第10話 変わり始めた関係は三人の意思を反映して再構築される



 自分の心と向き合う。

 詩織とどうしたいのかと?

 でも――既に答えは決まっていた。


「俺は――詩織とこれからも仲良くしたいと思ってる。やっぱりまだ好きだから!」


 新上の言葉を聞いた理沙が「うんうん」と肯定してくれる。

 未練があるのを知った上で彼女になった理沙。

 その理沙が得たアドバンテージを本当の意味で理解しているのはきっと同性である詩織。

 新上の告白をきっかけにこちらも進展を求めた理沙。

 変わらぬ関係を望んでいた詩織。

 三人の思惑にズレが生じた。

 その時点で三人の関係を構築してきた歯車は滑らかに動く事を止めた。

 でも詩織が舞台に上がることはまだない。

 まだ不確実性が高過ぎるから。

 ただし彼女は――。


「理沙ごめん。これが今の俺の気持ち」


「知ってる。そうじゃないと私も困るから」


「えっ……?」


「強がりじゃなくて意味はちゃんとあるよ。だって――」


 ――その言葉を遮るようにして、


「新上ならいいよ! 私の深い胸、その奥にあるまだ見ぬ私に触れる自信があるなら」


 一度新上に向けた視線を理沙に移して、詩織が真っ直ぐに言葉にした。

 言葉の意味がいまいち理解できない新上。

 対して理沙は。

 詩織は詩織で牽制してきたと理解する。


「やっぱり……」


 と、言葉を零す。

 恋の戦争はもう誰にも止められない所まできていた。


「学校で相談した通り、そうかな? って僅かに思うぐらい。これが本物かどうか実は私にもわからないの。だからそういうこと」


 開戦すればどちらかを選ばなければいけない男と選ばれる者と選ばれなかった者になる美少女二人。


『The triangle relationship』


 歴史の一ページはまたしても男女の友情を嘲笑うかのように恋の試練を与えようとしているのかもしれない。それも青春と呼ぶならあまりにも甘酸っぱいと思う。


「それで体調は大丈夫なの? LINEも返してくれないから心配したんだけど」


 時間が戻ったように、告白する前と変わらぬ態度を見せる詩織。

 一体どうなっているんだ?

 と、少々疑問に思いつつも返事をする。


「う、うん」


「私のせいで休んだんだよね?」


「いや、まぁ……結果的には」


「なら今度お詫びするよ。私とはなにをしても彼女さん公認なんだよね?」


 チラッと何かを確認するように。

 視線が一瞬動いた。


「限度はあるわよ?」


「え? あるの!?」


 わざとらしく驚く詩織。

 それを見てわざとらしく声を大きくして反論する理沙。


「当たり前でしょ!」


「ふふっ、だったら良かった。結局のところ今までとは変わらない私が大好きな日常だ♪ そこに恋が入ったんだね。新上?」


「なに?」


「ありがとう、私を好きになってくれて。これをきっかけに私も今後異性を好きになることがあるかもしれない。そのきっかけをくれて感謝してる」


 今まで恋に対してあまり興味を見せなかった美少女が口にした言葉に新上と理沙がピクッと反応を見せる。

 純粋無垢な笑顔はきっと――。


「私は私、理沙は理沙、新上は新上。それが一番だよね。ありのままの自分を見せれる関係がやっぱり私は一番好きだよ。だから変に私に気を遣わないで。私も変に気を遣わないから今までどおり素直な私たち三人でいようね。でも――変わらない事を望んだ私に反して変わろうとした二人。それは今考えれば年齢的にも正解だと思う。だから絶対に後悔だけはしちゃだめだからね二人とも」


 この状況を楽しんでいるのかもしれない。


「ってことらしいけど、新上はそれでいいの?」


「あぁ……」


 三人の新しい関係が構築された瞬間だった。

 今まで存在しなかった恋心が混ざった関係は今後どうなるのか。

 誰にもわからない。

 ただ一つわかるとすれば。

 もう元には戻れないということだけ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る