第10話 爽やかな朝

 チュン!チュンチュン!

 外でスズメが可愛い声で鳴いた。朝のさえずりである。


 「あのさ、今度、旅行行かない?もちろん、二人きりで。本当はずっと前から、一緒に行きたかったんだけど、旦那さんが許さないだろうな、と思っていたから誘えなかったんだ。だけど、旦那さんが普段不在なら、大丈夫かなって。」

 育子いくこの目が爛々らんらんと輝いた。旅行は好きである。

 「本当?わあ、嬉しいわぁ。私、旅行は大好きなのよ。しかも、好きな人と二人で行く旅行、最高!ねえ、最高に幸せな旅にしましょう!」

 旅行に行くことは即決した。

 

 「俺の休みは、事前に店に伝えておけばいつでもとれるよ。いくちゃんの会社はどう?」

 「基本的にウィークデイは常勤になってるわ。だから、金曜日の午後から日曜日までしか空いていないけれど、事前に伝えておけば、有給はまだかなり残っているわ。」

 「そうなんだ。じゃあ、有休をいつ取るのかを伝えておけばいいんだね。貴重な有給だから、大切に使っていかなきゃだね。それじゃ、再来週の金曜日の夜から、日曜日までとして、夜行バスか何かでどこかに行く?」

 「先に行き先を決めなくていいの?」

 「特に行きたいと思う都道府県は・・・そうだなぁ、いくちゃんは?」

 「そうね、拓斗たくとが行きたいところならどこでもいいわよ。拓斗の部屋、ネット環境ある?」

 「Wi-Fiがあるよ。パソコンで調べてみよう!」


 「拓斗、ホットコーヒーれていい?」

 「ああ、お願いします。俺の分も!」

 二人は朝から、ホットコーヒーを飲みながら、ネットで旅行ツアーを探し始めた。


 「いつかは海外にも、いくちゃんと行きたいと思ってるよ。」

 「!」

 「今回は、一泊二日か二泊三日の国内ツアーにしようね~。」


 育子は、離婚は面倒くさいので、婚姻関係はそのままにして、若くてカッコイイ男と遊びたいだけである。

 本音を言えば、ホストクラブの中で会うだけでいいのである。閉店後に拓斗の家に泊まることが定着してしまったが、正直、気分転換したい、現実逃避したい、夢が見たいだけなのである。

 何故、拓斗のような若くてカッコいいホストが、自分なんかにこんなに入れ込むのだろうか。やっぱり、違和感があった。


 「拓斗。」

 「ん?」

 「若いガールフレンドとか、いないの?」

 「え?どういう意味?」

 「だって、私なんて、もうおばさんじゃない?拓斗はお姉さんって言ってくれるけど、拓斗とは歳が一回り以上も離れてるし。拓斗みたいなイケメンホスト君はさ、もうちょっと若くて可愛い彼女が居てもおかしくないと思うし。どうして私なんかみたいなおばさんに、ここまで付き合ってくれるの?」

 「好きなんだも~ん。」

 そう言うと、拓斗は育子の、横ジワのある額にキスをした。

 違和感から聞いてみた育子だったが、こういうことをされると、夢の世界の住人になり、幸せに浸ってしまって、何故あんなことを聞いたのか、その理由を忘れてしまうのである。

 「おばさんが好きだなんて。もの好きなイケメンもいるのね。」

 育子は真っ赤な顔で、残りの理性を振り絞って言ってみた。

 「何言ってるの?いくちゃんは、可愛いよ。」

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