不貞を働いた貴方に言うことは特にございません。

第1話

　私の名前はエミュレット。

　今日は夜分遅くではあったけれど、お父様から頼まれた用事があったので婚約者デネブの家を訪れました。

「ここ……ですかね？」

　聞いていた話と少し、いいえだいぶ違う安っぽい家でした。まぁ、いいでしょう。明かりが着いていたのでノックをして入ろうとすると、ベッドが軋む音と男女の喘ぎ声が聞こえました。

　私はノックするのをやめて扉の取ってを引いて見ると不用心ながら、開いており、中を見ると、二人の男女が一つのベッドに入っておりました。そのうちの男の方はデネブ。私の婚約者にございます。相手の女性は町のどこかでお会いしたことがあるかもしれませんが、名前の知らない方でした。

　掛け布団で全てが見えませんでしたが、二人の上半身は裸でございました。

「こっこれは違うんだ」

　あぁ……私はその光景を見て、気分が悪くなりました。

　毛むくじゃらの胸毛、たるんで脂汗でてかっているお腹。いつもはあそこに捨てられたように落ちている服で締め付けて隠していらっしゃったのですね。なるほどなるほど。あぁ、そのまま掛け布団をしたままでいらしてください。もう見たくございませんので。

（不幸中の幸い……いいえ、これはもしかしたら、堕ちていくデネブと婚約する私を可哀想に思われた神様からの助け船かもしれませんね）

「デネブ様。婚約は解消させていただきます。お世話になりました」

　私はお辞儀をして帰ろうとすると、

「ちょっと待ってくれっ、なっ？　怒っているのか？」

　とデネブが下着を履きながら慌ててこちらにきます。うーん、今は清々しい気持ちでいっぱいなのですが、貴方の醜い立ち振る舞いを見てしまうと怒り……いえ、不快感が強くなるような気がします。

「怒ってなどおりませんので、ご安心を。では……」

「これは……そう、遊びっ。いや……そうっ！　キミとする前に予行演習をしようと思ってさ。カッコ悪いところを見せてキミをガッカリさせたくないと思って……さ」

　デネブはカッコつけますが、醜いだけです。それに、ありがたいことに十分カッコ悪いところを見せて頂きました。では……

「はぁっ！？　遊び！？　予行演習！？　ふざけんなっ！！！」

　私が会釈して帰ろうとしたら、不貞行為を働いていた女性が大声を出してきました。ふざけているのは、貴女でしょうに。あぁ、この家は壁が薄いし、近所にも近いのだから、ご近所さんが起きてしまったようです。消えていたご近所の家の光がつき始めてしまいました。

「今のは………なっ？　だから、静かに、冷静に、冷静に」

　デネブは今のはなんだと言いたいのでしょうか。でも、良かったです。彼の関心か彼女に向いた隙に私は家を出ます。

「あっ、わかったわ。近いうちに大金が入るってあの女のことでしょ？　ふーん、良い家のお嬢さんって感じだし」

　私はもう興味がないですし、婚約者でもないので振り返らずに帰りました。

「こんばんは」

「あぁ、こんばんは。あんた、デネブのところで何かあったのか知っているかい？」

　近所の方とすれ違ったので、挨拶をすると、質問されました。

「さぁ……？　どうされたんでしょうね」

　私はそのまま帰りました。