第12話 新しい関係が構築された放課後


「明日は休みだね~! ってことで今日デートしない?」


 放課後になり、新上の近くにやって来た理沙が声をかけてきた。

 クラス中が静まり返った。

 とんでもない言葉を聞いたかのようにクラス一同の視線が新上と理沙に向けられた。

 隣の席にして幼馴染の詩織だけは心に余裕があるらしく例外で机の中にある荷物を鞄に詰め込んでいる手を止めない。

 それに比べて新上は心に余裕が全くない。

 とある理由で冷や汗が流れる。

 対処方法がわからない。

 TPOを完全に無視した理沙の一言にクラスの男子から突き刺さる視線を向けられた新上の心境を知ってか知らずか。

 新上の背中に手を乗せると、肩口から顔を出してきた。

 至近距離での笑顔はとても可愛い。

 反則だ。


「うっ……りささん?」


 親友飛び越して恋人になった。

 合わせて心理的な距離も近くなったのだ。


「もしかして照れてるの? 新上やっぱり私のこと意識してるの? 可愛いね新上。好きだよ♪」


「り、理沙? き、きゅうにどどどどうしんたんだ?」


「なになに、照れて緊張までしてるの?」


 ニヤニヤと新上を見る視線は理沙からのスキンシップ。

 身長は百五十六センチで少し小柄。

 ではあるが、色っぽさを感じさせてくる理沙に新上の心拍数が二重の意味でヒートアップ。

 付き合ったことによって今まで詩織に遠慮していた理沙の行動に一段と破壊力が増す。クラスの視線を気にすることなく、ポンッと頭に手を置いて子犬を撫でるようにスキンシップを取る理沙。


「はっ? なにアイツ?」


 嫉妬の声が聞こえた。


「どうなってんの? 詩織さんに振られた次は理沙さんに手を出したのか?」


 酷い誤解だ。

 理由を説明したくても、こめかみに浮かんだ血管を見る限り話しを聞いてくれなさそう。もう高校生なのだから少しは大人の対応で色々と解決しませんか。


「最低な男だな。白井さんに振られたことを利用して田村さんに泣き付いて同情で仲良くなるなんて」


 勘弁して下さい。

 と、言いたいのだが理沙の手が止まらない限り余計なことを言わない方が賢明だと判断する新上。


「ん?」


 新上がさっきから黙っている様子に気付く理沙。


「気になるの?」


「……うん」


「ふ~ん」


 興味なさげな返事をしてクラスに視線を飛ばす理沙とそれを静かに見守る新上。


「なるほど。確かに詩織が昨日怒った理由今ならわかる気がする」


「怒ってないよ?」


 荷物の整理が終わったのか、こちらに身体を向けて詩織が言った。


「へ~」


「理沙ぁ~?」


 頬っぺたを膨らませて抗議する詩織は可愛いかった。

 理沙に向けた上目遣いがなんともたまんない。


「あはは。ごめん、ごめん。それで明日のデートどこに行く?」


 話しが振り出しに戻った。

 なんとかこの状況を打開しようと模索する新上。

 脳内議論は数秒でこの状況を打開する解を満場一致で導き出した。

”闘争”ではなく”逃走”するしかないと。

 トイレエスケープなどは人間の生理現象を利用した者でこの状況を打開するには打って付けだ、と新上が考えていると、


 バンッ!!!


 と机を叩く音が聞こえた。

 思わずビクッと身体が反応した新上。


「あのね、理沙が誰と付き合っても関係ないでしょ! それに皆言いたいことあるならハッキリと言ったらどうなの!?」


 新上に対する陰口に我慢できなくなった詩織が鋭い視線を飛ばしながら言い放った。それを気にクラスから退散を始める過激派集団と嫉妬集団。たった一言で全てを解決する詩織の力は凄いなと感心してしまう。ハッキリという時はいう詩織に理沙が「またアンタが怒るんだ」と小声で呟いた。



 

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