第8話
「スーーーッ、ハーーーーッ」
気持ちのざわつきは収まらない。
けれど、深呼吸をしたら、少しは余裕ができた。
私が考察しなければならない一つの可能性、それはカイジンがウィン王子とグルの可能性だ。
そもそも、この場所だってどうやって連れてこられたかよく覚えていない。
(あれは確か………)
私は買い物をして家に帰ろうとして、自分の家の玄関に入るところで、ハンカチで口と鼻を押さえられた気がする。道であれば、人通りもあっただろうし、私も周りを無意識に警戒……まではいかなくても、意識する。けれど、玄関の前と言うことで、そういった周りへのアンテナがオフになったところを襲われたのだ。だから、なんとなく、うっすらとは覚えているけれど、どんな人にやられたかすらもわからない。
そして、この場所に連れてこられた。
どうして、カイジンが王子とポーカーをしているのすらわからない。カイジンは一応私と同じ貴族だけれど、王と交流できる貴族の域には達していないはずだ。そう考えると、表には出てこない、裏の取引なんてものがあってもおかしくはない。そう考えると、もしかしたら、ウィン王子がカイジンに強く当たったのも騙すためのパフォーマンスなのかもしれない。そうすることで、私が騙しやすくなる。
(でも、なんで……私?)
いや、若い娘をそうやって連れ去っているのかもしれない。さっきのカイジンの顔を見れば、そんなことも平気でしそうな顔をしていた。
(でも、ウィン王子は……そんな人に見えない)
カイジンに騙されて見抜けなかったくせに、ウィン王子にも騙されていない保証はない。ましてや、ポーカーの実力はカイジンよりもウィン王子の方が上手そうだったのは、騙すパフォーマンスだったとしても、まぎれもない自分の目で見た明らかな情報だ。
(って、私はポーカーをやっていたんだわ)
グルであれば、この撒き餌は最高の撒き餌だ。こんな強い手で降りるなんて考えられる人がいたら、それはポーカーのプロでしかない。というか、プロだって、大抵の場合勝負しているに違いない。いかさまで嵌められている以外はほぼ勝つ手札なのだから。
(でも、カイジンがいかさまで、私にこの手札を持って来た。それは、ウィン王子へもできるってことよね)
私はきっと、ギャンブルやいかさまには向いていない。
だって、二択でこんなに苦しく悩んだことはないもの。
(なら、ギャンブルとは考えずに…私が信じられるものは……)
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