矢と同じベッドで寝られる権利を得るというルールが発案されたことが原因だった。

 今日は宿泊を前提とした勉強会として、主催する海野家には海矢の親友である大空、そして自称“海矢の弟たち”である竜、辰巳、そして真心が集まっている。

 朝から雪が降る中、温かい室内で皆でこたつに入りながら『これわかんなーい』『お兄ちゃんコレ教えてー』『大空先輩、ここってこうですか?』などと騒がしく休みに出題された課題をこなしていたら、愛海がふと窓の外を見て叫んだのだ。


「見て!雪が止んだみたい。すっごい積もってるよ!!」


 その言葉に一年生組がこぞって窓にかじりつき、顔を窓ガラスに押しつけながら見事に積もった真っ白な地面に目を輝かせた。

 すると真心がぼそりと『雪合戦、してみたい・・・』と零し、それに愛海も賛成の意を表した。大人ぶって課題がまだ終わっていないからと興味のないフリをするが、本当は気になって仕方がない様子が見てわかる竜。明らかに課題に身が入っていない辰巳。海矢と大空は『課題を終わらせてから』と反対派だったのだが、皆のその様子に『じゃあおやつの時間までな・・・』と即折れてしまった。

 しかし今目の前で元気に走り回る楽しそうな姿を見て、折れて良かったと思う。が、それにしても寒い。彼らは外に飛び出した瞬間雪遊びを始めてしまったので、海矢ら二年生組は傍観の位置についてしまったが、じっと立っていると身体が芯から凍り付いてくるようだ。鼻を赤くし手と足を擦り合わせ白い息を吐いていると、大空の手がそっと肩にかけられた。


「中に入って待っていようか」


 ちょうど寒さに限界を感じていたので有り難くその提案に頷き、もう一度幼子のような笑顔をする彼らを一目見て、海矢は大空と家の中に入った。


 ********


 パシッ


「うわぁっ」


「おっしゃ!20回当たったら負けだからな。真心はあと8回だぞ!っとうぉいっ!!」


「へへっ、油断すんなよ竜!ぜってぇ負かす!!ってうおっ!」


「ふふっ、油断してるのは辰巳もだろ!ほらほらほらぁっ」


「おいっ、そんなに連続で投げられたらっ、ってちょっと待てっ、ちょ」


 ~~~~~~~~


「はいみんな脱落・・・ってことで、今夜兄ちゃんと一緒に寝るのは僕!!」


「くぁ~~負けたーーーくっそーーー!!」


「ぜぇ、はぁ・・・・・・ごめん、愛海と真心のこと、ナメてたわ・・・・・・」


「つかれた-・・・でも、楽しかった・・・・・・」


「そうだな・・・。つーか、何だかんだ言って初めてやったわ。雪合戦」


「ちょうどいい時間になったんじゃないかな・・・寒いし家に入ろう?」



 激戦の興奮冷めやらぬまま、揃って頬を真っ赤にし『あったけー』などと言いながらドアをくぐる。愛海が上機嫌に『ただいまー』と言うが、返事はなく部屋の中は電気がついているもののシンと静まりかえっている。口々に『兄ちゃーん?』『まり兄ー?』『大空せんぱーい?』などと呼びながらリビングにたどり着く。


「あれー?どこにいるんだろう」


「自分の部屋じゃねーのか?」


「ええっ!まさか大空先輩っ、僕の兄ちゃんに――


「ああっ!!いたっ!」


 愛海がまさか自分たちが遊んでいる最中に大空が海矢を――っと海矢の部屋に向かおうとすると、突然真心が小さく叫び声を上げてリビングのソファを指差した。


「「「ああっ!!!」」」


 皆が真心の指の先にあるソファを覗くと、そこには大空が海矢を抱きしめる形で眠っている姿があった。

 二人とも弟たちの騒がしさに目を覚ます気配もなくすぅすぅと寝息を立てて爆睡している。



「「「「クッソやられた!!!」」」」


 先ほどまで海矢を取り合って争っていた四人の心は一つになった。

















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