第22話 犯人は・・・彼?



「・・・・・・なるほど。被害者を考えると、皆親しいもの同士のように思えるな」


「そうだな。会長のファンで私物を盗むという動機なら理解できるが、その後に矛先が一年生たちへ向くというのも気になるところだ」


「会長の被害はすでに止んでいるのが気になるな」


 海矢、そして愛海、辰巳、竜、真心が盗難の被害に遭ったということは秘密裏に風紀委員に伝えられ、波と茶介が議長を務める会議では様々な意見が飛び交っていた。

 事件が起こる前後の出来事として生徒会に一時参加していた犬君隼の存在も浮上したが、彼が南校へ帰った後も被害は続いているのでその線はないと外された。

 委員たちは意見を交わすが、まず海矢の私物を盗むという行為の後に彼の親しい間柄の者たちのものも盗むということに対し、犯人の動機がわからないでいた。海矢に対する嫌がらせのつもりならば行為が止むのも、対象が変更、また一気に増えるということもおかしく思える。反対に好きだからという理由でも、同じ点が疑問を抱くポイントとなるのだ。

 また一年生たちの被害は皆同じ犯人だとしても、海矢のものは別だという意見も出たが、あまりにも時期ややり方が同じなのでその考えは保留となった。


 一方生徒会室では、非常に気まずい空気が流れていた。といっても、それは海矢だけが発しているものだが。風紀委員から報告書を貰うのを待っている間、皆『犯人は誰なのか』を話しながら普段の仕事をこなしていたが、海矢が皆に知られたことがなんとなく恥ずかしくまた今まで黙っていたことにも引け目を感じていたのだ。

 ちらちらと心配げな視線を向けられるのはは竜も同じなのだが、彼もまるで無関係かのように海矢の話に参加している。竜は被害者意識が薄くないか・・・?と思いつつも自分も自分のことよりも彼らの方が気になるし心配なのだが。


「あーあ、まりあのパンツ、どこ行っちゃったんだろうね~?」


「いや違うわっ!シャツだわシャツ!!」


 進まない書類に溜息を零していると、一人優雅に休憩していた大空が皆に聞こえるような声で話す。大空の言葉にギョッとしすぐに訂正するがなかなかしつこく、それに乗せられた皆もさらに許せないという怒りの炎に包まれていった。早く終わらせて事件を解決に導こうと士気が上がり部屋の空気も変わったことで、海矢も目の前の仕事に意識を向けられるように心を入れ替えることができた。大空のくせに・・・こういうところは空気が読める奴なのだ。


 ********


「犯人の動機、また被害者たちと同じクラスなのかどうかはわからなかったが、設備されている監視カメラの確認許可は出た」


「出席簿はダメって言われちゃったけどね~」


 次の日、生徒会室にやってきた波と茶介は昨日の会議を纏めた報告書をカメラの確認許可証の写しと一緒に手渡してきた。当然更衣室の中にカメラなどはないが幸い更衣室の前の廊下が映るカメラは設置されており、それを確認すれば決定的なとまではいかないが、犯人への手がかりにはなるだろう。海矢は礼を言って二人から書類を受け取った。


「出席簿、個人情報だからダメって言われたけどさぁー、監視カメラもだよねぇ?」


 なんでかなぁー?と不思議がる茶介だが、海矢は理由がなんとなくわかるような気がした。この学校は一学年でもクラスの数が多く、出席簿ととなると個別に教師たちに許可と取る必要がある。その困難さと、それに稀に出席簿に生徒の評価を書く教師もいることから、見られると困るという面もあるのだろう。考えられることを話したら茶介も納得したが、特に盗難が起きた時間帯に頻繁に授業を休んでいる生徒がいないかを知ることができたら手がかりになると意見が一致した。教師への聴取は風紀委員の方でしておいてくれるそうだ。

 これで犯人がわかれば良いのだが・・・・・・と海矢は心から願うのだった。


 ********


「教師たちにそれとなく聞いてみたのだが、欠席する授業の多い生徒は特にいないそうだ。まだ全員に聞いたわけではないがな。残りの教師にも聞く予定だ」


「そうか、ありがとう」


 波から報告を受け、礼を言いながらパソコンの操作をする茶介の様子を見る。これから風紀委員の別室で波と茶介、海矢と大空で監視カメラの映像を確認するのだ。


「OK。いい?流すよ?日付は・・・、〇月×日だよね?」


「ああ。頼む」


 再生された映像を覗くと、生徒たちの無防備な日常の様子が流れている。こんなふうに、誰かに見られると思うとゾッとすると大空が言ったが、その言葉に海矢は同意する。自分では特に意識していなくても嫌な癖などが外に出ていたらと思うが、それはそれで自分で確認してみたいとも思った。


「あ、ストップ!!ここ!コレ!この人怪しくない!?」


「茶介、今のところを少し巻き戻してくれないか?」


着替えた生徒たちが体育館へ向かっていき、しばらく誰も通らなかった廊下を一人の生徒が通り過ぎた。大空が指摘し茶介に拡大してもらった生徒の腹部を見ると、異様に膨らんでおり怪しさが感じられる。

