第11話 新たな敵・・・?



「ああ~~前期の委員会が始まって、本格的に始まったって感じですね~~」


「そーだねー・・・・・・またこれから忙しくなるぞ~」


「こら~・・・手が止まってんぞ-・・・・・・宇佐美を見習え」


「「はーい」」


「ほーんと、新妻くんっていつもお菓子食べてる割にはちゃんと仕事はこなすよねー」


「ふふっ、そうだな。不真面目に見えるけど大空はすごいよな」


「っ!!」


 大空の少し照れたような顔に微笑み、海矢は自分の分の報告書にペンを走らせていた。ふと扉を見ると、一人の生徒が扉の前に立っている。じっと見ていると相手と目が合い、次の瞬間顔を強ばらせ走って行ってしまった。


「どうかしましたか、先輩」


「ん、いや・・・・・・竜も真面目で助かるが、時々は休めよ」


「!はい・・・・・・」


 先ほどの生徒は、何の用だったのかが気になる。見たことがない生徒だったため、おそらく一年生だと思われた。


 ********


「宇佐美いるか」


「う、海野先輩っ!宇佐美くんは今屋上だと思います。さっき海野くんと桐村くんと一緒に向かっていくのを見ましたから」


「そうか。ありがとな」


「はひぃ・・・・・・!!」


 今日は授業後の生徒会の活動はなかったはずなのだが、急遽仕事が入ってしまったのでそのことを竜に伝えようと教室を見に来たが彼はいなかった。同じクラスの生徒に聞き、最近仲の良い三人が屋上にいることを知る。顔の赤い生徒に礼を言い、屋上へと続く階段へ向かった。

 失念していたが竜とも連絡先を交換しておかなければ、と海矢は思いながら階段を上り、扉を開けた。


「あっ、兄ちゃん!どうしたの?」


「竜にちょっと話があってな・・・・・・」


「っ!」


 そこには愛海と竜、辰巳、そしてもう一人、馴染みのない生徒が輪になって弁当を食べていた。黒髪で前髪が長めの大人しそうな生徒だ。なんとなく見覚えがあり、じっと見つめてしまうと彼もこちらを見、一瞬にして顔を強ばらせた。そのときに、数日前生徒会室の前にいた生徒であると思い出した。


「話って何ですか?」


「あ、ああ・・・今日は授業後なしって言ってたけど、やっぱすることにしたからその報告だ。用事があったら無理に出なくてもいいぞ」


「今日は大丈夫です」


「悪いな急で。あと、よければ連絡先交換しないか。これからも生徒会の連絡とかあるからな」


 『ぇ・・・』と小さく声を漏らしたが、理由を説明すると納得したようにポケットから携帯を取り出して連絡先の交換をする。


「そういえば珍しいな。屋上で昼食を摂るなんて」


 海矢は竜の連絡先がちゃんと入ったか確認しながら話しかけると、辰巳が『高校生になったら屋上で飯食ってみたいって思ってたからな』と恥ずかしそうに笑って言った。時々吹く風に『想像より寒かったけど!!』と元気に笑う辰巳。

 自分も高校に入った頃に大空と同じ理由で寒い屋上で昼食を食べたことを思い出した海矢は、何となく苦々しい顔になった。


「そうそう!そしたらね、僕たちよりも先に来てた子がいてね!ほらこの子、中郷なかさと真心まこくんって言うんだ!!真心くん、こちら僕の兄ちゃん」


「よろしく、中郷くん」


「よっ、よろしくお願いします・・・・・・」


「真心くんとは合同の授業でも何度か会ってたんだよね~。あんまり喋ったことなかったけど、本の話とか面白いし!!」


「ふふっ、よかったな。じゃあ、俺はもう戻るよ。お前ら、風邪引くなよな」


「「「はーい」」」


「・・・・・・」


 扉を閉めて自分の教室へ戻るが、始終落ち着かないような様子で時折窺うように海矢に視線を寄越していた真心のことが気になっていた。だが怯えているような態度から、無理に聞き出そうとしても警戒されるだけだろう。素性がわかっただけでも収穫として、これから彼の様子などを気をつけて見ていこうと思った。そして彼の異様な様子の他にも、海矢の胸の中では真心の存在がひっかかっていた。


