第26話 一難去ってまた一難!?
先日起こった事件は痛い爪痕を残しながらも一件落着となり、今度こそ海矢たちにも日常が戻ってきたように思えた。
しかし一難去ってまた一難とはよく言ったもので、海矢は今、新たな不穏な種を身近で感じている。それはずばり、愛海を取り巻く攻略対象たちであった。
あの事件が収束してから、何故か彼らの態度が変わった気がする。一体どうした!?と思わず聞きたくなるほど、彼らの海矢に対する態度が違和感を含んでいるのだ。
もしかして・・・・・・と、海矢は思い当たることが一つだけあった。
それは、彼らが本来の自分たちの役割に目覚めたということだ。つまり、海矢の敵になるということである。大空だけは態度が変わらなかったため滅多なことはないだろうと腹をくくるが、まさかの唯一の味方だと思っていた辰巳もあちら側の一員になってしまったようなのだ。
今回の誘拐の件で、愛海は可愛らしく守らなければならない存在だと自覚し、ついでに自分の愛海に対する思いにも気づいた彼らは彼とハッピーエンドを迎えるために乗り越えなければならない壁=海矢に対し、どのような態度で接すればよいのか考えあぐねているのだろう。海矢はそう、分析した。
『(許さん。許さんぞ・・・・・・。いくら攻略対象だという色眼鏡を取って接したとしても、実際接したら良い奴だってわかったとしても、愛海とくっつくことは許さない!!!絶対俺が阻止してやる!!)』
と一人闘志を燃やしながら、海矢は今日も愛海の周りに陣取り自分に対しどこか変な態度を取ってくる彼らを生ぬるい目で見ていた。
どこが変なのかと具体的に言うと、まず皆どこかしおらしい。竜はいつもだったら辛口で先輩だということも忘れて食ってかかってきたり、頭を撫でるとペイッと手ではたき落とし目をつり上げて『止めてください』と言うのに、最近は手を振り落とさず撫でられるままになっている。顔は俯かせ耳を真っ赤にさせていて恥ずかしがってはいるのだが、されるがままになっているのだ。しかも手を離すとどこか名残惜しそうな様子も見せる。
これは、素直さをアピールして義理の弟候補にエントリーしようとしているなと思った。この手を使って海矢に『うん』と言わせ、言質を取った上で愛海を自分のものにし、後はデカい態度を取るつもりなのだろう。
辰巳は昔から撫でられると嬉しそうに受け入れるが、彼も最近は大人しくじっと黙っており、はしゃいだりもせず静かに撫でられているし全般的に口数も少ない。
いつでも元気いっぱいの子どもではなく、愛海を守れる大人っぽさをアピールしているのかもしれない。幼馴染みポジションで長年一緒にいる愛海のことをよく知っており、ここでさらに愛海が落ち込んだときなどに静かに寄り添えるスキルをもっていれば、もう怖いものなしだろう。これは強敵である。
真心はとにかく海矢を見つめてくる。話しかけているときや、愛海と接しているときにそれは顕著で、その視線は隼のように冷たいものではないのだが、どこか目に力が宿っていて少しだけ緊張が走ってしまうのだ。向けられる大きな目の中には羨ましいという感情が見え、愛海を可愛がる海矢に嫉妬をしているのかもしれない。きっとよく見てくるのも、愛海の甘やかし方を見て学ぶためなどであるのだろう。
辰巳、竜、真心がそれぞれちゃんとした人間、海矢の思う人格的に好ましい基準を満たした存在であることは間違いないし、個別で接し彼らそれぞれにそれぞれの優しさと思いやり、強さがあることもわかった。十分わかった。だが海矢は、初めと全く変わらず誰にも愛海を渡さないと心に決めていた。
それはまだ年若い愛海の身体を心配するところから来るものと、あとは・・・・・・単純に自分が愛海離れをしていないからかもしれない。
自惚れだが、今のところ愛海の中の一番を占めているのは海矢だろう。愛海はいくつになっても変わらず海矢の可愛らしい弟で、彼と過ごす時間はなにものにも変えられない貴重なものであるし、これからも彼の成長をこの目で見ていたいと思う。だが彼に恋人ができてしまったら、きっと恋人に割く時間の方が優先されてしまうだろう。
愛海の幸せが一番であり自分の幸せでもある。それは当然のことであるのだが・・・そうであるはずなのだが、愛海が離れていって欲しくないという自分の我儘な気持ちがだんだんと大きく膨れていってしまうのだ。海矢は、改めて自分の狭量さに嫌気がさした。
そして海矢の嫌な予感は的中したのだ。
ある日の昼休み、海矢の教室へやってきた辰巳、竜、真心は皆緊張した顔をして『授業後、屋上に来てください』と言って去って行った。
とうとう、『弟さんを俺/僕にください!お兄さん!!』が来てしまうのだ。
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