『勇者転送』ビキニアーマーの傭兵⁺神の切り札は欠陥だらけ₋

猫背族の黑

 ⁺₋

第一章 赤のシェリー、緑のフィノ

第1話 1000人斬りの異名を持つ男



 太陽が登り始めた頃『城塞都市カオス』の正門から街道へ抜けるパーティーがいた。

 赤外套ポンチョのシェリーと、緑外套ポンチョのフィノ、そして荷馬にばのペドロだ。

 二人は外套ポンチョで身体を覆い、身体のシルエットこそ見えないが、外套ポンチョから伸びる美しい四肢は遠目からでも魅力的な女という事を認識させた。


 体躯たいくの良いシェリーは背中まである赤髪をフィッシュボーンにまとめ、小柄のフィノは三角帽子から緑髪のおさげをのぞかせている。


 二人と荷馬だけのパーティーは街道に潜む邪悪にとって格好のまとだった。


 二人がカオスから離れて一刻程たった頃、街道沿いに茂る青草の中から複数の男が突然躍り出た。手には凶悪な曲刀シャムシールをそれぞれ持ち、獲物に逃げられないよう道に広がる。

 

 前を塞がれた二人は後ずさりしながら男達の出方を伺っていると、茂みの中から更に一人の巨漢が現れる。男は右肩に巨大な長剣ツヴァイヘンダーを担ぎながら二人に近づき大声で言い放った。


「女!命が惜しければ服を脱げ!」


 名のある騎士が両手持ちでも扱う事が難しい巨大な長剣ツヴァイヘンダー。男はそれを小枝でも振るように片手で振り下ろす。風を裂く鈍い音を発し、二人の目前で剣先は止まった。


「どうだ?命が惜しくなったろう?」


 男の腕は丸太の様に太く、所々深い傷跡がある。

武器を扱う厄介なモンスター、ゴブリンのみならず頑丈なオークの集団さえ軽々と蹴散らせる事を歴戦の姿が物語っていた。

 並の兵士なら戦意を喪失する恫喝を受け、シェリーはフィノを庇うようにして前に出る。


「へへ、この女とんでもねぇ上玉じゃねえか」


外套ポンチョも一級品だぞ、この見事な色艶いろつやを見ろ、俺達にもようやく運が回ってきたな」


「こりゃあ荷の方も期待できるな。どうした?怖くて声一つ上げられないか?」


 ニヤニヤと下卑げひた笑いを男達は女達に向けた。


「ヒヒーン!!」


 馬のペドロがいななく。

 シェリーとフィノは新たに後ろから凶悪な曲刀シャムシールを持った男達が近づいて来ていることに気付いた。前後を挟まれてしまい逃げ場は無い。

 前に6人、後ろに4人、左右は足場の悪い青草。


「おうおう、馬が変わりに鳴きやがったぜ」


 男達は一斉に大声をあげて笑う。

 場の緊張感が緩んだ事を察したフィノはシェリーの背に隠れて耳打ちした。


「さぁ、命が惜しければ言うとおりにしろ!」


「…わかった」


 フィノは背伸びをしてシェリーが着ている外套ポンチョの背にあるボタンを外していく。


ストン


「「「うおぉぉーー!!」」」


 赤外套ポンチョが地面に落ちた途端、その場にいる全員の目を奪った。

 谷間ができるほど豊かな胸を守るには不十分な赤い胸当て、くびれたウエスト。局部を守るのは薄く地肌が見えそうな生地であり、更に太ももにさえ至らない赤の垂布。張りがあり柔らかそうな形の良い尻。

 成人男性の平均身長より背が高いシェリーのそれは破壊力が違った、バランスの良い見事な肉体に男達は釘付けとなり我を失う。

 透明感のある肌は光を反射するようにすら感じられ、その姿は美の女神と言っても誰もが納得いくような男達の理想だった。

 下卑た笑いは消え、歓喜の歓声が高く高くあがり続ける、女日照りの男達には刺激が強すぎて、砂漠でオアシスを見つけた様に発狂した。

 男達の視線はシェリーの全身を舐めるように蹂躙じゅうりんする。隣にいる小柄なフィノに注意を払う者は誰一人としてなかった。

 

「お、おい、俺達も前をおがませてもらおうぜ」


「あ、あぁ」


 シェリー達の背後にいた4人の男達はシェリーの後ろ姿だけでは満足出来なくなり不用意に持ち場を離れシェリーに近付いた。


 太陽の反射か鋭い光が一閃する。


「あ、あれ?」


 4人の男達は首に違和感を感じ、首筋を触る。


ぬちゃり


「ぎゃ、ぎゃぁあ!!?」


一人ひとりは叫びながら血の泡を吐き

一人ひとりは首を押さえたまま立ち尽くし

一人ひとりは腰が抜け頭部が転がり

一人ひとりは落ちた頭部で自身の身体を見上げた


「な、何事だ!?」


「お、おかしら!あれ!」


 男達は仲間の悲鳴で夢から現実に引き戻される。

 男達は現状を把握しようと仲間に視線を向ける。

 男達の視界に緑の影と鋭い光が同時認識される。


ぬちゃり


「「「ぎゃぁぁーー!!」」」


 同時に6人の首無し死体ができあがる。

 巨大な長剣ツヴァイヘンダーを持っていた巨漢も例外ではなかった。


「お疲れさま、相変わらずの腕前ね」


「シェリーの身体こそ相変わらずだよ、魔性の女め」


フィノは長細剣サーベルの血を払い、外套ポンチョの中のさやに収めた。


「ヒヒーン!」


「ペドロも同意だって」


「…イジワルね」


これは赤のシェリー、緑のフィノ、荷馬のペドロの物語。


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