 彼は確か合同授業の際にいた他クラスの生徒で、途中突き指か何かで保健室へ行っていたような記憶がある。


「ああ。彼は俺のクラスの生徒で、この日は突き指したと言っていたが・・・映像では腹を押さえているな。それに、保健室へ行くには一度更衣室へ入るのもおかしい」


波がそう言うと、全員の視線が彼の腹部に集まった。どう見ても、怪しい。この生徒が海矢の下着を盗んだ犯人なのかと思って見ていると、彼はすぐに来た道を戻っていくのが見えた。指には波と海矢の記憶通りテーピングをしていたので、保健室に行ったのは本当のことなのだろう。だが帰るときには腹の異様な膨れは見られなかった。

 保健室は一階にあり、体育館から行くとなると往復時間にそんなに時間はかからない。それこそ映像の中で生徒が行き来している時間が妥当だろう。治療を受けている時間も含めてだ。とても二階の教室まで行きどこかにしまう時間などないだろうし、それならば目撃情報が出てもおかしくない。体育の時間に二階を通った生徒はいなかったらしいので、やはり彼は怪しいが犯人だと特定することはできないだろう。

 映像を次の授業の日に切り替えて見ていくと次に目にとまったのは一人の生徒で、彼は授業が始まる前の誰もいない更衣室に入ってすぐに出てきていた。入る時も出るときも学生服で、胸元のバッチは一年生のもので明らかにおかしい。それに彼は鞄を抱えた状態で現れた。彼の様子にこの場にいる全員の目が一つのことを物語る。彼が犯人だと。


 海矢がその生徒を見て驚きに目を見開いたが、それは彼が先日温室で海矢に告白してきた生徒だったからだった。驚いていた海矢の様子に大空が知り合いなのか問い、先日のことを話すと『あちゃー、それじゃあ、腹いせ的な感じかな?』と苦い顔をした。

 まだ他の映像を見てはいないが、普段海矢と近い愛海や辰巳、竜や真心が嫉妬心から狙われたと考えることもできるため、彼が犯人だという線は濃くなった。しかし他人に嫌がらせをするようには見えない彼がそんなことをするだろうかと、海矢は一人、首を傾げていた。



「うわっ、こいつ謹慎処分になった奴じゃん!懲りねー奴らダナ」


 茶介は流れる映像の中で、まさかカメラで撮られているとは思いもしないだろう真心の件で謹慎をしていた生徒たちが愛海の体操服を手に取って持ち出すところを見てそう叫んだ。波は無表情のままで、大空はうわ~と完全に引いた状態、そして海矢は怒りが全身を支配していた。頭は怒り一色で、握った手はぶるぶると震えている。


「ぶっこr――


「わーわー生徒会長が言ってはいけない言葉!!落ち着けまりあ!!」


 大空に肩に手を置かれ、落ち着くように押さえられる。フーフーと息荒くしている海矢を『まぁわからんくはないけど』と言って宥めてくる。


「あっ、さっきの子もいるよー?こいつらはもう逮捕確定だなー」


 茶介が声をかけてきたので一時怒りを収め画面に視線を戻すと、四つの場面が映し出されており、それぞれで盗難が起きている様子を捉えていた。ある者は竜の私物、またある者は辰巳のものを――と同じ日に四人の私物が盗まれていたことがわかった。真心に迫った生徒たちが多かったが、その他にも数人知らない生徒が盗難に関わっており、なんとその中には先ほど海矢の私物を盗んだらしい生徒も映っていた。彼は授業後図書室で仕事をしている真心のものを盗んだようである。


「みんな監視カメラで録画されているって知らないのかなー・・・って、知らないか。ダミーだと思ってるもんね・・・・・・」


 くるくると椅子を回転させながら茶介が上を向き、回る椅子を足で止めた波は画面を見ながら顎に手を当て考え込んでいる。大空は海矢の肩を摩り、『もう落ち着いた?』と聞いてくるので適当に頷いておいた。


 全ての映像を見終え、海矢たちはそれぞれの意見を話し合った。

 盗む犯人がバラバラであり、動悸がわからないこと。犯人たちは個人で動いているのか、組織的に動いているのか・・・などなど、わからないことだらけだった。


 だが皆意見が一致したのは、真心に起こった事件の加害者たちが何らかの関係があるということ。茶介に聞けば、謹慎処分の前に真心にそうしたように彼らの恥ずかしい写真を強制的に撮り、真心のことを口走ったらこれがどうなるか・・・・・・と脅しに脅したようだ。その腹いせに生徒会長である海矢とその親しい者たちに嫌がらせをしているのか、もしくは愛海たちへの被害を終わらせたいのならば写真のデータを寄越せという意味なのか・・・・・・。

 どちらにせよ彼らも犯人の一部だということには変わりはないし、茶介の顔もすごいことになっている。『こいつら・・・マジで・・・・・・ナメてんのか??』などとボソッと聞こえたが、それを聞いて平然としている波の横で大空と海矢は目線を逸らした。


 カメラの映像で証拠は取れたのだが、あの海矢に告白してきた一年生や他にも海矢が見たことがない生徒も数人盗みをしており、一体どうしてということが頭の中でぐるぐると回っていた。














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