第4話

 馬車の中でずーっとおじ様は私の手を握って、自慢話のようなことを話していた。

 けれど、その汗ばんだ手が怖くて不快で、私はその話が全く入ってこなかった。


 しばらく進むと、道中で馬車が止まった。

「どうした?」

 おじ様が運転手に尋ねると、

「王家の馬車です」

 おじ様は不満そうだったが、それ以上何も言わなかった。どうやら、世の中では偉い方の馬車が通る時は、身分が低い馬車は道を開けて止まっていなければならないようだ。向こう側から蹄の音が聞こえて、大きくなっていく。

 その時、事件が起きた。

「どうっ、どうっ!!」

 こちらの馬車の馬が相手の馬を見て興奮してしまい、運転手がなんとか止めようとするが、こちらの馬に反応して、王家の馬も興奮してしまった。

「ちっ、馬鹿者が」

 なんとか、どちらの馬も穏やかになったけれど、おじ様は馬車を降りて謝りに行くらしい。

「おお、これはこれは王子でしたかっ!! この度は本当にうちの馬が申し訳ございません。もし、お怒りであれば、運転手の首を捧げましょう」

 大げさな言いっぷり。私が常識はずれなのだろうか。簡単に人の命を捨てるなんて発言が出てくる。

「いやいや、そんなことはしないよ。うん・・・・・・怯えなくてもいいよ」

 やっぱり、命を簡単にあつかっているのはこのおじ様くらいのようだ。ほっとする。誰が怯えていたのだろうかと、私は外を覗くと、美しい青年がこちらの馬車の馬の頬を撫でていた。

(キレイ・・・・・・っ)

 その光景がとても神秘的に感じてしまった。そして馬を愛でる彼の目はとても慈愛に満ちていた。

(彼なら・・・)

 チラっとおじ様がさっき私の足首を見たのを思い出す。青年とは対照的な濁った目。

(でもっ)

「たっ・・・」

 声が・・・。

 ギロっとおじ様が連れの人を睨む。ここで捕まってしまえばっ。

「たすけてっ」

 私は必死に彼の目を見て訴える。彼と目が合った。びっくりして見開く瞳はさらに光を集めて綺麗だった。

「いえね、すいません。婚約者がマリッジブルーになってしまったのか。きつく言っておきますので」

 おじ様が私と彼の視線の間に身体を入れる。というか、私が婚約者?

「違います、私は勝手に連れて来られて」

「これが、証拠です。ちゃんと、本人と彼女の母親に許可までもらっています」

 違う。あれはお義母様とお義姉様の字だ。私の字なんてどこにもない。

「彼女の父親は?」

「私の父親は、義理の母に毒殺されたんですっ!!」

 自然と大声が出た。

 

 ずーっと、ずーっと。

 誰かに言いたかった言葉。

 この言葉がアナタに届かなければ、私は・・・。



 



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