 ********


「ふー・・・終わりっと」


 誰もいない生徒会室に海矢の声だけが落ちる。部屋はもうすっかり夕焼けの光に満ちていて、少しだけ寒い風邪が窓から入ってカーテンを揺らしている。早い内に皆を帰らせ、一人残ってこなしていた仕事が終わり、海矢は鞄を手に持って帰ろうとしていた。しかしそのとき、鞄の中にあった本の存在に気づく。


「うわ-・・・、返すの忘れてたな。今からなら・・・うわっ、ぎりぎりだ!」


 借りていた本を返すのを、いきなり入った仕事ですっかり忘れてしまっていたのだ。返却の期限は、今日。そして図書室の閉まる時間は午後5時であり、時計を見ると五時まではあと10分だった。急いで机の上を片付けて戸締まりをし、施錠をして別校舎の図書室へと走る。


「間に合った・・・・・・」


 入ると人は疎らで、図書委員が窓を閉めるなど閉める準備をしていた。海矢は機会にバーコードを翳し所定の位置に返そうと本棚を見て歩く。


「おっ・・・と」


「うわぁっ、す、すみませんっ!」


 本の裏を見て、このジャンルはここだから・・・とよそ見をしていると前にいた生徒とぶつかってしまった。『こちらこそ』と謝りながら前を見ると相手は昼間会ったばかりの真心という生徒で、手には数冊の本が持たれていた。彼の顔を見た瞬間、海矢は重大なことを思い出した。目の前の彼が、表紙に載っていた最後の一人だったのだ!!はっとしてしばし真心の顔を凝視していたが、今の状況を思いだす。おそらく彼は図書委員で、本を棚に戻していたのだろう。そんなところによそ見をしてぶつかっていってしまったことに、申し訳なく思った。


「仕事中、本当にすまなかった。お詫びに、手伝わせてもらえないか?」


「え、ええ!?大丈夫です!悪いのはのろい僕の方なので・・・」


「一人じゃ大変だろ?手伝うよ」


 彼の後ろを見ると腰くらいの高さのワゴンが止まっており、そこにはまだ片付ける予定であろう本が何冊も積んであった。それをこれから一人で戻すのは多大な時間がかかるだろう。

 結局海矢の押しに負け小さく頷いた真心に、海矢は身長を活かして主に真心が届かない箇所の本を戻していった。


「あの、ありがとうございました・・・・・・」


「どういたしまして。俺も、他の委員会の仕事を体験したことがあまりないから、良い経験だった。ありがとう」


 ぺこりとお辞儀をし、鍵を閉めてそそくさと立ち去る小さな背中。思いがけず出会ってしまった最後の攻略者だったことが半分、戻す本が大量で大変そうだと思ったのが半分で彼のことを知ろうと思い手伝いに名乗り出たが、彼は実に真面目な子だということがわかった。竜も辰巳ももちろんすることはきちんとやるタイプであるが、真心は誰にも知られず黙々とやるタイプである。愛海の話からも本が好きなことが窺われたが、一冊一冊丁寧に扱っているところも好感が持てた。それに竜や辰巳、大空とは違い身長も愛海と同じくらいで、攻略対象者の中では小柄であり他の男たちのように警戒をする相手のようには感じられなかった。

 少しの間接してみて思ったのは、真心は良い子だということだ。それに身長だけでなく、小動物のような動作もどことなく愛海と重なってしまう。



「ただいま」


「兄ちゃ~ん!ごめんなさい!シチュー作ろうと思ったら焦がしちゃって!!」


 家に帰るとどこからか焦げたような匂いがしており、眉を潜めていると涙目で薄汚れたエプロンを身につけている愛海が玄関まで駆けて来た。一生懸命弁明してくる愛海に先ほどの真心が重なり、再び昼間の怯えたような態度が頭を過ぎる。


 確かに攻略対象者であることには間違いなく、彼を警戒すべきなのだろう。しかし海矢は、礼儀正しく頑張り屋な彼がもし何かに悩んでいるのだとしたら、自分たちを頼って欲しいと思ってしまったのだった。


 










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