第20話 冷たい視線
「先輩、これはこのやり方で合っていますか?」
「ああ、完璧だ。ありがとう」
「い、いえ・・・・・・」
隼が生徒会に来てから一週間と少しが経ち、彼は完全に生徒会に馴染んでいた。海矢にとっても、彼の態度はかなり軟化したように思える。相変わらず竜の隼に対する態度は変わらないが、海矢を含む生徒会メンバーは仲間と接するように彼に接していた。その中で大空だけは竜のように、一枚壁を作っていたようにも感じられるが。
隼は臆せずはっきりさせたいことをすぐに聞いてくるし、失敗すればすぐ謝りに来る。その素直さが、好感を上げる要素なのだろう。
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「またベッタリだねぇ~」
「そうっスね・・・・・・」
海矢の聞こえないところでは、大空と竜が話をしていた。隼は今日も海矢に仕事の説明を受けており、生徒会メンバーの中で海矢に質問する頻度が高いように思える。
それに海矢は気づいていないだろうが、隼は明らかに海矢に気があるようだった。他のメンバーは『海野なら、惚れるよね・・・』という心得た表情で僅かな会話でも顔を染める隼に温かい視線を送っていたが、大空は隼の目に自分と同じものが宿っていることを知っていた。だからか、大空はどこか気にくわなかった。
一方竜も、隼が海矢に媚びを売っているようにしか見えなかった。幼い頃から交流があるが、それだけ隼の嫌な部分も知っている。そんな奴が乙女のように頬を染めて恋?と鼻で笑おうとしたのだが、そんな自分の中に焦りを抱いている自分もいることを知った。未だその感情はどうして起こるものなのか、竜は知る由もなかったが。
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「ふぃー終わった終わったー。今日もお疲れ様~」
6時を知らせるチャイムにすかさず立ち上がり精一杯伸びをする大空に続き、皆肩の力を抜いてものを片付けだした。
「あの――
「兄ちゃんっ!!」
戸締まりをし、皆で昇降口へ向かい各々が挨拶をして帰っていく。大空は早めに女子たちに絡まれ連行されて行った。海矢が靴を履き替えて鞄を持ち直すと隼が近づいてきたのを気配で感じる。何か仕事のことで聞きたいことがあったのかと顔をそちらへ向けようとした瞬間、何者かにガバリと背後から腕にしがみつかれて重心が後ろへと傾いた。
「愛海っ!」
「えへへっ!兄ちゃんも今帰りなの?」
「ああ、今日は早めに終わってな。愛海はこんな時間まで何してたんだ?」
「係の仕事!兄ちゃん一緒に帰ろ!」
「ああ。・・・そうだ犬君くん、今何か言いかけていたよな。何か聞きたいことか?」
「あ・・・・・・、いえ、何でもないです。では先輩、お先に」
腕に頭を押しつけてくる愛海の髪をかき混ぜながら愛海の可愛さにメロメロになっていると、目の前にいる隼の視線に気づき少し前のことを思い出し急いで顔を上げる。すると隼は、よく竜と会話をしているときに向けてくる目で自分たちのことを見ていた。
その冷たいような、無感情で何も浮かんでいないような瞳に少しゾッとしながら話を促すと、彼はいつもの笑みを浮かべてさっさと歩いて行ってしまった。
何を考えてるのか読み取れない視線を思い返していると、『どうしたの?』と行って上目遣いに見てくる愛海と目が合う。その威力に頭は一瞬で花畑になり、今すぐ家に帰って愛海の好物を作ろうと思った。
それから海矢は隼から向けられる視線が気になるようになった。生徒会室で竜と話しているときや、愛海や辰巳と登校してきたとき、休み時間などに図書室で真心と会話しているとき、ふと顔を上げると隼がおり、じぃっと自分たちの様子を見ているのだ。だがそれは一瞬で、もしかしたら海矢の気のせいであるということもあり得る。
海矢は、新しく出てきたイケメンな人物に警戒しているのかもしれないと思うことにした。きっと彼が愛海に近づくことを警戒しているのだ。小説の展開的に、イケメンなキャラクターは皆愛海に心を奪われるので、最近身近にいるようになった彼を注視しているのだろう・・・と、感じる違和感を片付けようとする。
そうして日々は過ぎ、隼がこの学校に来てから一週間と数日が経った。生徒会では変わらない日常が流れていたのだが、実はその水面下で海矢にはある事件が起きていたのだった。
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